義務教育学校とは?特徴や小中一貫校との違いを解説します!

近年、様々な理由によって増加傾向にある義務教育学校という学校制度を知っていますか。今回は、義務教育学校が制度化された背景や増えている理由を紹介していきます。

学校教育法の改正により2016年に新設された教育制度なので、今後導入を考えている自治体も多いと言われています。義務教育学校で働きたいと思っている方だけでなく、これから教員を目指す方は、義務教育学校についてよく理解しておきましょう。

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

義務教育学校が増えている理由とは

義務教育学校が増えている背景には、大きく2つの理由があります。

小中一貫教育との違いとメリット 

義務教育学校は、「小中一貫校」と呼ばれている学校制度と似ているようで違うものです。大きな違いは、義務教育学校は、修業期間が9年間という点になります。小中一貫校は「6年と3年」に分かれており、学校内の組織もそれぞれに校長がいるという状態ですが、義務教育学校は、9年間の1つの学校なので校長さんは一人しかいません。

そのため、教育カリキュラムも現行の「6年-3年」という単位に縛られる必要はなく、自由に編成をすることができます。そのため、9年間を見通した学習カリキュラムの編成が可能となり、学年の区切りも学校事情で変えることができます。

参考文献:義務教育学校制度(仮称)について,文部科学省,https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/045/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/03/19/1318730_4.pdf(参照2023-08-15)

参考文献:小中一貫した教育課程の編成・実施に関する事例集,文部科学省,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ikkan/1400462.htm(参照2023-08-15)

地域の事情による義務教育学校化 

2つ目の事情が「地域の事情」です。日本の学校の校舎は昭和30年代から40年代に建設されたものが多く、老朽化、また耐震工事などが急務となっています。学校の校舎の建て替えには莫大な費用がかかるため、地方自治体の財政を圧迫しているのも事実です。

そこで、地域の学校事情をふまえた解決策として登場したのが義務教育学校です。小学校と中学校の両方を建て直すのではなく、義務教育学校として統合し1つのみを建て直すことにより校舎の建て替え費用の節約が可能となります。

また、少子化が進んでいる地域であれば、1つに統合したほうが子どもが多くなり、さまざまな行事を行うことができます。実際に3つの小学校と1つの中学校を統合して1つの義務教育学校を建設した自治体もありました。校区が広くなる分、スクールバスの新設などが必要ですが、複数の学校を建て直すよりはコストを安く済ませることが可能です。過疎が進んでいる地域では、学校存続の分岐点になっているところも多く、義務教育学校にすることで学校を残すことができるという地域も増えると見込まれています。

参考文献:小中高等学校の統廃合の現状と課題,文部科学省,https://www.soumu.go.jp/main_content/000638148.pdf(参照 2023-08-15)

義務教育学校制度の概要

次に義務教育学校の特徴を紹介します。

建物の造り方

はじめに建物の造りですが、1つの学校なので体育館やグランドは1か所、職員室も1つという所が多くなっています。ただし、人数規模によっては1つの体育館で授業をやりきることができない場合もあるので2つ以上設置しているところもあります。建物の構造も9年の一貫教育を意識しているものがあり、1から3年生、4から6年生、7から9年生(中1から中3年生)でかためている学校もあれば、1から4年、5から9年で区切っているところもあります。このように学校の目指す子ども像に合わせて、教室配置や構造を変えることができるのが大きなメリットです。

公立と私立の違い

義務教育学校は公立学校だけでなく私立学校もあります。私立学校の場合、公立と比べて教育理念に特化したカリキュラムを組むことが多く、9年間の一貫教育にすることで特化したカリキュラムが組みやすくなります。さらに、宗教教育や英語教育など、学校それぞれの特色を活かしやすい点から、9年間の義務教育学校に転換するところもあります。

学年の割り振り

義務教育学校では、それぞれの学校長がカリキュラムを決める権限を持っているため、6年の小学校と3年の中学校という学年の割り振りに縛られる必要はありません。一般的に文部科学省や教科書会社から示されるカリキュラムに縛られることなく、カリキュラム編成と学年の割り振りが可能になります。極端なことを言えば、中1で学習するような数学の内容を小学校6年生で教えるようにカリキュラムを再編しても、文部科学省が示している最低時間数を上回っていれば問題ありません。学年の呼び方も義務教育学校は独特で、学校独自に設定することができます。多いのは「1年生から9年生」という呼び方ですが、「前期・後期」というような呼び名を使っているところもあります。

教職員の特徴

義務教育学校で働いている教員は、原則として小学校と中学校の双方の教員免許を保有していることが求められるため、教員を集めるのが少し難しい事情があります。どちらかの免許しか保有していない場合には、「臨時免許を交付」するか「特定の学年のみ」という扱いにして担当させることもできます。

義務教育学校は、人材確保が難しい一方、通っている子どもたちにとって大きな魅力があります。それは、早い段階から専門の先生による教科担任制の授業を受けることができるという点です。義務教育学校では、後半の年数から教科担任制を取り入れている学校が多く、小学校5年生ごろの段階から、中学校と同じようなシステムでカリキュラム編成をしているところもあります。専門教科のみを教えることによって、専門的な指導を子どもは受けることができ、教員にとっても専門外の教科指導準備をする必要がないメリットもあります。また、職員室も1つにされていることが多く、教員同士のコミュニケーションが取りやすい環境となっています。

今後も義務教育学校は増える!

過疎が進んでいる地域では、現在の学校のあり方というのが問題になっています。廃校にすれば子どもたちを含めた「若年層」が流出することになり、より過疎が進んでいます。一方で、自治体側も数十人のために学校を維持するのは莫大なコストがかかり、しかも建て替えをしなければいけないケースになると費用は相当なものになります。

そこで学校存続の方法として選択肢になってきたのが「義務教育学校」です。学校を減らしながらも児童生徒の数を増やし、学校を維持することができます。また、都市部では義務教育学校にすることで、学校の独自性を売りにすることができるという利点があります。これまでの小学校6年、中学校3年という制度では、うまく機能できなくなってきた学校を救う手段として「義務教育学校」は今後も増えていくのではないでしょうか。

 

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