キャリア教育の実践例と教員の役割とは

キャリア教育と聞いて、最初に思いつくことは何でしょうか。
もしかしたら、『進路』『受験』などが思い浮かぶのではないでしょうか。
ここでは、キャリア教育の重要性や実践例を紹介します。

キャリア教育とは

キャリア教育とは、「子ども・若者の一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」(中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」)のことを言います。

つまり、キャリア教育=受験ではないのです。
受験はあくまで過程であり、ゴールではありません。キャリアの形成にとって重要なことは、自らの力で生き方を選択していくことができるよう必要な能力や態度を身に付けることなのです。
キャリア教育を通して、生徒達自身が、「自分らしい生き方」を見つけ出せるようにすることが重要です。
そして、キャリア教育では、次の4つの力を伸ばすことが重要視されています。

1つ目は人間関係形成・社会形成能力、2つ目は自己理解・自己管理能力、3つ目は課題対応能力、4つ目がキャリアプランニング能力です。

キャリア教育は、小学校の低学年から行われます。最初は、他者に目を向け、挨拶やコミュニケーションを取るところから始まります。他者がいるからこそ、自分が生きていけるという感謝をもつことに繋がったり、自分自身の役割や責任を見いだせるようになったりするのです。
中学生以降になると、自分を客観的に見つめられるようになり、現実的な将来模索を始めるようになります。

次では、キャリア教育の実践例を中学生、高校生に分けてみていきましょう。

実践例(中学生編)

職業体験

職業体験は、多くの学校で行われています。学校によっては、企業体験学習や職場見学といった呼び方をする場合もあります。実際に、生徒たちが、働く現場に出向いて仕事の一部を数日間経験したり、そこで働く方々にインタビューをします。それらの活動を通して、生徒たちがお客様としてしか知ることのできなかった現場を違う目線で見られるようになったり、お金を稼ぐことの大変さを学ぶことができたりする、実践的な活動です。また、事後の活動も大切です。経験したことや学んだことをグループでまとめて発表したり、疑問に思ったことをさらに発展的に自分で調べたりする活動を取り入れると、尚良いでしょう。

生徒たちにとっては有意義な時間となりますが、教員の下準備はそれなりに大変です。実際の体験日の半年以上前から、体験場所の候補を挙げ、アポを取り、挨拶回りに出向きます。そして当日は菓子折などを持参して子供達の様子を見に行き、体験後にお礼状を送るという作業が残っています。

高校の教職員による講演

地元の公立高校や卒業生がよく進学する私立高校の教職員を、中学校にお招きして、講演をしてもらうことがあります。『高校生活について』『中学校で身に付けてきて欲しい事は何か』といったことや、『その高校の進学実績』などを紹介してもらいます。講演を聞いた生徒たちは心に火が付き、自らの進路実現に向けてより努力します。
しかし、注意すべき点もあります。それは、日程の設定についてです。高校の教職員も、仕事があり忙しいので、例えば夏休みの出校日などに、講演会の日程を組むと良いでしょう。あらかじめ、生徒たちが質問したいことを紙に書いて、高校の教職員に渡しておくと尚良いです。

体験入学

中学3年生に向けて、高校で模擬授業を受けたり、部活動を見学できたりするイベントです。中学校の教員は、体験入学の情報を漏れなく生徒たちに伝えることや、申込書の正しい書き方などを指導することが求められます。実際に高校に行くのですから、その中学校の顔として恥ずかしくないように、礼儀やマナーを学ぶことも、キャリア教育の一つでしょう。

マインドマップ作成

この活動は、どの学年でも手軽にできます。中学校に入学した時から、3年間継続で行う事もオススメです。では、どのようにしてマインドマップを作成するのでしょうか。
まず、大きな紙の真ん中に「将来の夢」と書きます。この言葉から連想される単語や短い文章を、どんどん思いつくままに、ありの巣のように枝分かれをさせて書いていきます。例えば、将来の夢からは現時点では「通訳」「日本語教師」の2つが枝分かれしていたとしましょう。そして、「通訳」からは、「英語」「中国語」「フランス語」、さらに「英語」からは「リスニング力」、さらに、「毎日ラジオを聞く」といったように、どんどん連想をしていくのです。身に付けたい力でも良いですし、今気になっている事柄でも構いません。とにかく、現状の自分の心の内側を可視化できるようにする作業を行います。
ですが、中には何も思いつかない生徒もいるかもしれません。教員としては、書けないことを責めるのでは無く、真っ白の紙のように、将来が無限に広がっているという可能性を伝え、フォローをしてあげることが大切です。

実践例(高校生編)

OB・OGによる合格体験記

進学校であれば、志望大学に合格した卒業生に、合格体験記を書いて貰います。内容は、使った参考書や、勉強方法、勉強時間、一日の時間の使い方、授業の受け方、部活動との両立方法、試験に立ち向かうための心構えなどです。高校から大学への進学となると、全国区になってしまったり、試験方法も様々であったり、前期・後期など、自分と同じ受験歴の知り合いを見つけて体験談を直接聞くことは、ハードルが高いです。しかし、母校のOB・OGであれば、身近な先輩になるので、最も参考になる体験談になるのではないでしょうか。

もちろん、就職の場合でも同じです。面接で聞かれた事柄、在学中の実習先、取得しておくべき資格などを、体験記として残してもらうようにすると良いでしょう

オープンキャンパス

オープンキャンパスは、生徒だけではなく保護者も一緒に参加できるので、ぜひ参加してもらいたい行事です。高校の教員としては、中学校同様、情報を漏れなく子供達に伝えることや、申込書の正しい書き方などを指導することが求められます。
高校生になると、大人と対等に話ができるようになってくるので、よき理解者であり、アドバイザーになれるように、知識量を増やしましょう。できれば、私立と国公立の両方を見ておくことをオススメします。

模擬試験

模擬試験には、様々な種類があります。例えば、塾主催で行う模擬試験や、通信教育などの各自で申し込みを行う模擬試験などがあります。それぞれの進路に合わせて、どの模擬試験を受けてみるのか、長期的な戦略を立てることも、キャリア教育の一つです。
また、その結果を生徒自身だけで受け止めさせるのでは無く、模擬試験の結果を受けて、面談や相談を行うなど、共に考察する相手となってあげることが重要です。

異文化交流

将来の選択肢を増やすために、異文化交流は欠かせません。ですが。異文化のことや多様性について学ぶ機会はあまりありません。そこで、教員として意図的に生徒たちを異文化の中に放り込むことも必要です。

異文化といっても、留学や社会見学など、難しいことはしなくても良いのです。例えば、映画を一緒に鑑賞しあるテーマを持って議論することも良いでしょう。他にも姉妹校の生徒たちとビデオ電話で繋ぎ、交流を深めたり、文化祭で、模擬店として日本の伝統料理を提供したり、学級文庫に様々な分野の本を並べて置いておくことも良いでしょう。
日常とは違う経験を多く積むことで、生徒たちの視野が広がります。そのきっかけを作り出すのが、教員の仕事です。

教員を目指す大学生が今できること

キャリア教育を効率よく推進するために、大学生でもできることはたくさんあります。

まずは、いろいろな経験を積み、その気持ちを覚えておくことです。経験とは、アルバイトでもサークル活動でも、ボランティア活動でも、一人暮らしの失敗談でも、何でも構いません。子供たちより一歩未来にいて経験したことを、いつでも誰にでも伝えられるように準備をしましょう。子供たちは、教員の人間らしい側面が大好きで、とても興味を持ちます。実際に自分が経験したことであれば、子供たちも関心を持って聞いてくれることでしょう。あなたの話をきっかけに、そのことについて興味を抱く子供たちも現れるかもしれません。

また、就職活動の情報を仕入れておくことも大切です。大学何年生の何月から動き出すのか、今必要とされている人材とはどんな人なのか、ということは、知っておいて損はありません。生徒たちの将来は十人十色です。教員採用試験だけにとらわれず、色々な職業の情報を集めておくことも大切でしょう。

さらに、最低限採用試験を受験する自治体の、高校入学試験制度を理解しておく必要があります。中学校を卒業後、どんな選択肢があるのかを知っておかないと、自分自身がキャリア教育を始めるスタートに立てません。高校の種類、進路情報、地理的な問題など、ある程度理解しておきましょう。

その他

ここまで、キャリア教育について説明をしてきました。最も大切なことは、教員は生徒たちにとって、家族の次に最も身近な大人であるということです。つまり、大人になることは素晴らしい、働くことは楽しい、夢や目標があるって格好良い、という姿を、身をもって伝えることができる存在なのです。夢へのきっかけは、思わぬところに転がっています。自分自身に自身を持ち、生徒たちの未来を応援できる大人でありたいものです。

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