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全国の小中学校で必須! 「キャリア・パスポート」とは?

2020年度より全国の小中学校で導入された「キャリア・パスポート」。
名前だけ知っているけれど、実際どんなものなのかよく分からないという先生方も多いのではないでしょうか。
実は子どもたちの高校以降の将来にも関わる大事な資料なのです。

今回は、「キャリア・パスポート」の基本的な内容と期待される効果について説明します。

キャリア・パスポートって何?

①「キャリア・パスポート」の概要

そもそも「キャリア・パスポート」とは何なのでしょうか。

概要を説明すると、キャリア教育の一環として、小学校6年間と中学校3年間、1年につき最大5枚の学習のポートフォリオを残すものです。
文部科学省からは「キャリア・パスポート」の雛形も配布されており、確実に実施することが求められていることが分かります。

また、「キャリア・パスポート」は小学校から中学校に引き継がれるものであり、小学1年生のころに書いたものが9年後の中学3年生まで残ります。そのため、教師が明確な意図とねらいをもって計画を練らなければ、生徒にとってあまり意味のないものがいつまでも残ってしまうという事態になりかねません。

②なぜ「キャリア・パスポート」を残すのか

では、なぜこのような活動が求められているのでしょう。

「小学校学習指導要領」の第1章には「児童が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動、計画的に取り入れるように工夫すること」という記述があります。

また、同第6章には「学校、家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の生き方を考えたりする活動を行うこと。その際、児童が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること」と示されています。これらは全て、「キャリア・パスポート」の意義や必要性を示しているものです。

その時点での目標や頑張ったこと、感じたことを資料として残していくことで、生徒たちは自分の成長を実感できることができます。そうすることで、生徒たちの自己肯定感や自己有用感を養うことにつながるのです。 

③「キャリア・パスポート」にはどのような内容を記録していく?

具体的にどんなことを「キャリア・パスポート」に記録していけばいいのか、という疑問が湧くかと思います。
まず、「キャリア・パスポート」で記録していく内容は、各学校にゆだねられています。
だからといって、「何となく印象的な行事や出来事」を残していけばよいわけではありません。学校の方針として重点化する内容を計画的に残していく必要があります。例えば、運動会を重点化のポイントに設定して、5枚のうち1枚は毎年必ず運動会の記録を残す、などという方法が考えられるでしょう。

注意点としては「キャリア・パスポート」に記録するための活動にしないことです。

「キャリア・パスポートに残さなければいけないから作文を……」「キャリア・パスポートのために五・七・五を書かせよう」となってしまうと、生徒にとっても先生にとっても負担となってしまいます。あくまでも、今までやっていた振り返りを「キャリア・パスポート」として残したり、勉強を頑張ったことを「キャリア・パスポート」として残したりするなど、「今あるものを生かす」ことが重要です。児童が振り返ったときに「ああ、このときはこんなことを頑張っていたんだな」と自信につながるようなものを残していくのがよいですね。

小中学校で期待される「キャリア教育」ってどのようなもの?

キャリア教育と言われると、職業体験や職業調べなどを思い浮かべる先生も多いのではないでしょうか。
しかし、「働くことのよさや重要性の理解」という土台がなければ、それらの意味は薄れてしまうでしょう。

小中学校の特別活動には『学級活動(3)』という時間があります。内容については『小学校学習指導要領解説 特別活動編』に次のように示されています。

この内容は,個々の児童の将来に向けた自己実現に関わるものであり,一人一人の主体的な意思決定に基づく実践にまでつなげることをねらいとしている。今回の改訂においては,特別活動を要として,学校の教育活動全体を通してキャリア教育を適切に行うことが示された。〈中略〉ここで扱う活動内容は,児童の現在及び将来の生き方を考える基盤になるものであり,学校の教育活動全体を通して行うキャリア教育や個に応じた指導,支援,相談等との関連を図ることが大切である。

…『小学校学習指導要領解説 特別活動編』第3章第1節の2(3)

以上の内容からも分かるとおり、学級活動(3)は、将来を見据え、生徒の生きる基盤を養うことを目指す時間です。 

文章内ではキャリア教育について触れられていますが、これについても『将来、どのような仕事に就くか』ではなく、『将来を生きるための基盤』をつくることが最大の目的となっていることが分かるのではないでしょうか。

もちろん、職業体験や職業調べが全く無意味であるというわけではありません。将来なりたい自分を設定するときの要素の一つとして『スポーツ選手になりたい』『看護師になりたい』など、具体的な職業をイメージする生徒も多いことと思います。小学校でのキャリア教育を通じて、『将来の夢を実現するために、今の自分の課題は何か』を考え、課題解決に向けて見通しを立てて行動することができるように、学級活動(3)の時間などを通し、指導、助言をしていくことが重要です。

例えば「将来看護師になりたい」のであれば、学習面では「理科と算数を頑張ろう」、生活面では「困っている友達がいたら『どうしたの?』と積極的に声を掛けよう」など、今からできることを意思決定し、実践していくなどが考えられます。

文部科学省では、「小学校キャリア教育の手引き」「中学校キャリア教育の手引き」という資料を配布しています。発達の段階に応じたキャリア教育の実践例や、他教科等との横断的な実践についてなどが詳しく示されています。ぜひ見てみてください。

「キャリア・パスポート」によって期待される効果

「キャリア・パスポート」によって期待される効果として、次のようなものが挙げられます。

①小学校から高等学校を通して、生徒自らが学習状況やキャリア形成を見通りしたり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐ。

②教師がその記述をもとに対話的にかかわることによって、生徒たちの成長を促し、系統的な指導を行うことができる。

つまり、子ども自身が自分の成長を可視化して積み重ねることができ、教師と生徒がより対話的に関わることができるということです。

『そんなのは今までもやってきた』という先生ももちろんいらっしゃると思います。
しかし、「キャリア・パスポート」は学校種を越えて引き継がれます。そのため、中学校に入った直後から学級担任が『この子は小学校まででこんなことを頑張ってきたんだな』『これを乗り越えたんだな』ということが的確に伝わり、ひいては生徒理解につながる可能性が高いのです。

しかし、留意点もあります。
「キャリア・パスポート」は、学校種を越えて引き継がれるものですが、これが入学試験などの合否判定に影響するようなことがあってはいけません。あくまで、児童理解、生徒理解のために活用するものです。

子どもたちにとって、「キャリア・パスポート」は、『これまで自分は何を頑張ってきたのか』『どのようなことにやりがいをもってきたのか』などを振り返ることができます。
そして、中学以降の進路の意思決定をする大きな一助となることでしょう。

まとめ

「キャリア・パスポート」元年だった2020年度は、新型コロナウイルス感染症の流行が重なってしまい、内容を充実させることに苦労した学校も多いのではないでしょうか。

しかし、今までやっていたことを計画的にポートフォリオとして残すことで、生徒たちの将来のためになるものを残すことができます。

校長先生や特別活動主任を中心として、数年後の子どもたちがよりよく生きるための資料となるようにしたいですね。

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