多くの高校では6月下旬に1学期の期末テストが行われます。その前後で1学期の生徒面談を実施する高校も多いのではないでしょうか。同じ面談であっても中学生を相手にする面談に比べると、高校生を相手にする面談では注意すべきポイントが異なります。夏のオープンキャンパスへの参加など進路設計を始めるためにも、今回は、高校生への進路面談、特に大学進学を志望する高校生への面談において注意するポイントを紹介いたします。
高校生の進路面談は「自立」を促すためのもの
高校卒業後の進路は進学、就職と大きな2つの流れがあります。面談では卒業後のことを見据えて、子ども自身に自分で考え、自分で行動するよう自立を促すことが必要です。
高校からの進路は千差万別
中学生の進路状況を見てみると令和4年度は全国の中学生のうち、98.9%とほぼ全員が高校進学を選択しています。更に見てみると、全国約100万人の中学生のうち県外の高校へ進学したのは約6万人ほどしかいません。つまり、中学生の進学先は都道府県ごとの若干の差異はあっても、「全員が地元の都道府県の高校へ進学する」ということになります。そのため、教員の進路指導も地元の高校への進学を見据えたものになるのは必然です。
しかし、高校卒業後の進路は一口に進学と言っても、その選択肢は日本全国の国公立・私立を問いません。学部や学科なども考慮すれば、それこそ1人の高校生が選択できる進路は無数にあると言っても過言ではないでしょう。また、専門学校や短期大学、就職という選択肢も考えられます。そのため、子ども自身に最低限3年先のキャリアデザインをしてもらわなければ、教員も的確なアドバイスができません。
参照:
初等中等教育局参事官(高等学校担当)付産業教育振興室,”高等学校卒業者の学科別進路状況(令和4年度3月卒)”,文部科学省,2022年12月21日,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/genjyo/021203.htm(参照 2023-5-1)
総合教育政策局調査企画課,”令和4年度学校基本調査”,文部科学省,2022年12月21日,
高校生を「子ども扱い」しないこと
小学受験や中学受験は保護者の意向が強く表れ、高校受験は制度的に子どもには選択肢が多くありません。しかし、肉体的にも精神的にも、そして法律的にも「一人でできること」が多くなる高校生は、保護者から自立し巣立つことを考える時期です。自分自身と向き合う中で、将来の自分を想像していくことで、自分だけの興味や関心も生まれます。「自分で選んだ」進路だからこそ、やる気が生まれ責任も持つことができるでしょう。
大学受験を契機にある日突然大人扱いするのではなく、高校生に対しては日頃の授業から教員は最後まで答えを言うのではなく、解法や考え方を指し示す程度に留めるべきです。いつまでも「子ども扱い」していては、「一人で考える」「自分と向き合う」機会を得られません。手や口を出したい気持ちを押さえて、何度失敗しても支援を最小限にすることで、彼らが自分で成長する機会を作りましょう。進路面談の中でも何度か進路を軌道修正しなければならないことがあるはずです。その際も教員は大人として、一歩引いたところから見守るようにしましょう。
参照
親野 智可等,”反抗期の子を絶望させる「親たちの最悪な対応」難しい時期を乗り越えるための「心得6か条」”,東洋経済オンライン,2021年5月14日,https://toyokeizai.net/articles/-/428050(参照 2023-5-1)
希望の進路へ導く高校生向けの進路面談のポイント5選
高校生の進路面談は、企業で行われている一種のキャリアデザインと同じ側面があります。ここからは高校生自身に自分の進路を考え、将来的にどうありたいか、を考えてもらう面談にするために必要なポイントを解説します。
参考文献:
初等中等教育局児童生徒課,”高等学校キャリア教育の手引き”,文部科学省,2011年11月,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1312816.htm(参照 2023-5-1)
その1 教員がどれだけ「何もしない」を貫けるか
高校受験は多くの場合、教育委員会をはさんだ中学校と高校のやり取りが基本です。しかし、大学受験は高校受験とは異なり、大学と子ども・保護者とのやり取りが圧倒的に多くなるため、高校側ができることは多くありません。そのため、高校生の進路面談では、教員は進路についての概略と、その進路を選んだ際の方針を示すに留めます。特に、最近は多くの高校生がスマホを持っている時代です。大学の情報などは教員や保護者を介さなくとも自分で簡単に調べられます。推薦入試などの高校からの書類などが必要な受験方式以外は、極力手を出さず、子どもの考えや行動に任せましょう。
進路が漠然として、まだ決定していない子どもに対しては、最低限、就職か進学かの2択を確認します。進路面談は年間を通して何度か行われるので、オープンキャンパスや企業見学などに赴いて意見が変わるということもしばしばあります。夏前の進路面談は本決定ではないことを前提にして、その結論を出すために大学情報誌や就職情報誌を提示する、オープンキャンパスへの参加を勧めるなど考えるためのヒントを出しましょう。「どうなりたいか」の結論を焦らせてはいけません。
その2 重視するのは「本人の考え」
高校生の面談では、相手がどんな相談を持ってきたとしても、まず教員は聞き役に徹しましょう。高校生の進路は中学生までとは異なり、本人の意向や考えが非常に重要です。途中で疑問や違和感を覚えても最後まで聞いて、その上で教員からの意見や疑問を伝えます。例えば、高校生の進路面談でよくある相談といえば「志望校を下げるべきか」というものだと思います。このとき、子どもの考えは「浪人を覚悟してでも志望校へ行きたい」か、もしくは「勉強に疲れてしまったので楽になりたい」の大きく2つでしょう。どちらも高校生の意見として正当性があり、否定できるものではありません。その時に子どもが欲しいのは、大人の正論ではなく最後の一歩を踏み出す背中を押してくれる勇気です。子どもが「最終的にどうしたいのか」の真意を読み取った上で、的確なアドバイスをしましょう。
ただし、どうしても経済的な負担は高校生には限界があります。学費など学校にかかる費用はある程度までは奨学金や学生ローンなどで賄えますが、4年間分の生活費や家賃は別です。この点だけは、教員や子どもではどうしても解決できないため、家庭で話し合ってもらうより他に方法がありません。保護者を交えての三者面談になる場合も、保護者の説得は不可能なので、「子どもの考え」と「子どもの実力」の2つを示すだけにしましょう。
その3 進路に向けて一年生の頃の時から逆算させる
高校生に希望の進路を実現してもらうためには、将来のイメージが重要です。ただ、あまり遠い将来では想像しにくいため、さしあたり高校卒業後のことをイメージさせ、そのイメージを実現するために受験までの必要なことを考えてもらいます。受験までに許された時間は全国の高校生に等しく3年間しかないので、その限られた時間の中で何をするか、何ができるかを考えることは非常に重要です。極端なことを言えば、当日の試験で最低点を1点でも上回っていれば大学は合格できます。昨今、多くの大学は自校の入試規定や科目ごとの配点だけではなく、数年間分の合格最低点も発表しているので、その点数を受験科目トータルで超えるために、目標として国語は何点、数学は何点、と決まり、その目標を実現するために、勉強時間は国語は何時間、数学は、というのも自動的に決定できます。大学受験は圧倒的に科目数が多いため、闇雲に勉強を頑張っていては、途中で力尽きてしまいます。子どもが適切な勉強をするためにも、ゴールからの逆算は効果的です。
このとき教員は子どもが誤ったイメージを持っていないか確認します。
例えば、現段階で偏差値が30程度にも関わらず、1週間後には偏差値70を超えているイメージをしているとなると、それは単なる妄想です。また、全ての科目で満点を取るというイメージも、進路実現の観点からすると間違ったイメージといえます。限られた時間の中で「できないこと」は、思い切って捨てさせることも志望校合格には重要です。
その4 自分の長所と短所の活かし方を考えさせる
子ども自身に適切な将来設計をしてもらうためには、現状の把握が必要です。まずは、子どもが持っている資格やスキル、これまでの経験を洗い出してもらいます。多くの場合、得意なことだけに焦点を当ててしまいますが、苦手なこともピックアップすることを忘れてはいけません。子ども自身は苦手と思っていても、適性検査などを受けてみると意外な結果になることも十分に考えられます。得意なことや苦手なことを安易に決めてしまうことは、無数にある進路選択の幅を狭めてしまうことです。客観的な視点で現状を把握してもらいましょう。
客観的に長所と短所が把握できたならば、次はその活かし方を考えます。長所と短所は表裏一体です。例えば、飽きっぽいというのも長所にするなら、様々なことに興味を持てると言い換えられます。反対に、オールラウンダーというのも欠点として捉えれば、突出したところがないとも考えられます。子どもの持つ長所を正しく長所として扱い、短所とした部分を強みにする、そして「それらが活かせる将来はどのようなものか」を考えると課題が明確に見えてきます。
その5 大学進学ならば英数国+アルファを前提に
23年2月に東京外国語大学が受験科目に数学を必須化にしたことがニュースで報じられました。外大という文系の最たる大学で数学が必須科目になったことは、受験者が4分の3まで落ち込んだことからも、多くの教員、そして高校生にとって衝撃だったと考えられます。しかし、昨今、私立文系大学は経済学部を筆頭に数学を必須科目にする動きが強まりつつあり、この傾向は社会的には歓迎されていると言ってよいでしょう。
大学受験において、科目数を減らすことは受験生にとっては勉強の負担が減り、中心となる受験科目に特化できるというメリットがありますが、それは同時に多様な大学への受験チャンスを潰すデメリットもあります。外大でさえ数学必須化の傾向が強まっている中で、文系だからといって数学を受験科目から外すことは最早できない状況です。大学受験を念頭に置くならば、志望する大学や学部学科に関わらず英数国の3教科は必須でしょう。教員としても、この点だけは進路指導のなかで譲ってはなりません。
参考文献:
芳沢 光雄 ,”東京外大の入試「数学2科目」必須化という大英断”,東洋経済オンライン,2023年年3月7日,https://toyokeizai.net/articles/-/657121 (参照 2023-5-1)高校生のうちに「自分で考える」くせを付けさせる
自分で考える力を身につけさせよう!
多種多様な高校生の進路に対して、教員は最後まで寄り添うことはできません。むしろ教員が何時までも隣で世話をすることは、子ども自身の成長の機会を奪うことになります。大学生や社会人は自由である代わりに、大きな責任を負っています。そして、その中で求められるのは、何よりも「自分で立って歩けること」です。進路面談を契機に高校生を「一人の大人」として扱っていきましょう。