合理的配慮について考えるなら、まずは事例を学びましょう。この記事では、通常の授業でも活用できる合理的配慮の事例を6つ紹介しています。
「読み書きが難しい」「授業に集中できない」といったよくある悩みに対する合理的配慮を解説しているので、教育に関わる人ならぜひチェックしてみてください。
そもそも合理的配慮とは
2016年4月に施行された「障害者差別解消法」では、合理的配慮について次のように述べられています。
合理的配慮は、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者に対しては、対応に努めること)が求められるものです。
(中略)その内容は、障害特性やそれぞれの場面・状況に応じて異なります。
引用元:内閣府「障害者差別解消法リーフレット」p.6
つまり合理的配慮とは、障害のある人が他の人と同じように過ごすために必要な対応を行うことです。
学校は「事業者」に該当するので、可能な限り合理的配慮を行う必要があります。
子どもの障害特性に合った合理的配慮を行うには、障害の正しい理解・困難な物事の把握・保護者と教員でチームとして対応する姿勢が重要です。
発達障害と診断される子どもが急増している今、合理的配慮に関する知識は特に需要が高いものでしょう。
読み書きが難しい児童生徒への合理的配慮
ここでは、読み書きに困難がある児童生徒を例に挙げ、どのような合理的配慮が効果的かを紹介します。
子どもによって困難と感じるもの・程度はさまざまですが、その子に合った合理的配慮を考える上でぜひ参考にしてみてください。
事例1:漢字を認識するのが難しいAさん(小1)
Aさんは漢字の形を認識するのが不得意で、漢字の書き取りに苦手意識を持っています。
宿題はやっていないか、間違えて書いているものがほとんどです。
教員は書き直して再提出するよう指導を行いましたが、本人のやる気がないため、教員が付きっきりで書き直させています。
Aさんの障害はいわゆる「ディスレクシア(文字の読み書きに関する困難)」です。
ディスレクシアがある児童は、脳機能の影響で文字の形を認識したり文字と音を結びつけて考えるのが難しいと言われています。
ひとつひとつの文字を理解するのに時間がかかるため、読むのを諦めてしまうのです。
この時点でのAさんは、やっとの思いで取り組んだ課題を否定されることで漢字学習への意欲を失っていると考えられます。
合理的配慮の方法としては、この3つが有効でしょう。
- なぞり書き部分を増やす
- 1マスを4分割して書きやすくする
- できている部分を積極的に褒める
小学校1年生の段階での指導は、難しいと感じるものでもやり切る姿勢を身につけることが大切です。
そのためにはまず、本人の自己肯定感を高めて「自分はできる」という気持ちを持たせるようにしましょう。
事例2:字を写すのが苦手なBさん(小3)
Bさんは字を写すスピードがゆっくりで、授業時間内に板書をノートに書き切れません。
休み時間でもノートを書いているので十分な休憩を取れず、1日の終わりにはかなり疲れ切っています。
さらにノートを書くことに集中するあまり、授業内容もいまいち理解できていません。
この場合Bさんの困難点は2つに分けられます。
- 板書をノートに書き写すのが難しい
- ノートに書くことに過集中してしまい、授業が聞けない
したがってBさんに対する合理的配慮としては、3つの方法が挙げられるでしょう。
- 板書はプリントにして授業のはじめに配布する
- 板書の量を減らす
- 板書が書かれたプリントを手元に置いて授業を受ける
Bさんの課題は「板書の書き取りに集中しすぎない」ことです。
プリント配布で余裕を作る、板書内容を手元に置いて書き写しやすくするなどの配慮が有効だと考えられます。
板書を減らして、考える活動を増やすことも授業に集中するきっかけになりますね。
事例3:文字を読むことが苦手なCさん(小4)
Cさんは文章を読むのが苦手で、どの授業もうまく集中できません。
国語の音読は拒否するので、教員も諦めてCさんを飛ばす形で授業を進めています。
授業の理解度も低く、今後が不安な状況です。
この場合Cさんは、読みが困難なディスレクシアと考えられます。
音読するとき、学習障害がない人は自然に文を区切って読めますが、ディスレクシアがあるとそれをスムーズに行うのが難しいです。
音読を通して自分に「読むのが下手」というイメージがつくと、当然自信が失われます。そして「恥ずかしい思いをするなら読まない方がいい」と思うようになるのです。
したがってCさんに対する合理的配慮としては、次のような方法が挙げられます。
- 生徒に音読させるのではなく教員が読む、またはCDを流す
- 文章の内容を図にして解説する
またこれらの配慮と合わせて、語彙の習得や読み方の学習時間も設けられるといいでしょう。
Cさんが自信を持って学習に取り組めるよう、文字を読む面でもフォローが必要です。
授業に集中するのが難しい児童生徒への合理的配慮
次に授業に集中できず、さまざまな問題行動を起こす児童生徒への合理的配慮を紹介します。
授業へ集中できないのは、一人ひとり異なった理由を持つことが多いです。
「問題行動を減らす」ことだけに注目するのではなく、その行動に至るまでにどんな理由があるのかを考えられるといいですね。
事例1:ボーッとすることが多いDさん(小5)
Dさんは授業中ボーッとしていることが多く、教員が指名しても気づかないことがあります。
授業内容を理解できていないので学習意欲も低いです。
この場合Dさんに対する合理的配慮は、次の2つが挙げられます。
- 座席を教員が支援しやすい位置・周りが気にならない位置にする
- 聴覚理解や文字からの理解が苦手な場合は、絵や動画を使った活動を取り入れる
Dさんが授業に集中できない主な理由は、他に気になる物事があるか、授業内容が理解できないかの2つでしょう。
まずはなぜ集中できていないかを正しく理解することが大切です。
Dさんが集中できるような授業づくりができれば、他の児童にとっても良い影響が期待できます。
事例2:離席やおしゃべりが多いEさん(中1)
Eさんは、授業後半になると勝手に離席したり大声でおしゃべりしたりすることが多く、教員からも問題視されています。
Eさんの離席によって授業が中断されることもあり、多くの教員から厳しく指導されているようです。
この場合Eさんには、ADHD(注意欠如・多動症)の症状があると考えられます。
ADHDは集中力を保てない・すぐ他のことに気を取られるといった症状が代表的です。
ADHDの特性があるEさんに対しては、次のような合理的配慮が有効でしょう。
- 教室の前側の掲示物を無くす
- 座席を前の方に配置する
- 授業の流れを提示しておく
- 興味を持ちやすい活動(ゲーム形式など)を取り入れる
ADHDの生徒は、多くの場合目に入るもの一つひとつに興味が引かれます。
授業に関連するもの以外の情報を徹底的に減らすことで、興味の移り変わりを減らすことができるはずです。
事例3:聴覚過敏で授業を受け続けられないFさん(小6)
Fさんは聴覚過敏という特性があり、周りの音や話し声に過敏に反応してしまいます。
そのため、児童同士の活動が多い授業では気分が悪くなってしまうことも多いです。
気分が優れないときには途中で教室を離れて静かに過ごす時間を設けていますが、Fさんは授業を最後まで受けたい気持ちがあり、困ってます。
この場合Fさんに対する合理的配慮は、次の3つが挙げられるでしょう。
- 必要に応じて耳栓やイヤーマフの使用を許可する
- 授業中に教室で休める環境を整える(ルール決め・場所づくり)
- 最後まで受けたい授業を決めて、1日の中にメリハリをつける
聴覚過敏という特性ゆえに、授業を受けたい気持ちが押しつぶされてしまうのはとてももったいないです。
頑張りたいFさんの気持ちと体調面を考慮して、うまく折り合いのつくところを見つけましょう。
生徒に合わせた合理的配慮でより良い学級経営を目指そう
合理的配慮は、特定の子を有利にするものではなく、その子の不利な部分を補ってスタートラインを揃えるためのものです。
ここに挙げた合理的配慮はほんの一例にすぎず、児童生徒の特性に合わせて柔軟に変化させる必要があります。
学習障害、ADHDといった名称にこだわらず、その子の悩みやクラスの雰囲気に合わせてより適切な合理的配慮ができるよう努めることが大切です。