いじめや不登校、児童虐待など、子どもたちを取り巻く課題は年々深刻化しています。一方で、そういった事態の悪化と比例する形で、教員の負荷が増大していることも見過ごしてはならない大きな問題です。
そこで最近では、学校全体で連帯・分担し課題解決に向かう仕組みづくりが推奨されており、教員以外の専門スタッフを配置する学校も増えつつあります。その中でも、福祉的な知見を持つ「スクールソーシャルワーカー」は、課題解決に導く中心人物として期待されている重要な専門家です。
本記事では、スクールソーシャルワーカーの基本情報や学校現場における役割、スクールカウンセラーとの違いなどをご紹介します。
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
スクールソーシャルワーカーとは?
「スクールソーシャルワーカー」とは、学校現場において、問題を抱える子どもの支援者として、関係機関との連絡・調整役を担う専門スタッフのことを指します。当事者である子どもの声を受け止め、彼らが持つ権利を適切に行使できるようにコーディネートすることが主な役割です。
いじめや不登校、児童虐待といった問題は、学校現場に限らず、家庭環境や地域、個人の特性などが複雑に絡み合って発生していることが珍しくありません。教員や保護者など、ある特定の立場から一方的に事象を考えると、バイアスのかかった見方をしてしまい、原因の見極めが難しくなる可能性もあります。
そこで、子どもが置かれている状況を中立的視点から把握し、包括的に働きかけていく立場として、スクールソーシャルワーカーのニーズが高まってきているのです。
1. 主な業務内容
◼︎子どもの観察・ヒアリング
スクールソーシャルワーカーの仕事において、根幹となる活動です。対象となる児童または生徒がどのようなことを考えていて、何に生きづらさを感じているのかを見極め、必要に応じて本人から状況や不安を聞き出します。
大人を警戒する子どもも多いので、時間をかけて関係性を構築していく忍耐力が必要です。また、本音を引き出すための高い傾聴力が求められます。
◼︎ケース会議
該当の子どもと保護者、担任教諭、その他の関係者などを交えて行います。この会議は、「子どものために」ではなく「子どもと共に」話し合うことが目的なので、子どもが差し置かれて大人だけで進められる状況は望ましくありません。
そこで、スクールソーシャルワーカーが「子どもの代弁者」という立場で同席し、子どもの意見を中心として話が展開されるように調整する役割を担います。
◼︎外部機関も含めた関連各所との連携・コーディネート
スクールソーシャルワーカーの真価が問われる業務です。学校内に限らず、警察や児童相談所をはじめとした公的機関などとの連携も視野に入れて、問題を抱える子どもが必要な支援を受けられるよう調整します。全ての子どもが持つ「生きる権利」「学ぶ権利」を守るために、あらゆる手段を考え、支援の輪を広げていく大切な仕事です。
2. 求められる人物像
スクールソーシャルワーカーになるための特別な資格はありません。もちろん、学校現場で学習指導を行うわけではないので教員免許も不要ということになります。
ただし、業務の特性上、教育と福祉の両領域における知識や経験が豊富である人物が望ましいのは言わずもがなです。実際に、大学で福祉を専門的に学んでいたり、「社会福祉士」「精神保健福祉士」「教員免許(特別支援教育)」などの資格を保有していたりする人の方が、スクールソーシャルワーカーとして採用されやすい傾向にあります。
スクールカウンセラーとの違い
スクールソーシャルワーカーと混同されやすいのが「スクールカウンセラー」です。スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーは、いずれも「問題を抱える子どもを支援し働きかける」という立場にあり、共通点が多くあります。具体的には、「子どもと関連各所との橋渡しとしての役割」「中立的な立場における子どもや保護者、教員(学校関係者)との相談業務」「子どもに対する支援計画の立案業務」といった部分です。
一方で、その役割や業務において明確な違いもあります。スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーの最大の違いは、何をケアするかという点です。
スクールカウンセラーは対象者の心理状態の分析やカウンセリングなど「心のケア」を担うのに対し、スクールソーシャルワーカーは家庭環境へのアプローチや福祉制度の紹介など「環境のケア」を主軸に対応します。
不登校に悩む子どもの対応を事例として考えてみましょう。ヒアリングやカウンセリングを重ねる中で、本人や保護者の「学校に行きたくない」「この先どうしよう」という恐れや不安といった感情に寄り添いケアを行うのがスクールカウンセラーの仕事です。
一方で、スクールソーシャルワーカーは本人が不登校になった根本的な原因を事実ベースで明らかにすることで、事態を解決に導きます。
例えば、その子が置かれた環境(保護者の様子や本人との関わり方、家庭の経済状況など)を調査することで、育児放棄や虐待が発覚するかもしれません。そのような場合、外部機関である児童相談所に通告し、子どもを危険から守るのがスクールソーシャルワーカーの大切な役割です。
警察や児童相談所との連携はもちろん、公的な福祉制度の紹介や利用を支援するなど、各家庭に入り込み子どもが抱える問題を環境の側面から解決していくのがスクールソーシャルワーカーの仕事と言えます。
スクールソーシャルワーカーが意識すべきこと
スクールソーシャルワーカーは子どもたちの「代弁者」です。このことを絶対に忘れてはいけません。常に子ども本人の視点で考え、発言し、行動することが求められています。もし児童虐待が疑われる子どもをスクールソーシャルワーカーとして担当したらどうでしょうか。保護者が我が子の引渡しを拒絶することはもちろん、児童相談所の介入すらさせまいと敵対心を剥き出しにしてくることもあるでしょう。しかし、これはあくまで「保護者の意思」です。本来、ここで最も重要なのは「子ども本人の意思」なのですが、家庭環境に問題を抱えている場合、中学生であっても本音を言える子どもはほとんどいません。だからこそ、彼らの代わりに発言できるスクールソーシャルワーカーが必要とされているのです。子ども本人が保護者と離れることを望むのであれば、代弁者として保護者と相談し、児童相談所へ繋げることで、彼らの生活を守ります。同時に、子どもの命に危険が迫っているような場合は、本人の意思に反してでも、保護者と引き離す方向で調整するのが福祉のプロとしての仕事です。こういったことは、学校現場で子どもと密接に関わっているからといって、教員だけで判断・対応することは難しいでしょう。福祉の知見も持ち合わせたスクールソーシャルワーカーに期待が寄せられているもう1つの理由はここにあります。
スクールソーシャルワーカーは、「子どもの代弁者」であること、そして、「子どもが抱える問題の背景までを見極め、生きていくために必要な環境を創り出す」という大きなミッションを背負っているということを常に意識しておくことが大切です。
子どもが抱えるあらゆる問題に対して、教員をはじめ、スクールカウンセラーや児童相談所など、各領域の専門家と分担・連携しながら一丸となって対応する仕組みが社会全体で整備されつつあります。
支援の輪の中心に立ってコーディネートすることで、子どもの権利や命を守るというソーシャルワーカーの重要性を自覚し、責任感を持って仕事に向き合うことが重要です。