「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」これは教育公務員特例法第22条に定められている条文です。教員は日々学ぶことが大切で、この研修では、授業力やマネジメント力アップを狙いとしています。ここでは、一定の在職期間がある教員を対象とした「中堅教諭等資質向上研修」について紹介していきます。
「中堅教諭等資質向上研修」ってなに?
「中堅教諭等資質向上研修」は「初任者研修」と同様、法律で定められている法定研修です。
研修の対象者は?
平成28年までは、教諭としての在職期間が10年目となる全ての教員に対して「10年経験者研修」が行われていましたが、これに代わる形で「中堅教諭等資質向上研修」が始まりました。この研修は、各自治体が対象の年次をそれぞれ設定しており、一般的に、教諭としての在職期間が10年前後の教員が対象となる場合が多いです。
10年研修は対象年次が決められており、研修が1年間に集中していましたが、中堅研修は教員の負担軽減のため、複数年に分けて参加できるようになっています。
対象年次・実施方法は?
研修の対象となる年次や実施方法は自治体によって異なります。
研修を受ける年次については
- 9年目〜11年目、という風に3年間の研修期間を設けているケース
- 5年目と10年目、という風に前期・後期に分けているケース
といったケースがあります。
近年は、教員の研修受講状況をウェブ上のシステムで管理している自治体が増えています。このシステムを使えば、大学の単位のように、どれだけ受講したのか履歴が残ります。システムが採用されている自治体では、教員が好きな時期に受講できる場合があり、上の例よりもさらに自由度が増します。
実施方法については、初任者研修と同じように学校内で行う「校内研修」と学校外の施設や教育センターなどで行われる「校外研修」に分けられます。近年は感染症対策や研修を受ける教職員の負担軽減を目的に、オンラインを活用した研修を導入している自治体もあります。
中堅教諭に求める資質とは?
各自治体は教員のキャリアステージごとの資質能力を指標などで示しており、研修ではその資質能力を高めるために行われます。ここでは、一部の自治体の例を紹介していきます。
東京都の場合
中堅教諭にあたる9年目以上の教員に対して求める能力や役割について、
- 校務分掌などにおける学校運営上の重要な役割を担当する
- 同僚や若手教員への指導的役割を担う など
と示しています。
参照:”https://www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.lg.jp/01annai/files/r4_kensyu_annai_all_20220519.pdf“.令和4年度研修案内.東京都教職員研修センター
神奈川県の場合
こちらの自治体では中堅教諭にあたる5〜20年目の教諭に対して求める教員像として、「様々な教育活動を通して視野を広げ、 経験を同僚教職員と共有するなど、学校運営の中核的な存在として、 より良い学校づくりを進める」などと示しています。
参照:”https://www.pref.kanagawa.jp/documents/3839/202301sihyoukaitei.pdf“.神奈川県のめざすべき教職員像の実現に向けて.令和5年1月(改訂).神奈川県教育委員会
指標で示す内容は自治体によって様々ですが、自分の職務を全うするだけでなく、学校運営への積極的な働きかけを求められている場合が多いように感じます。
研修の内容は?
次に、研修の内容例を紹介していきます。
校内研修では研究授業を公開
校内研修では、研究授業を行うケースが多いです。公開授業する単元を自分で決め、指導案を書き、授業後は評価をしてもらいます。
この1時間の研究授業に向けて、単元全体を考えて授業を組み立てたり、端末を用いた協働的な学びを取り入れたりするなど、他の教員の手本となるような中堅としてふさわしい授業づくりを意識しましょう。少し挑戦的な授業を行い、その効果について分析し、結果を他の教員にフィードバックしてもらいましょう。
校外研修では教育テーマを学ぶ
校外研修では、道徳教育や、いじめ対策、登校対策といったテーマで行われることが多いです。
不登校対策については、多くの自治体が「喫緊の課題」と捉えており、実際に対応する現場の指導力の向上は急務です。校外研修の内容は、初任者研修や経験の浅い教員に行うような「事案への対応策」ではないことが多く、柱になるのは「マネジメント」の視点となります。「担任・保護者・他の教員」の連携については、もっと経験の浅い教員が研修で学ぶ内容ですが、中堅教諭の場合は、「関係機関との連携・スクールカウンセラーや教育相談会との結びつけ」など、より広く連携するためのスキルを学びます。
いじめ対策でも同じです。学校の枠を超えて連携しないと解決できないような事案を抱えた時に、リーダーシップをとって進めるのは中堅教諭になります。このようなマネジメント能力は、将来、管理職として仕事をするときに必要になります。中堅研修では、管理職が持っているマネジメント的な視点を学ぶ第一歩にもなります。
中堅教員として大切な視点を養おう
若手教員の頃は、自分のクラスや学年だけを見ていればよかったかもしれませんが、中堅以上となると、学校全体の運営を担うことになります。研修を通して、自分がどのような立場にあり、どのような視点を求められているのかを考え、それに見合う能力やスキルを身につけていきましょう。