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道徳科と道徳教育の違いとは?【確認するべき基礎・基本】

道徳教育と道徳科の違いって何?【確認するべき基礎・基本】

2019年度より特別の教科となり、年間35時間の授業を行うことが義務付けられた「特別の教科 道徳」ですが、「道徳教育」と「特別の教科 道徳」の違いをご存知でしょうか。
「もちろん知っている」という先生も「説明しろと言われたらできないかも……」という新任の先生、大学生の皆さんも、今一度二つの違いを確認し、よりよい指導ができるようにしましょう。

道徳教育とは?

まず、道徳教育とは何なのでしょうか。

「小学校学習指導要領」には次のように示されています。

学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。
道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とすること。…「小学校学習指導要領」第1章総則 第1節2の(2)より

具体的には国語科では話し方や聞き方の学習を通して思いやりの心を学んだり、社会科では社会の仕組みを学ぶことを通して相互理解や、よりよい学校生活を送ることのよさを学んでいたりするということです。教科学習の中にも道徳教育が含まれているということですね。 

ここで気になるのは「道徳科を要として」という部分。

では、次に「特別の教科 道徳」についてみていきましょう。

「特別の教科 道徳」って何?

現役の先生はほとんどの方がご存じだと思いますが、道徳は元々教科ではありませんでした(道徳科ではなく、道徳の時間でした)。現行の学習指導要領より、道徳は教科となりました(小学校では他教科等から先行して2019年度から、中学校では2020年度から)。

①道徳科は何をする時間なの?

まずは、学習指導要領に示されている道徳科の目標をおさらいしましょう。

第1章総則の第1の2の(2)に示す道徳教育の目標に基づき,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる。
…「小学校学習指導要領」第3章特別の教科 道徳 第1目標 より

道徳科は、子供たちがよりよく生きるための基盤となる道徳性を養うための時間です。具体的には、小学校と中学校でそれぞれ設定されている22の内容項目に分けられた道徳的諸価値について、1単位時間かけて学級全員で考えていきます。子供たちが自分との関わりで道徳的価値の良さを感じ、さらに考えを深めるのが道徳の授業です。

また、学習指導要領の総則には、道徳科は「道徳教育の要」と示されていましたね。それはどういうことなのかを見ていきましょう。

『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳』には、以下のように示されています。

特に,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育としては取り扱う機会が十分でない道徳的価値に関わる指導を補うことや,児童や学校の実態等を踏まえて指導をより一層深めること,相互の関連を捉え直したり発展させたりすることに留意して指導することが求められる。
小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳』の第2章第2節より

ここではざっくり「普段の生活ではあまり深くまで考えないことや、別々のものとして体験していることを、道徳科の時間でしっかりと見つめて考えましょうね」ということを言っています。

例えば「掃除の時間に掃除をするのは、学校が綺麗になって気持ちがいいな」と思ったことに対して、道徳科では「掃除をすると気持ちがよいのはどうしてだろう」「誰かに『ありがとう』と言われたときも、似た気持ちになるな」などとさらに考えを深めます。

このように、道徳科以外で経験したことや、普段あまり考えない道徳的価値にについて計画的・発展的に考えていくのが道徳科の学習であり、扱う道徳的価値について「補充・深化・統合」のどれを目指すのか、教師の指導の意図とねらいに合わせて、毎時間設定します。

②道徳科の学習内容って何?

道徳科の学習内容はざっくりいうと、次の4つです。

・道徳的諸価値を身に付ける

・自己を見つめる

物事を多面的・多角的に考える

・自分の生き方について考えを深める

これらは別々に行われることではありません。一連の学習の中にこれらの要素が入っているのが道徳科の授業です。ある道徳的諸価値について多面的・多角的に学び、考え、それを自己に照らして考える。そして、自分のこれまでとこれからの生き方について考えを深めるということです。

※「多面的・多角的」という言葉がたびたび話題に上がりますが、これを一つずつに分けて考えるのではなく「多面的・多角的」という言葉をひとくくりにして「一つの道徳的価値について、いろんな角度からみんなで考えよう」くらいに理解すればOKでしょう。

これらが児童にとって無理なくできるよう、道徳の学習指導過程は「導入」「展開」「終末」と大きく3つに分けて設定されることが多いです。
また、1単位時間の中で考えることを終えてしまうのではなく、授業後も「自分は今までどうだったかな」と児童が考え続けたくなるような授業をしたいですね。

二つの違いと共通点は?

道徳教育と道徳科の一番の大きな違いは、「道徳教育は学校の教育活動全体で行うもの」であり、道徳科は「道徳教育の要として行う1単位時間の授業」であるということです。
前述した通り、道徳教育は学校の教育活動のあらゆる場面で行われます。友達と仲良く過ごすことや、道具を丁寧に扱う指導など、全てが道徳教育の一環ともいえるでしょう。

それに対して道徳科は、発達の段階に応じて身に付けたい道徳的価値を補充・深化・統合し、道徳的な判断力、心情、実践および態度を育てることを目標としています。共通しているところは、どちらもよりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標にしているということです。

日々行う道徳教育で感じる道徳的価値の「よさ」や「実現の難しさ」を、道徳科で意識的に学習していくことで、一人一人の道徳性を確実に育むことを目指しているのです。

どのような効果が期待されているの?

道徳が教科化されたことの一番のねらいは「いじめ問題」の解決でした。

道徳教育の重要性を改めて認識し、その抜本的な充実を図るとともに、 新たな枠組みによって教科化し、人間の強さ・弱さを見つめながら、理性によって自らをコントロールし、より良く生きるための基盤となる力を育てることが求められます。 また、家庭や地域を始め、社会の中で人が生きていく全ての過程が人間教育の場となります。社会全体でその意識を共有し、それぞれの立場から子どもの成長に関わり、 支える必要があります。
…「いじめ問題への対応について(第一次提言)」(平成25年2月26日)

教育再生実行会議によりこのように明記されています。

豊かな心を育み、他者とのよりよい関係づくりができるようになるために、道徳教育と道徳科が重要だということを強く示していることが分かります。

現在も全国でいじめによる痛ましい事件が後をたちません。この現状を打破するためにも道徳教育と道徳科を充実させることは、全国の教職員に求められる課題でもあるのです。

まとめ

①道徳教育は、学校の教育活動全体で行うもの。(授業中でも、給食の時間でも!)
②道徳科は、道徳教育の要として機能するものであり、道徳的価値の理解を深める時間。
③道徳教育と道徳科は子供たちがよりよく生きるための基盤となる道徳性を養うために行っている。
④道徳教育と道徳科は、社会問題となっている「いじめ」をなくすための一端を担う重要な時間であり、全国の学校で充実させていく必要がある。

「道徳って何を教えればいいの?」「あまり手応えを感じない科目だな……」という悩みをもつ先生もたくさんいらっしゃると思いますが、実は子供たちの将来を左右する大事な時間です。

今一度、学校での道徳教育、そして道徳科の時間を見直してみるのもよいかもしれませんね!

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