OECD学習到達度調査2022年の結果を分析・解説!日本の教育の現状と課題とは?

令和5年12月にOECD(経済協力開発機構)から2022年に実施した「生徒の学習到達度調査」の結果が公表されました。これは通称「PISA2022」と呼ばれているもので、調査対象者は全世界の子どもになります。

PISA調査は、15歳(日本の義務教育終了時)の生徒がもっている知識や技能を、どの程度活用することができるかを目的とした調査です。日本では高校1年生を対象に、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野から1分野を重視して3年に1回行われてます。2022年の調査では、世界81か国、69万人が参加し、日本からも約6000人が調査対象として参加しました。世界の中で日本の学力がどの程度であるのか、現在の学習カリキュラムの課題は何かといった日本の教育を見直す1つの指針にもなる国際的な調査結果です。この結果を分析することで日本の教育の現在地とこれからの課題が見えてきます。

気になる2022年調査の日本の結果とは?


PISA2022の日本の結果はどうだったのかというと
・数学的リテラシー(重点分野) 【OECD加盟国内 1位】【全参加国(81の国と地域) 5位】
・読解力 【OECD加盟国内 2位】【全参加国(81の国と地域) 3位】
・科学的リテラシー 【OECD加盟国内 1位】【全参加国(81の国と地域) 2位】

上記のような結果が発表されました。

PISA2022の前に行われた2018年調査に比べ、全ての分野において平均点が上昇しました。その上、前回調査と比べると下位層の割合が減少し、数学的リテラシーと科学的リテラシーは上位層の割合が増えたという結果になりました。全ての分野で上位の数字を残していることからも、日本で行われている教育は子どもたちの力になっていることが分かりました。

参考文献:OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント,⽂部科学省・国⽴教育政策研究所,https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point_2.pdf(参照2024-6-18)

新型コロナウィルスに伴う休校期間が与えた影響

今回の調査において世界的に注目されたのが新型コロナウイルスによる影響です。全世界的に猛威を振るった感染症の影響で、どの国でも休校措置などが取られました。

調査に参加した高校1年生は、中学校1年生の春に一斉休校を経験し、その後も中学校3年生の春まで、自宅待機や感染症による休校などを経験してきた世代になります。しかし、世界的な視点で見ると日本の休校期間は3か月程度と他の国に比べて少なく、日本以上に長期休校期間を取った国は得点が下がる結果となりました。世界的に見れば、新型コロナウイルスによって「子どもの学ぶ時間」を奪った影響は大きいことを証明した結果となりました。

GIGAスクールの推進に伴う学力の変化はどうなったか


2つ目に注目されていたのがGIGAスクール構想による影響です。日本では、「GIGAスクール構想」が2019年に閣議決定されてスタートし、新型コロナウイルスの休講対策もふまえて時期を前倒しして、2020年度末に端末の整備が完了しました。

GIGAスクール構想が始まり、タブレット端末が現場に導入されたとき、「端末ばかり使えば学力が下がるのではないか」「学力をつけることができるのか」こうした声が保護者だけでなく教員からも多数聞かれる状況でした。しかし、前述のとおり、PISA2022の結果を見ると全ての分野で得点が上昇している状況から見れば、端末の導入によって学力が下がるという結果にはならなかったと現段階では見ることができます。

ICT活用状況における課題が浮き彫りとなった


今回のPISA調査の中で「インターネットに接続できるデジタル機器が十分に学校にあるか」という質問に対し、肯定的な回答は83.8%でした。また、校内のデジタル環境についても「十分利用することができる」と答えている生徒の割合は非常に高いのが日本の特徴です。環境整備に関してはOECD諸国の中でも29か国中5位の肯定的な意見が子どもから出されています。これまでICT環境がOECDの中でも遅れていた日本ですが、GIGAスクール構想の推進に伴って一気に上位まで環境面は押しあがりました。

一方で、課題として表面化したのが「教科ごとのICT利用頻度」に関する調査です。ICT端末を活用したのが「全ての授業、またはほとんどの授業」「授業の半数以上」と回答した割合は国語で15.2%、数学で16.1%、理科で22.0%となりました。この数字はOECD諸国の平均を下回っているのです。つまり、ICT環境は整っているものの「教室で行われている授業は昔のままである」ということが浮き彫りになりました。したがってPISA2022で日本の学力が上がっているのも旧態依然の教育の影響が強いと推測されてしまうのです。

日本の教育に求められる「自律的な学習」への意欲


今回の調査において日本の教育課題も明らかとなりました。1つ目は先ほど述べた「ICT活用状況における課題」です。2つ目は、「数学における実生活での活用」に関する課題でしょう。今回の数学的リテラシーの問題において、実生活と関連付けて数学的な課題を解決する問題はOECD平均値よりも低くなっています。算数や数学で学んできた知識や技能は、実生活とあまり関係がなく、数字を使って問題を解決していく能力が低いということです。数学の指導要領でも「日常の事象や社会の事象を数学的に捉え・・・」という文言が入っています。計算をすること、問題を早く解くことも大切ですが、数学が日常生活の中でどのような役に立っているのか数学を使うと分かりやすく説明することができるのかということを数学の教員を目指している方には意識してほしいと思います。


3つ目の課題は「自律的な学習に関する自信」です。自ら進んで学び、課題を解決していく意識の調査結果が他の国の結果に比べると低い傾向にあります。この課題については中央教育審議会も「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)」において解決方法を示しており、学習の個性化の項目で『子供の興味・関心等に応じ,一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子供自身が学習が最適となるよう調整する』と示されています。これを実際の授業に当てはめると「自分でその時間のめあて(目標)を設定し、課題を解決したところで自分で振り返りをする」というスタイルになります。

多くの教員は、めあてや目標を授業の最初のところで示していると思いますが、教員主導で「めあて」を決めてしまうと、子どもたちはやらされ感が強くなります。このようなスタイルではなく、子どもがその授業の目標を個々に決め、自分で勉強のやり方や量を調整していくスタイルを目指していきましょう。主体的に学ぶ機会を増やしていくと自律的な学習ができるようになってきます。

今後の課題は学校教育のスタイルを変化させていくことができるか


今回のPISA2022の調査結果から見て、日本の学力が世界のトップ水準に戻ってきたことが分かりました。しかし、知識を教え、練習を繰り返すという従来の教員主導の学習方法がまだ主流となっていることも調査の結果から見えました。今後は、子どもたちが主体的に学ぶことができるように授業改善をする必要がありますし、そのために、教員にはICT機器の活用カリキュラムマネジメントといったことが求められるでしょう。

参考文献:「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)【概要】,文部科学省,https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_1-4.pdf(参照2024-6-18)

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