教員のための防災マニュアル 学校にいる時に地震が起きたら?

2024年は、地震に対する防災が改めて注目される年になりました。

1月1日に発生した能登半島沖地震、8月には宮崎県沖の地震に伴って初めて「南海トラフ地震臨時情報」が発令されています。

どちらも学校では長期休業中の出来事であったため、児童生徒の活動に大きな影響はなかったかもしれませんが、もしも生徒児童が学校にいる際に地震が起きたら私たち教職員はどのように対応するべきなのかと不安に思った教員も多いのではないでしょうか。

今回は授業中や部活動中の地震への対応について詳しく解説していきます。

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

災害時の対応は学校防災マニュアルによって決められている

はじめに、学校における防災について文部科学省は「危機管理マニュアル(危険等発生時対処要領)」各学校で作成することとしています。内容は緊急事態における児童生徒の安全確保に関する内容教職員が講じる措置の内容や手順です。

マニュアルの作成の骨子は国や自治体から出ますが、マニュアルそのものは各学校ごとに作成します。なぜ学校毎に必要なのかというと、学校の置かれている地域性や気候、環境などによって対応が変わるためです。

また、マニュアルの改定も必要になります。例えば、かつては緊急連絡方法として「電話連絡網を使って回す」という時代もありましたが、現在ではメール配信やアプリ配信などが一般的になっているのでマニュアルの変更をし、教職員だけでなく家庭に周知する必要があります。まず教員の動きについて知りたい場合は、各学校毎に作成されている「学校防災マニュアル(危機管理マニュアル)」を参照しましょう。

地震に対応はまず身の安全確保から

授業中や部活動中に地震が発生した場合、どのマニュアルにも定められていることはまず身の安全を確保することです。机の下に隠れる、倒れてくるものや落下物のない場所に移動するなど、という行動です。大規模な地震となれば数秒の揺れではなく数分間続くような揺れも想定しておかなければいけません。

そして、揺れが収まった後の行動については学校によって変わります。定番は運動場に避難することでしたが、このルールも変わりつつあるそうです。理由としては、校舎の耐震化が行われ、震度6クラスの地震であれば校舎内の方が安全であること、夏の猛暑や冬の極寒時に外に避難しても児童生徒の健康面に悪影響を与える可能性があるということからです。もちろん、津波が想定されているような地域や火事が起きた場合には校舎内にいることのほうが危険であるため、指定の高台や外へ避難が行われます。

生きた訓練にするための「避難訓練」の工夫を行う

避難訓練に関しても学校によってそれぞれです。一般的なのは地震発生の放送があり、一時避難(机の下に隠れるなど)、その後グランドに避難する方法です。

より臨場感を出すために、休み時間や部活の練習中、さらには教員にも知らせずにいきなり訓練を実施するケースもあります。地震はいつ発生するのか分かりません。また、どんな状況であっても「まずは命の確保」「次に避難」ということが、学校にいる人全員ができるよう避難訓練をしているところもあります。

ほかにも「地域連携型の避難訓練」を実施しているところもあります。実際に地震が起きると、収まった後に、子どもたちだけで下校させるのは困難です。そこで保護者による迎えで下校させることになりますが、これも簡単ではありません。保護者も子どもが小学校だけであればよいですが、兄弟が中学校や幼稚園、保育園にいる場合は、その子たちも迎えに行かなければいけません。そこで、近隣の小中学校、幼保が連携をして実際に引き取り下校訓練を実施しているところもあります。

命を守ることを最優先に!防災と減災が注目されるようになった東日本大震災

学校の地震対策は、東日本大震災をきっかけに大きく変わりました。それまでは、子どもの命を守るために建築物の耐震化、安全に避難する方法の研究が中心でしたが、東日本大震災によって地震対策の構造物が破壊され、防波堤は巨大津波の前に無力であることを証明されました。

また、震源から遠く離れた場所でも公共交通機関の停止による「帰宅難民」が発生したり、長期にわたる避難生活で精神的な負担が被災者に大きくのしかかったりする事例も発生しました。教育の世界で言えば、多数の児童が亡くなってしまった大川小学校のケースがあまりにも有名です。

この東日本大震災の様々な事例を受けて、地震に対する防災教育も変わってきました。「地震から命を守る」という一時避難はこれまで通り訓練されていますが、地震が収まった後どうするのかを考えるところが増えています。巨大地震の場合、地震が収まったからと言って児童生徒を簡単に下校させるわけにはいきません。

・登下校の道は安全なのか(ブロック塀の倒壊や道路の破損がないか)

・保護者が帰宅できているのか(通常であれば家に人がいるが保護者が帰れないケースもある

まずは、こうしたことを確認し、子どもを下校させるのか、学校で止めおくのか判断しなければいけません。次に子どもを学校に留め置いた場合です。

・いつまで留め置くのか

・食料や水の備蓄はあるのか

・学校そのものは安全なのか

こうしたことも考える必要があります。つまり二次災害をいかに小さく抑えるのかという「減災」という言葉が注目されるようになりました。学校の訓練においても、一時避難の練習ををするだけでなく

・通学路点検を実施する

・緊急時引き取り下校訓練を実施する

・行政職員や地域の人と一緒に食料や水の備蓄を確認する

こうした取組もあわせて実施するところが東日本大震災以降に増えてきました。

教職員は教員としてだけでなく「地方公務員」としての役割もある

これから教員になる人にぜひ覚えておいていただきたいのが、災害発生時教員には、「先生」「教員」としての顔と「地方公務員」としての顔がある点です。

学校では「緊急時の動員」に関する規定が設けられているケースが多くあります。例えば「管理職は震度4以上、一般職は震度5弱以上のときに出勤する」というような規定です。もちろん教員も被害を受けている場合がありますし、道路や鉄道が寸断されて出勤できないケースもあるかもしれませんが、可能な範囲で勤務地へ出勤することになります。(勤務地が遠い場合には居住校区の学校でも可という自治体もあり)

 動員がかかる理由は

・児童生徒の安否に関する情報収拾

・学校が避難所になるのであれば避難所開設の準備(行政の許可や要請に応じて)

上記のようなことをするためです。教員として働く以上は、いざというときには行政の人間としても活動しなければいけないケースがあることを知っておきましょう。

繰り返してはいけない地震の悲劇 日々の指導がいざというときに役立つ

教職員として、東日本大震災の「大川小学校の悲劇」は忘れてはいけない事例です。原因は様々な意見がありますが、多数の「子どもや教職員の命が失われてしまったこと」は事実です。

避難訓練に関しても、ただ避難するということはよく行われますし、子どもたちも理解しやすいです。しかし、その後どうなるのかというのを想像するのは大人でなければなかなかすることはできません。避難訓練も形だけになることなく、教職員がどう動かなければいけないのか、地震が収まったらどうするのかということを考えましょう。

また、マニュアルが作っておしまいになっているのではなく、本当に役立つものになっているのか、アップデートされているのかを確認することも大切です。

参考文献:文部科学省,学校の危機管理マニュアル作成の手引」の作成について,https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1401870.htm

参考文献:文部科学省,「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」の作成について,https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1323513.htm

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