夏休み明けは不登校になりやすい?教員ができることとは

文部科学省の調査によると、現在、小中併せて約25万人の不登校の子どもがいることが明らかになっています。また、そのうち半数以上の子どもが90日以上欠席しているという状況です。

今回は、特に子どもが不登校になりやすい夏休み明けを見据えて、子どもたちが不登校になる理由、そして、もし不登校になってしまった場合の教員の対応について解説していきます。

参考文献:令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について,https://www.mext.go.jp/content/20221021-mxt_jidou02-100002753_1.pdf,令和4年10月27日,文部科学省初等中等教育局,(参照2023-07-04)

夏休み明けは年度初めと並ぶ不登校が増える時期

「夏休み明けには不登校が増える」と聞いたことはありませんか。全国的な統計データは存在しないのですが、少なくとも現場に立つ教員の間では昔から言われ続けている周知の事実です。

また、長期休暇中は子たちと顔を合わせない時期が1ヶ月程度続くため、教員も子どもの状況が掴めておらず「なぜ不登校になったのか」という理由も断定できないことがよくあります。まずは、夏休み明けに子どもが陥りやすい状況と不登校との関係を探っていきましょう。

参考文献:不登校児童生徒の増加が予想される時期における重点的な対応,https://www.pref.fukushima.lg.jp/img/kyouiku/attachment/902450.pdf,平成24年,福島県義務教育課,(参照2023-07-04)

子どもが不登校になる理由は複雑

子どもが不登校になる主たる要因として最も大きな割合を示しているものが、「本人の不安・無気力」というものです。令和3年度の調査では実に49.7%もの割合を占めています。何故、子どもは無気力になるのか、その理由は次の3つが考えられます。

理由その1  疲れた状態から回復できていない

4月に新年度が始まり、環境の変化から行きにくさを感じていた子どもにとって、学校に行かないでよい夏休みは安らぎの一時です。しかし、子どもたちの疲れの原因や不安は夏を越えても消えないため、学校が始まればその問題に再び向き合わねばなりません。再び向き合える程度に気力や体力が回復していない子どもは、どうしても足踏みしてしまいます。

理由その2 宿題が終わっていない

夏休みに課された大量の宿題が終わっていないことも理由の1つです。特に「終わらせなければ」と考える真面目な子供にとって、宿題が終わっていないことは教員や保護者から叱られる要因と捉えます。更に、その後の授業についていけなくなる不安も合わされば、学校に行く気力も湧かないでしょう。

理由その3 生活リズムが乱れている

学校は朝から始まって夕方に終わります。学校がある間は規則正しい生活をしていても、夏休みに入った瞬間に夜更かしや寝坊といったルーズな生活になることも珍しくないでしょう。その生活リズムは学校が始まったからといって容易には変えられません。朝起きられないため登校できず、そのまま欠席を繰り返すと次第に学校から足が遠のいてしまいます。

参考文献:夏休み明けに不登校になるのはなぜ?復帰できない原因や学校に行きたくない理由を解説,https://sabusuta.jp/column/truancy-summer-vacation/,令和5年6月23日,サブスタ,(参照2023-07-09)

参考文献:夏休み明け 不安定になりやすい子どもとどう向き合うか,https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220823/k10013784031000.html,令和4年8月23日,NHK教育,(参照2023-07-09)

不登校の原因は学校か、家庭か、本人か

実際に子どもの不登校の要因を作り出したものを確かめるのは、不可能と言わざるをえません。あくまでも「本人の無気力・不安」は主たる要因であって、文部科学省や日本財団の調査の通り、実際には学校での人間関係家庭の状況など、多数の要因が複雑に絡み合うことで不登校になっていることが多いようです。

教員の授業や教室運営に問題はなく、家庭内の問題もないが、子どもが「なんとなく」で不登校になるケースも見受けられます。この場合、子どもの理由は本当に「なんとなく」であるため、上手に理由や考えていることを言語化できません。しかし、保護者や教員はその「なんとなく」を察せないため、子どもに注意や指導という形で子どもを責め立てます。しかし、不登校になる原因は誰か1人が悪いということではなく、それこそ子ども一人ひとり異なると言ってもよいでしょう。不登校の責任を子どもだけに押し付けることがあってはいけません。

参考文献:不登校傾向にある子どもの実態調査,https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220823/k10013784031000.html,平成30年12月12日,日本財団,(参照2023-07-09)

不登校の子どもに教員ができること

不登校が一度始まると学校へ行けない期間が3ヶ月以上続くなど長期化しやすい傾向があります。もし不登校になる兆候のある子どもを見つけたら早急な対応が必要です。始業式や数少ない夏休みの間に会える機会に、子どもたちの様子を見ておきましょう。ここからは不登校を防ぐ方法と、不登校になってしまったときの対処について解説します。

学校を子どもの「居場所」にすること

不登校を防止するためには、何よりも子どもに対して「学校にいてよい」というメッセージを発信することです。前述の文科省や日本財団の調査を見ると、不登校になる子どもの傾向として、何か学校に対する不安を抱えていることが考えられます。この不安を払拭しない限り、不登校を防ぐことはできません。学業に不安を抱えている子には、フォローアップする体制を整える、いじめのように人間関係で悩んでいる子どもには、仲の悪い相手と極力接さなくてよい環境を整えるなど、子どもが抱える不安を取り除くことが求められます。

もう一つ重要なことは、子どもが「学びたいことを学べる」環境をつくることです。学校は保護者や地域・社会から多様な役割を求められていますが、やはり最も重要な役割は子どもへの教育でしょう。既存の学習カリキュラムをなぞった授業だけではなく、子どもの興味関心を引き付け、それを更に文献やパソコンなどを使ってステップアップした勉強をできるよう学習環境を整えることも、子どもの居場所づくりには欠かせません。学校を子どもが「行きたい」と心から思える場所にしましょう。

参考文献:「時代は変わっているのに学校が変わらない」 不登校から東大現役合格も 急がれる学校以外の“居場所”づくり #令和の子,https://news.yahoo.co.jp/articles/559e4df92cc752a30a73848db887c100ba450268,令和5年7月4日,TBS NEWS DIG,(参照2023-07-09)

子どもへの接し方を見直してみる

不登校の原因は決して家庭内だけに問題があるわけではありません。友人関係に関わる問題だけではなく、教員、特に担任とのミスマッチによって登校できていない子どもが存在することは調査結果からも十分に考えられます。特に低学年であれば、「先生が怖い」というのは学校を忌避するのに十分な理由でしょう。子どもに対する暴言は以ての外ですが、同僚の教員や他の人への荒い言葉遣いも、子どもにとっては恐怖の対象です。

また、子どもへの過度な期待も子どもを不安にさせる原因となるため注意しましょう。教員は子どもに期待をかけていますが、年齢に見合わない過度な期待は、その期待に答えられなかった時の不安が、文字通りプレッシャーとなって子どもにのしかかります。どれほど優秀であっても、相手はまだ10代の子どもであることを忘れてはいけません。

無理に登校させることは逆効果

悲しい話ですが、夏休み明けの9月1日は不登校と並んで18歳以下の自殺者が最も多い日だと言われています。平成27年の調査では他の日は多くとも100人前後に対して、9月1日だけが突出して多いという結果となりました。

子どもの不登校になる原因である不安は、何かしらの形を持たない漠然としたものです。その不安に対して保護者や教員は有効な手だてを打てないため、子どもの怠慢として片付けてしまい、無理矢理に登校させます。しかし、これでは子どもの不安は解消されていません。不安が渦巻いている学校へ行かなくて済む方法を考えた子どもが、不登校や最悪の選択を取っていることは容易に想像できます。

文部科学省も平成28年に不登校の子どもが勉強できる機会を設ける「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」、通称、教育機会法を制定しました。子どもが勉強できる場所を学校に限定せず、家庭でもない第三の居場所をつくることで自殺の防止、そして、不登校になっても教育の機会をなくさないようにしています。学校としても、例えば図書館やPC教室の開放など、子どもの居場所を「教室」に限定する必要はありありません。加えて、昨今のコロナ禍でオンラインの導入も進みました。オンラインでの授業など「教室」でなくても学ぶ機会は十分に用意できるでしょう。

参考文献:18歳以下の日別自殺者数(平成27年版自殺対策白書(抄)),https://www.mext.go.jp/content/20200824-mext_jidou01-000009294_011.pdf,平成27年,文部科学省,(参照 2023-07-09)

参考文献:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(概要),https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1380956.htm,平成28年12月12日,文部科学省,(参照2023-07-09)

一人で考えずにチームで対処すること

子どもの不登校の原因はさまざまであり、原因を1つに絞ることは困難です。そのため、原因を究明しようとして担任だけで対応すると、教員自身の負担となるばかりではなく、他の子どもたちの学業にも影響します。解決をはかる前に「理由は教員だけの問題ではない」ことを認識しましょう。また、ここでいう「解決」とは、決して「登校させる」ことではないことに注意が必要です。不登校は確かに学業の遅れや進路選択などのリスクが伴いますが、同時に子どもにとっては不安から逃げる機会であり、心を休ませる機会でもあります。不登校の期間を子どもが将来どうするのかを考える機会として捉え、教員は前へ進んでいけるように促すべきです。

その上で学校長や養護教諭、スクールカウンセラーなどとチームで対処しましょう。また保護者との連携も必要です。また、昨今は不登校支援のためのNPOも数多く発足しており、不登校の児童生徒に対する支援は充実しつつあります。子どもや保護者が望む解決策になるためには、担任1人で抱え込まずに、第三者機関の力を借りることも必要です。

参考文献:不登校児童生徒への支援の在り方について(通知),https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155.htm,令和元年10月25日,文部科学省,(参照2023-07-09)

まずは子どもと話してみることから

不登校は子どもにとって自己防衛手段の一つです。子どもは夏休みが明ける前には学校への不安を抱えています。そして、その不安の根底に潜んでいるものは、誰しもが一度は経験したであろう劣等感や焦燥感、漠然とした違和感です。子どもが発しているSOSのサインを決して見逃さないためにも、まずは子どもと会話をすることから始めてみるのはいかがでしょうか。子どもにとって、教員が自分の事を理解してくれているということは非常に力になります。

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