人権擁護機関では、人権デーを最終日とする1週間(12月4日から12月10日)を「人権週間」と定め、昭和24年(1949年)から毎年、各関係機関及び団体とも協力して、全国的に人権啓発活動を行っています。
「人権週間」に合わせて学校で授業をしたり、講師を呼ぶ学校も多いのではないでしょうか。
人権教育の際には、公平性を保つためにも、教員が気をつけなければいけないことがたくさんあります。今回は、教員なら知っておくべき「人権週間」の基本知識や、指導の際に注意すべきポイントを解説します。
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
人権週間とは?
人権週間は、昭和23年の第3回国際連合総会において採択された「世界人権宣言」の採択日である12月10日「人権デー(Human Rights Day)」に由来しています。この人権デーを最終日とする1週間「人権週間」としています。
参考文献:人権週間 12月4日~12月10日,法務省,https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03.html(参照2024-11-06)
活動テーマ
人権週間では、毎年活動テーマが決められ、学校を含む様々な団体が協力して人権啓発活動を行います。令和6年は「『誰か』のこと じゃない。」をテーマとしていました。
これまで、一番多く取り扱われてきたのが「命」をテーマにした内容です。いじめ問題や青少年の自殺の問題や生命誕生について学びます。
小学校の低学年は「命の大切さ」について学んでいき、高学年や中学生は、社会背景や自分の心と向き合いながら「自他の生命の大切さ」を考えるなど、発達段階に応じて内容を変える必要があります。
「多様性」をテーマとした人権教育
最近のトレンドは「多様性」という考え方です。「LGBTQ+」や「ユニバーサルデザイン」などがあり、「ダイバーシティ(多様性)」と呼ばれることもあります。個性や自主性というものが大切にされていく中で、周囲と協力をして生きていくためにはどうしなければいけないのか。みんながウェルビーイングになれる関係作りについて学ぶ内容です。
「思いやり」をテーマとした人権教育
次に多いのは、「思いやり」など「協調」や「協力」等をテーマにした教育です。命や多様性とも関連しますが、人が生きていくためには一人で生きていくことはできません。人々が協力をしてきた事例、どうやって接するとお互いにWin-Winの関係になることができるのかなどを考える教育です。
どの教科で授業を取り扱うの?
学校で人権教育をする際には、既存の教科の中で「人権教育」を取り扱います。では、どの教科のどこで取り扱いがあるのでしょうか。
文部科学省の「人権教育の指導方法等の在り方について」で説明されている内容を分かりやすくご紹介します。
参考文献: 人権教育の指導方法等の在り方について,文部科学省,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/jinken/06082102/009.htm(参照 2024-11-06)
社会科
はじめに「社会科」での人権教育です。小学校と中学校でそれぞれ取り扱いがあり、どちらも公民で学びます。日本国憲法の「基本的人権の尊重」の考え方から、生命の尊重、平等などについて学びます。
なぜ、人権という言葉が生まれたのか、社会で生きていくためにとても大切であるということの理論や人権ができた歴史的背景などを学んでいきます。高等学校になると「倫理」や「政治・経済」で中学校の内容を深堀するような形で人権について学びます。個人や他人の気持ちを学ぶというよりも「論理」や「背景」について学ぶのが社会科での人権教育です。
道徳
「人権教育と言えば、道徳教育」そんな風に考えている教員も多いのではないでしょうか。確かに学習指導要領においても「生命がかけがえのないものであることを知り、自他の生命を尊重する。」「公徳心を持って法やきまりを守り、自他の権利を大切にし進んで義務を果たす。」【小学校道徳】と示されているように道徳の教科書に「人権」に関わるテーマはたくさん掲載されています。
特に「内容項目」で言えば「B 主として人との関わりに関すること(親切、おもいやり など)」、「C 主として集団や社会との関わりに関すること(規則の尊重 など)」、「D 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること(生命の尊さ など)」は全学年に共通して含まれている「内容項目」であり、人権の大切や価値について考えるにはとてもよい教材です。こうした教材をあえて12月に実施することで人権に対する意識を高めることができます。
参考文献:道徳教育について,文部科学省,https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/078/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/05/1375323_4_1.pdf,(参照 2024-11-06)
特別活動
学習指導要領においても小学校で「学級や学校における生活上の諸問題の解決」や「希望や目標を持って生きる態度の形成」、「望ましい人間関係の育成」において人権教育を意識することが明記されています。学級活動だけでなく、児童会活動などを通して人間関係作りなどを学ぶことができます。
また、教科に当てはめにくい人権教育もあります。例えば「情報モラル教育」「プライバシーなどの個人情報に関わる教育」は、複数の教科を横断する内容になるので、「特別活動」や後述する「総合的な学習」で取り扱うケースがあります。
総合的な学習
人権教育を「総合的な学習の時間」に位置づけて実施している学校も多くあります。代表的なものが「体験活動」で、福祉体験や高齢者疑似体験などです。
「総合的な学習のためのプログラム」においても『次の一連の学習により、児童生徒は自己の価値に関する認識から出発して、様々な人権課題の認識、社会的背景の考察、諸人権課題共通の概念習得を経て、人権実現のための具体的行動力の獲得に到達するまで、自然な流れの中で、諸要素を総合的に身に付けることが期待される。』
1 自分が生きている価値の実感(自己についての肯定的態度)
2 お互いの間にある違いの自覚と尊重
3 人権侵害の歴史的・社会的背景と当事者の生き方の学習
4 様々な人権課題の解決に共通して必要な概念や枠組みに関する学習
(自尊感情・自己開示・偏見・悪循環・平等観・特権など)
5 具体的な場面での行動力の育成
6 人権が尊重される社会づくりにつながるような行動力の育成
上記のように位置付けられており、1から6に関連するものであれば、自由に課題設定をすることができるため、人権にかかわる内容を体験活動と関連付けて、総合的な学習で取り扱うことはよくあります。
参考文献:今、求められる力を高める 総合的な学習の時間の展開,文部科学省,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/20210422-mxt_kouhou02-1.pdf,(参照 2024-11-06)
人権教育を実施していく上での注意点
本来、人権教育は重要なことなので、12月の実施にこだわることなく年間を通して行っていくものです。しかし、内容の特性から指導をする際には、教育の中立性の確保という点で注意が必要です。
特に公立の学校の場合は「中立」の立場が原則であり、政治運動や社会運動、個人の思想を教えることはタブーとされています。人権教育は、人種や性別、思想などを考慮した上でおこなう必要があります。
特に、指導者個人の考えを子どもに教えると問題になりやすいです。人権教育を指導する際には、事前に子どもたちの状況、講師に指導を依頼するのであれば講師との打ち合わせなどをしっかりと行い、公教育の公平性を保つことを意識しましょう。
人権尊重の心を培う期間となるようにしよう
人権教育については、人権週間だから特別なことをするのではなく、普段から子どもに指導をしているのがベストです。子どもには、人権に関わる問題が起きたときにすぐに指導し、意識させることが最も効果的です。一方で、講師をよんで講演を聞いたり、体験活動をしたりというイベント的なことは人権週間だからこそでき、子どもに意識付けをさせることもできます。子どもたちがよりよく生きていくために「人権週間」を通して、さまざまな学びを提供することができればよい時間になりますよ。