新しいことに胸膨らませる新年度。子どもたちが学校の中で大半を過ごす教室が心地よいものになるか、そして、その心地よい状態を維持できるかは教員の腕の見せ所です。子どもの「新しい学年でも頑張ろう」という気持ちを後押しするためにも、教員として4月は入念に準備をした上で臨みましょう。
子どもは思っている以上に第一印象に強く影響される
小中学校の頃、第一印象で「この先生はきっとこんな人だ」と決め付けた覚えはありませんか。私自身も初めて会った教員の見た目で「怖そう」「優しい」という印象を持っていました。教員も含めて一年間を固定されたメンバーで過ごすことになる以上、第一印象を良いものにするための努力が必要です。教員が身だしなみを整え、清潔感のある格好をするのは、相手が子どもであっても変わりません。子どもからの情報は直ぐに保護者へと伝わります。最初に子供に「清潔感がない」「毅然としていない」などのネガティブな印象を持たれてしまうと、それを聞いた保護者にも同じ印象を持たれてしまうことが良くあります。そのため、子ども相手だからこそ大人を相手にする以上に初対面の印象には注意が必要です。教員が相手にしているのは目の前の子どもだけではなく、子どもの目を通してその人数の倍以上の保護者にも見られているという意識を持ちましょう。
クラスの雰囲気は1学期で完成する
クラスの雰囲気を方向づけるのは、教員の言動にあります。例えば、話し方も子どもからすれば教員との距離感を掴む重要な要素です。同じ「おはようございます」の挨拶でも、元気よく弾む声で言われるのと低い轟く声で言われるのでは全く受け取る印象が異なるように、教員の話し方で子どもは「この先生はどこまで許容してくれるか」を判断し行動を決めています。最初に真剣な雰囲気を作れば、子どもの側も「ふざけることはできない」と考えて行動するようになるように、教員の醸す雰囲気は子どもに伝播します。
もう一つ、雰囲気づくりに欠かせないのが掲示物などの教室の外的な環境です。掃除や整理整頓は前提として、掲示物などの色合いも雰囲気を決定づける重要な要素になります。彩りを豊かにすれば楽しい印象を、同様に彩度を下げると厳かな印象になるように、見た目の環境は子どもたちには重要な要素です。
どちらが良いかという話ではなく、教員自身がクラスの雰囲気をどうしたいのかで考えなくてはなりません。学校生活が始まったばかりの1年生と受験を控えた学年とでは子どもが望んでいるクラス環境も異なるのではないでしょうか。この1年間をどう過ごしてほしいのかという期待や希望を声や環境に込めましょう。
新年度は全てをリセットする良い機会
多くの学校では新年度とともにクラス替えが行われます。その結果、子どもにとっては新しいクラスメイトとの関係ができる一方で、かつてのクラスメイトと話す機会が減るなど、新年度は関係性をリセットして新しいことを始める機会です。勿論、それは教員側にも同じことが言えます。子どもたちが真新しい気持ちでいる新学期こそ、目標やルールの再設定も子どもたちはスムーズに受け入れやすいタイミングです。例えば受験学年には「厳格」に、そうでない場合には「柔和」にというように、学年や男女比の他、希望進路の状況など様々な要素を加味して雰囲気を一新しましょう。
ただし、あくまでも教員の行動は雰囲気の方向性を示すものに留めておく程度にしなければなりません。教室の中で教員は唯一の大人であり、周りは子供です。教員が良い方向に子どもたちを持っていこうとするのは、子どもから見ると「コントロールしようとしている」「理想を押し付ける」という風に反発やトラブルの元になることもあります。トラブルにならなくとも、最終的に雰囲気を完成させるのは子どもたちとして、教員は土台を作る程度にしておきましょう。
1年間を実あるものにする4月の教室運営のポイント
4月は1年間の教室運営の土台となる時期です。ここで子どもの心を掴むことができれば、後に控えている本人や保護者との面談や日頃の進路指導や生活指導などの他、普段の授業も成果が格段に変わります。ここからは4月の教室運営で注意したいポイントを紹介します。
親近感 親しみやすい雰囲気は名前を覚えることから
人は誰しも自分に興味を持ってくれる相手には心を開くものなので、子どもから教員の元へと積極的にやってくるかどうかは、教員が子ども自身のことをどれだけ理解しているかがポイントになります。そして、子どもを理解する第一歩は「子どもを名前で呼ぶ」ことです。名前を呼ばれると「覚えてもらっている」「関心を持ってもらっている」という子どもの承認欲求を刺激することになります。教室は多くの子どもたちが集まる集団ですが、そこは同時に勉強が得意な子も運動が得意な子も、色々な「個」が存在する場所です。直接呼ばれなくとも、名前で呼ぶことの多い教員には、子どもからすると自分たちの「個」を認めてくれているという印象を持ってくれます。
ただ、子どもを愛称で呼ぶのは親近感を与えるのと同時に「教師と生徒」という関係を揺るがすので、やめておいた方がよいでしょう。それよりは、名前以外の子どもに関係する情報の方が効果的です。単に「部活頑張っているね」よりも「野球部頑張っているね」と具体的な部活名を挙げる方が子どもには好印象です。他にも家族情報などは他学年との繋がりや、保護者の受験に関する知識などを推察する材料にもなりますので、今後の面談に備えて確認しておきましょう。他にも単純ですが、全員と挨拶をする、教室を見て回るなども子どもとの距離を近づける上では有効な手段になります。
公平感 子どもへのぶれない評価軸を開示する
教室が個の集まりである以上、運営にはルールが必要です。当たり前のことであっても暗黙の了解にせず、明確なルールにすることで強制力を持たせることができます。掲示物として子どもの目の付きやすいところに用意するなどして、4月のうちに子どもたちの間にルールを浸透させていきましょう。このルールには教員の子どもたちを「良い方」へ導きたいという熱い思いが詰まったものになると思いますが、教員が明確な理由付けを行えない無意味なルールやミスした子どもを罰するルールは適切とは言えません。設定するルールは「守ること」に意義があるものにしましょう。そして、たとえ意義があったとしても、過度に厳しいルールを作ることは子どもからの反発を生むので、ある程度の自由や余裕のある、誰でも守れるルールであることが重要です。上の学年であれば、そのルール作りに子ども自身を参加させ民主的な取り決めに運ぶのも1つのやり方でしょう。
また、設定したルールは子どもたちだけではなく教員も守らなければ、全員が気持ちよく過ごせません。ルールを守らない子どもがいる場合には早急に「守らなければならない理由」をきちんと話して注意をしましょう。ルールを守らせることを怠ると、子どもたちは「守らなくてもよい」と判断して、最終的には全てのルールが破られてしまいます。また注意をしないことは「あの先生はひいきしている」というように、子どもたちが教員の公平性を疑う一因になりかねません。
もう一つ、注意すべきこととして、守られているからと言ってルールをより厳しくするのは悪手に他なりません。一度設定したルールを厳しい方へ変更することは、多くの子どもからすると「更に高いことを要求され続ける」という不安に繋がる他に、教員として「できなくなった」ことを叱らなければならず、「今までは問題なかったのに」と子どもが不信感を抱く元になります。一度決めたルールはその年度の間は何が何でも貫くことを徹底しましょう。
信頼感 子どもを守れる教員は頼りにされる
学校には常に何かしらのトラブルや危険が潜んでいます。そして、子どもを守るためにはそれらのトラブルや危険に対して毅然と立ち向かう態度が絶対に必要です。良いことをしたら褒めて、悪いことをした子どもは誰であろうとしっかり注意する、保護者の理不尽な要求は突っぱねても、意見や要望に対しては冷静かつ真摯的に対処しましょう。もし1人での対応が難しいのであれば、校長や教頭などの管理職の他、ベテラン教員の助けを借りるのも1つの選択です。
またルールや自身の発言を教員が守ることも信頼感を得るためには重要なポイントと言えるでしょう。実際の現場でもよくある何気ない「ちょっと待って」「後で」という一言は、言った教員の方は忘れてしまっても、言われた子どもはしっかり覚えているものです。教員としての業務の中で忘れてしまうのは仕方ありませんが、子どもにしてみれば「先生に嘘を言われた」という不信感が募ります。子どもとの約束事は守るようにしましょう。
4月の教室運営は最も慎重になること
クラスの雰囲気として明確な「正解」は存在しない以上、例えば子どもたちを自由にさせるのも、徹底的に管理するのもどちらも教室運営のあり方としては間違っていません。しかし、一度固まったクラスの雰囲気を改変するのは、よほどのイレギュラーがない限り不可能です。故に4月は1年間の教室運営の成否を左右する重要な時期になります。もう一度、新年度を迎える前に、教員自身が子どもたちにどうなってほしいのか、という一種の哲学を考えてみてください。