高等学校には、大きく分けると「全日制高校」「定時制高校」「通信制高校」の3種類があります。中学校で進路指導を経験した方には詳しく違いが分かるかもしれませんが、小学校教員だったり、これから教員を目指す人にとっては、高等学校について「何となく知っている」程度ではないでしょうか。
近年、通信制高校に通う学生が急増しています。今回は、その背景や他の学校との違いなど、教員なら知っておきたい通信制高校の基本について詳しく解説していきます。
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
全日制高校と通信制高校の違い
全日制高校と通信制高校にはいくつもの違いがありますが、一番大きな違いは、登校日数です。全日制は基本「週5日」の登校に対して、通信制の場合は「週1から5日」と登校日数を自由に決めることができます。
登校日数が少なくても勉強していない訳ではありません。日々の学習は、オンライン教材やレポート提出など登校しなくても学べる仕組みが用意されています。さらに、通学時間も自由に自分で決めることができ、午後からの学校や夜間、土日に登校を認めている学校もあります。
通学期間は基本3年ですが、全日制は「学年制」を取っているのに対して通信制では「単位制」を採用しているところが多いため、3年以上かけて卒業する人も多くいるそうです。単位制を採用しているので学期の途中での入学(転入・編入)も柔軟に対応しています。
通信制高校生が急増している理由
令和3年1月に文部科学省が公表した「高等学校通信教育の現状について」によると、通信制課程への年間入学者数は年々増加しており、2023度年には26万人を超えると発表されました。少子化の影響もあり、全日制課程や定時制課程の生徒数が減少しているのに対して、通信制は増加するという傾向が表れています。
通信制高校を選ぶ学生が急増している理由として考えられているものの1つに不登校の増加があります。小中学校における不登校(年間30日以上の長期欠席者)は令和4年度の調査で46万人を超えており、毎年数が増えている状態です。
中学校の成績は一般的に
・中間考査や期末考査などの定期テストの成績
・体育や音楽の実技テスト、日常の授業の振り返りなどから評価される成績(平常点)
この2つが中心になって内申点が出ます。不登校児童生徒の場合、定期テストを受けることができたとしても平常点が取りにくいため、一般的な入試ではどうしても不利になってしまいます。
また、公立だけでなく、私立の入試においても出席日数はかなり大きな子どもの評価基準となってしまうため、完全不登校(ほぼ学校に行くことができていない状態)の生徒の場合、全日制高校を受けても受かりにくいのが現実です。したがって、全国の不登校児童生徒の増加に合わせて出席日数の規定が少ない「通信制高校」へ進学する児童生徒が増加しています。
また、不登校を経験した生徒にとってみると「毎日学校に通う」というのは非常にストレスです。全日制の場合には、毎日通うことが前提となり、入学前からストレスがあります。通信制高校であれば「通うプレッシャー」は少ないというメリットもあります。
通信制高校の3つの特徴
通信制高校には一般的な全日制高校とは異なる特徴があります。ここではそのいくつかを紹介しますが、学校によってルールが違うので、入学希望者を指導する際には必ず進学先の担当者に確認しましょう。
特殊な入試方法と入学時期
一般的な全日制高校の場合、学力試験と内申書が合否の判定に大きな影響を与えますが、通信制高校の場合、面接や作文、書類審査がほとんどです。これは学力毎に生徒を割り振る「落とすための試験」をする全日制高校に対して、通信制高校は、通うことができるかという「受け入れるための試験」が行われるからです。不登校の子どもに配慮して、面接もオンラインで実施、書類もメールなどで郵送し試験を受けることができる学校もあります。また、学区による(県立高校の場合、原則、居住地の都道府県の学校しか受けられない等)制約もないので、学校は遠いけれど、自分のやりたいことと一番マッチしている学校を選ぶことができます。入学時期は原則春(4月から)ですが、受け入れは随時行っていますし、年齢制限もないので、病気などの事情によって高校1年生の年齢ではないけれど、高校1年生と同じ扱いで学校に入ることもできます。
通学・授業・テスト
通学ルールは学校によって違いがあります。週3日程度のところから年に2回程度の学校まであり、同じ学校でもコースによって通学頻度を変えているところもあります。通信制高校の最大の売りは「自由に通うことができる」という点です。学校側も「通学」に関してはかなり工夫しており、生徒のライフスタイルに合わせることができるようにしています。また、学期途中でのスクーリング(通う日数)の変更も認めているところがあります。
授業は、基本的には自宅へ郵送された課題を解く方法やオンライン授業が中心です。オンライン授業もライブ授業方式(決まった時間に授業を受ける)とオンデマンド配信授業方式(録画された授業を好きな時間に見る)を取っているところがあり、これも生徒が選ぶことができるようになっています。
授業があれば、当然テストもありますが、オンラインテストを受けることができたり、学校に通って受けることができることもあります。テストの日だけ通学する方法を取っている学校もあります。中学校のテストのようなペーパーテストだけでなく、レポート提出を課したり、自ら課題を見つけて取り組み、それを評価してもらう方式を取り入れるなど、全日制高校に比べて多様な評価方法がとられています。これらの評価を積み重ねていき、最終的には高校卒業と同じ扱いになります。
卒業要件と進路
通信制高校にも卒業要件があり、おおむね次の3つの要件を満たしていると高校卒業の条件を達成することができます。
① 3年以上高校に在籍している
② 卒業までに74単位を取得している
③ 30時間以上の特別活動に出席している
①~③の条件をすべて満たすと高校卒業と同じ扱いになります。
単位制なので早めに単位を取って卒業と考える人もいるかもしれませんが、「3年以上在籍」の条件があるため、飛び級をすることはできません。
卒業後の進路については、令和5年度「学校基本調査」によると就職者数が全体の約20%、大学への進学が約23%、専門学校などへの進学者が約25%となっています。
注意点は、通信制高校は全日制の高校に比べると指導内容に偏りが強く、特定の業界に強い傾向があります。例えば、パソコンに特化した通信制高校を選択すると、専門性の高い勉強が多くなるので、将来的に一般的な大学への進学を考えても対応できないケースがあります。入学するとき、希望する学校がどんなことに強いのか意識して進路選択させることが大切です。
通信制高校を卒業して活躍している人
通信制高校というと古い人からあまりよいイメージを持たれていないのも現実です。しかし、時間を自由に使うことができる、他のことと両立することができるというメリットから意外な有名人も通信制高校を卒業しています。
一例をあげると
・羽生 善治(棋士)
・森 泉(モデル)
・相葉 雅紀(嵐・男性アイドル)
などなど、アイドルや歌手から棋士、プロスポーツ選手まで多数の人が輩出されています。彼らの特徴としては、学業で高校を選択したのではなく、他の仕事と両立していくために通信制高校を選択しているという点です。
高校生活をするにあたって、並行して何らかの活動をしている場合には、活動と学業を両立させるためにも通信制高校へ進学するというのが1つの選択肢になります。
進路指導をする教員は通信制高校についても知っておこう!
進路指導をするのは非常に大変です。最終的な進路の決定権は子どもと保護者ですが、その質問に答える教員は、広い知識が必要になります。しかも一般的な高校を知っていればよいわけではなく、時代の流れに合わせて変化していく高等学校事情も常に最新のものにアップデートしておかなければいけません。
子どもや保護者からの質問に対して、いつも「ちょっと待って」や「分からないな」と言っているようでは、信頼関係を一気に壊してしまうことにもなります。最低でも、中学校卒業後にどんな選択肢があって、それぞれの長所・短所ぐらいは知っておく努力はしましょう。
参考文献一覧
参考文献:高等学校通信教育の現状について,文部科学省 https://www.mext.go.jp/content/20210226-mxt_koukou01-000013082_04.pdf,(参照 2024-10-10)
参考文献:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm,(参照 2024-10-10)
参考文献:学校基本調査(令和5年度)https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm,(参照 2024-10-10)