生徒に助言を与えたり、時には厳しく叱責したりー。生徒指導の際、教員側が積極的に働きかけて生徒を正すという手法は、教育現場で昔から広く浸透している指導法です。しかし、指導が一方的になり過ぎると、生徒たちにかえって悪影響を及ぼしてしまうこともあります。こうした事態を避けるべく近年注目されているのが、「コーチング」です。
コーチングとは?
「コーチング」は、教員があれこれ生徒を諭したり答えを教えたりすることはなく、生徒に自ら考え判断してもらい、自発的な成長を促します。簡単に表現すると、教員が生徒を後押しする指導法と言えます。
これに対し、教員が積極的に助言や叱責を行う従来の生徒指導のやり方は、教員が前に出て教え導く「ティーチング」となります。ティーチングを行う際は、教員の個人的な考えを押し付けてしまったり、生徒の考えを抑え込んでしまったりしないよう注意しなくてはなりません。
コーチングの際、教員が気をつけるべきことは以下の通りです。
- 聞き役に徹する
- 生徒の立場や気持ちに寄り添う
- 遮らず、否定をせず、最後まで話を聞く
- 個人的な意見やアドバイスを言わない
生徒の自主性を尊重してあげることが何よりも大切で、教員の考えを押し付けることなく、見守る姿勢を貫きましょう。
コーチングの活用例
例1)SNS上で、AさんがBさんの悪口を書いた。
このような問題が発生し、Aさんを頭ごなしに叱って指導を終わらすことは、教員のよくある失敗例です。「悪口はよくない」「他人を傷つけてはいけない」といった指導自体は間違っていませんが、Aさんが「一方的に怒られた」「Bさんにも原因があるのに」などと納得できないでいる状態であれば、問題が解決できたとは言えません。
では、上記のようなケースにコーチングを取り入れるとどうなるでしょう。「なぜ悪口を書いてしまったのか」「悪口を書いたことに対してどう思っているのか」「この先どうすればよいか」などと、Aさんに自問自答を促します。時間がかかったとしても、Aさんが自ら「Bさんに悪かった」「二度としない」という答えに行き着くことができれば、再発防止に繋がるでしょう。
例2)授業に必要な持ち物を忘れてきた生徒がいる。
このような生徒に対し、皆さんならどのように声をかけますか。「隣の人に借りなさい」と指示するのであれば、それはティーチングの指導法と言えます。コーチングを取り入れるのであれば、例えば「持ち物がない中で、今日の授業をどうやって受けるのか?」などと問いかけ、生徒自身に解決策を考えさせます。次に、「今後忘れ物をしないためにはどうすべきか?」と確認。この時、複数の選択肢を挙げさせることがポイントです。続いて、「その選択肢の中から、どれなら実践できそうか?」と問いかけ、具体的な対策を決定させます。
このコーチングの例では、生徒が自ら対策を考え、選択肢の中から最終決定を下しています。同じ過ちを繰り返させないためには、生徒が自分で判断して決めた具体的な対策を実行させることが大切なのです。
メリットとデメリット
コーチングを生徒指導に活用する最大のメリットは、「生徒の自主性が育つ」という点です。学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」に重きを置いており、似た意味の「アクティブラーニング」という言葉を聞いたことのある人は多いと思います。自分で考え、自分で決めるー。このようにコーチングは、生徒の自主性を育むことができる効果的な手法と言えます。
一方デメリットは、問題解決までに多くの時間が必要な点です。生徒の話を聞くだけでも相当な時間がかかってしまい、教員側はついつい、持論や一般論といった「答え」に誘導してしまいがちです。コーチングとティーチングの違いを理解できていたとしても、なかなか我慢しきれないという教員も多いのではないでしょうか。コーチングの指導に慣れるためには、普段の授業や、生徒との日常会話の中でも取り入れる必要があります。
コーチングは行き過ぎた指導を防ぐのに効果的
人気ドラマの「金八先生」でも見られるように、ひと昔前は、愛情さえあれば生徒指導で体罰も許されるという風潮がありました。しかし、近年は学校に限らず、企業やスポーツチームなどでも、体罰や暴言といった行き過ぎた指導が問題視されています。
「コーチング」の考え方自体は特に目新しいものではなく、昔から無意識のうちに教育に取り入れている教員は多くいました。しかし、指導する側・指導される側の関係が見直されている今の時代であるからこそ、コーチングは一つの指導法として確立され、注目を集めています。皆さんもこの機会にぜひ、コーチングを会得してはいかがでしょうか。