トラウマインフォームドケア(TIC)とは? 子どもと向き合うために知っておこう!

過去の苦しい経験や怖い経験が突然蘇ってきて動くことができなくなるトラウマを経験したことがある人は多いのではないでしょうか。

「心的外傷」とも呼ぶことがありますが、フラッシュバック、反復的で苦痛な夢、再体験、睡眠障害等の過覚醒、回避行動などが起こり、大人でも簡単に回復することができないものです。最近では、東日本大震災などの惨劇の様子や津波の映像を見ることによって、トラウマが起きることもあるためらテレビなど放送時に注釈がつくようになりました。

こうしたトラウマになってしまったとき、多くの場合は心療内科を受診しますが、病院に行けば治るというものではありません。また、回復してもフラッシュバックを起こすケースもあります。

今回は、トラウマを抱えた子どもたちと適切に向き合うために知っていてほしい「トラウマインフォームドケア」について解説します。

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

4つの視点から子どもたちの心のケアをしよう!

感受性の高い子どもたちは大人よりも心が傷つきやすいといわれています。

例えば、

・失敗を友達に笑われたことによって人前に立つことができなくなった

・先生に強く指導されたことが原因で学校に行くことができなくなった

この2つの例は、どちらもトラウマの1つで、そのまま不登校になってもおかしくない事例です。こうしたトラウマを抱えてしまった子どもを適切にケアするため必要なことは何でしょうか。ポイントは次の4つです。

①理解する

はじめに重要なのは、トラウマについて理解することです。トラウマは多くの人が経験しているのではないでしょうか。「心の怪我」とも称されており、長期的に残ることをPTSDとも言います。

まずは、トラウマに対する「トラウマインフォームドケア」という言葉があることを知り、教員であれば、子どもたちがどんな背景で生活をしてきているのか、過去にどんな経験があったのかを理解しておくことが大切です。特に大きな災害を経験している、家庭で虐待を受けた経験があるという場合は、子どもの行動だけでなく、周囲の環境への配慮も大切です。

②認識する

2つ目は、子どもがトラウマになる状況を認識することです。教員として大切なことは、子どもの心を大切にし、命を守ることです。どんなときにだれがトラウマ状況になるのか把握することは大切ですが、一人一人の状況を認識することは難しいです。

そもそも、トラウマが表面に出やすい人(固まってしまう、逃げる など)と出にくい人(イライラや過剰な警戒心 など)がいます。だからこそ、普段から子どもの様子をしっかりと観察しておくこと、些細な変化に気づくことという「生徒指導の基本的な考え方」と同じ視点で子どもたちを観察しましょう。そして、変化があったときになぜ変わってしまったのか、どこに要因があるのかを探る際に「トラウマインフォームドケア」の考えを選択肢の1つとして持っておくことです。

忘れ物をして固まって返事をすることができない児童に対し「なぜ返事できないんだ!」と声をかけるのは簡単ですが、トラウマ状態で固まっているのであれば、理由がないので返事をすることはできません。教員自身が「なぜ返事できないのだろう?」と子どもを客観的に見ることができると、次の対応策につなげることができます。

③対応する

先ほどの「認識」の段階で、子どもの置かれている状況を冷静に考えることができれば「対応」しやすくなります。対応は「子どもの安全性を確保する」「時間を確保する」ことから始めましょう。

まずは、子どもの話している場所が安全な場所であるのかどうか、周囲に人がいるような状況では話しにくいでしょうし、閉塞感のあるような場所でも話しにくいかもしれません。また、トラウマの原因が「教員(自分)自身」というケースもあります。この場合には、他の教員や別の性別の教員の方が話を聞き出しやすいです。「子どもが安心して話をすることができる環境」を整えます。

次に、「時間の確保」です。一旦、トラウマ状態になると脱却するには時間がかかります。そこで急かすようなことを言えば、確実に逆効果になります。考えをまとめるだけの時間を確保するか、口頭ではなく文章で理由を書いてもらったり、一旦、指導をやめて時間のあるときにゆっくりと話を聞いたりするなど、膠着状態になっているところをほぐすような時間を確保しましょう。

④再トラウマ体験を防ぐ

トラウマは何度も起こりうるというのがらやっかいなところです。しかも、どんなに周囲が配慮をしていても、ちょっとしたことがきっかけでフラッシュバックするので、配慮しきれない厄介なところもあります。

そこで重要なのが、本人の力を高めていくことになります。本人(子ども)が心のけがを負いそう、悪化しそうな事態になったときは自分自身で安全なところに避難することができるようトレーニングします。子どもにとって安全な場所は身体的・精神的に安全な場所であり、「いつでもいける」「困ったら自分で行く」という主体的に動くことができるようにさせることで、本人の力を高めることができます。

特にトラウマインフォームドケア(TIC)について知っていてほしい役職

トラウマインフォームドケアは、全ての教職員が知っておきたいことですが、特に校内で知っておきたいのが養護教諭協力員などの「担任以外」の方々たちです。担任はたくさんの子どもを見なければいけませんし、集団の中で個別の支援をしていくにも限界があります。そこで子どもにとって逃げやすい場所で関わる教員(養護教諭や教科や授業の補助で入る支援員)などが、トラウマインフォームドケアの知識をもっていると、多面的な視点で子どもに関わることができます。管理職を含めて、担任とは違う視点から見ることができる教員は知っておきたい知識です。

発達障害・特別支援に関わる人は大切な知識

トラウマインフォームドケアは「特別支援教育」に関わっている教職員も重要な知識です。特別支援に通う児童生徒は、神経質な子どもが多く、ちょっとしたことでも過剰に反応しがちです。また、1つの物事に集中しやすい特性を持っている子もいます。

こうした子どもたちは、通常級の子どもたち以上に配慮も必要ですし、トラウマ状態から回復するのも時間がかかります。通常級以上に、身体的・精神的に安心することができる場所の準備と関わる教職員の知識がいります。

子どもが安心・安全に過ごせる学校へ

トラウマインフォームドケアは、難しい言葉のように思えますが、特別なことをする必要はありません。ただ、子どもと接する教職員が「トラウマ」に対する正しい知識とケア方法を知っておくことが重要なのです。

ケア方法を知らずに「怠けている」「話せない」と思って叱責をしてしまえば、一気に症状が悪化し、取り返しのつかない事態になりかねません。教職員としては早急に返答を求めたいケースでもトラウマ状態になっている場合には「返事をすることができない」のです。この点を理解して、指導にあたるかあたらないかは子どもに大きな影響を与えます。まずは、トラウマに対する正しい知識とケア方法を理解しましょう。

参考文献:【第 Ⅰ部】 トラウマインフォームド・ケアを学ぶ,厚生労働省,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000593579.pdf,(参照2024-11-20)

参考文献:子どものこころのケア(トラウマインフォームドケア),国立大学法人 大阪教育大学 学校安全推進センター,http://ncssp.osaka-kyoiku.ac.jp/mental_care,(参照 2024-11-20)

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