近年、学校現場での精神疾患による休職者数の増加が問題となっています。
教員がメンタルヘルスの不調から、うつ病などの精神疾患にかかってしまったり、ストレスによって落ち込んでいる状態になってしまうと授業に遅れが出るなど子どもたちの教育環境にも影響してしまう可能性もあります。そこで今回は、教育現場における休職者の現状や、楽しく教員を続けるためのメンタルヘルス対策をお教えします。
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
精神疾患により休職する教員が過去最多に
2023年の文部科学省からの発表によると、精神疾患が原因で2022年に休職した公立学校の教員は、前年よりも1割も増して6539人となりました。6000人を突破したのは始めてのことです。
さらに、20代の休職者は、この5年で1.6倍になり、休職をしている教員は、1万2千人以上の休職者がいる状況です。
全業種よりも教員の休職率が高い
厚生労働省が令和4年度に実施した『令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』によると、全業種の「メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者の割合は0.6%」と発表されたのに対し、『令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』では、「教育職員の精神疾患による病気休職者数は、6,539人(全教育職員数の0.71%)で、令和3年度(5,897人)から642人増加し、過去最多。」であると発表されたように、教員の休職者数は、全業種の割合を超えています。
なぜ、こんなにも教員の休職者が増えてしまっているのしょうか。
教員がメンタルを壊す主な理由とは
教員がメンタルヘルス不調に陥る原因としてよく聞くのは、以下の通りです。
・学級崩壊などにより児童生徒への対応に悩む
・保護者からの暴言や過度なクレームによって心身を疲弊する
・同僚や上司との人間関係の悩み
・業務過多によるストレス
教員の業務内容は多岐にわたるため、これ以外にも多くの悩みやストレスを抱えているのではないでしょうか。
なぜメンタルヘルスの対策が必要なのか
メンタルヘルスの不調によって働けなくなってしまうと、他の教員の大きな負担となります。業務過多が問題となっているのに休んでいる教員の分も仕事を任されることになってしまうと、その教員もメンタルヘルス不調に陥る可能性もあるのです。またクラスや教科を担任する教員がメンタルヘルス不調になれば、業務である生徒・児童の教育にも支障が出てしまいます。教員の仕事を長く、楽しく続けていくためにも教員のメンタルヘルス対策を知っておきましょう。
メンタルを崩さないようにするためには
メンタルヘルスの不調に陥る教員には、共通点があります。
一人で抱え込まない
その共通点とは、他の人に仕事を任せられないことです。
よく言えば、責任感があるタイプですが、悪く言うと、一人で抱え込みやすいタイプの人です。教員に限りませんが、仕事の量は日々変化し、内容も多岐にわたります。業務量が増えてきたときに「助けを求める」「仕事を割り振る」ということに消極的になると自分で自分を追い込むことになります。
さらに、業務過多によるストレスから、これまで円滑だった関係(人間関係や家族関係など)にも影響を及ぼし、ますます孤立していく可能性もあります。うつ病になった部下を持つ上司が「業務量が多いのは分かっていた」と言うことがあるように、助けを出したくても周囲は本人のプライドを考えると助けを出しにくいものです。「助けて」と自ら支援を申し出る心が大切になります。
自分の強みと弱みを知る
メンタルを上手に保つためのトレーニングとしてよく行われるのが、自分の強み・弱みを知るトレーニングです。自分のことは自分が一番よく知っていると言いますが、精神面についてはあまり当てはまりません。客観的な指針や検査によって、その人その人の特性が現れてきます。そして、現れた特性から自分の「強い部分」「弱い部分」を客観的に知っておくことが大切です。
メンタルが落ち込んでいる時にこそ大切なのは、自分の強み・弱みを隠さないことです。弱い部分を隠したい気持ちは分かりますが、自分の信頼できる家族や上司、仲間などには話しておくと、ピンチになったとき周囲からのサポートしやすくなります。メンタルを壊してしまう人の多くは「一定の限界を超えた瞬間」にぷつんと切れてしまいます。この限界になる前に周囲が助けに入ることができる、または自分自身にブレーキをかけることができる状況にしましょう。そのためにも「弱さ」を知っておくことが大切であり、周囲もその人の「限界」を知っておく必要があります。
自分のために仕事をしている意識を持つ
メンタルを壊す人を見ているとけして心が弱いわけではなく、「人想い」で「優しく」「真面目」な人柄が多いです。優しいからこそ、周期の人を気遣い、手助けをして、自分の仕事が回らなくなりオーバーワークに陥るってしまいメンタルを壊していくのです。
若い教員に特に持っていてほしい意識が「自分のために仕事をする」という意識です。教員という仕事は「子どものために」という聖職者のようなことを言う人もいますが、子どものために働く前提として「自分が健康」でなければよい授業をすることはできません。悲壮な顔をしている教員の授業を子どもたちは受けたいと思いますか。子どもや周りから「先生」と言われると「みんなのためにがんばらなきゃ」と思い、あれやこれやとやり始めてしまうかもしれませんが、自分の身体を壊さないように調整することも大切なことです。
クレームやトラブル対応は一人でしない
抱え込みやすい人はメンタルを壊しやすいと紹介してきました。少し逃げの考えになりますが、会社や学校に「管理職(学校であれば校長・教頭)」というポストがあるのは責任を取る人を作るためです。自分が抱えきれないほどの仕事が来た場合、その責任は管理職にあります。だからこそ、本当にメンタルが危ないと感じたときには逃げること(仕事を他にふる、またはお願いする)も1つの選択肢であることを覚えておきましょう。
クレームやトラブル対応も同じです。生徒指導対応の基本ですが、一人で絶対に対応してはいけません。対応する教員の負担軽減もありますが、第三者が入っていることで、状況の確認、冷静な判断をもらうことができます。「一人で何とかしなきゃ」という思いは捨てて、他力を使う冷静な判断をすることもメンタルを壊さないポイントです。
オンとオフの切り替えをして楽しく教員を続けよう
教育の世界に限った話ではありませんが、社会人になると学生に比べて「自由に使える時間」が大きく減ります。そして、仕事が増えてくると自由に使える時間さえも浸食され、精神的な余裕がなくなってきます。そこで、学生時代から「やるときはやる、休むときは休む」この切り替えをしっかりとする癖を付けておきましょう。休むことも大事な仕事であるという切り替えが必要です。また、休み方を作っておくのも大切です。人によって息の抜き方は違うと思いますが、自分なりの回復方法を見つけておくことも大切です。
それでも不安な人は、働く前から「メンタル壊したらどうしよう」と不安になっている人もいると思います。マスコミ報道などを見たり、教育実習を体験したりすると余計に不安感が増すのではないでしょうか。でも安心してください、教員の世界は福利厚生がしっかりとしています。困ったときには上司(学校内)以外にも相談する機関はありますし、メンタルクリニックのようなところもあります。本当にだめになったら休職制度(復職可能)もあります。支援体制が整っているのは教員の世界の良いところかもしれません。いざとなれば誰かが助けてくれるという安心感を持って教育の世界に入ってきてください。
参考文献:厚生労働省,令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況,https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf,(参照2024-11-3)
参考文献:文部科学省,令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査について,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1411820_00007.htm#:~:text=1%20%E6%95%99%E8%82%B2%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AE%E7%B2%BE%E7%A5%9E,%E4%BA%BA%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%80%81%E9%81%8E%E5%8E%BB%E6%9C%80%E5%A4%9A%E3%80%82,(参照2024-11-3)