皆さんは「PISA」という調査を聞いたことがあるでしょうか。
PISAは「Programme for International Student Assessment」の略で、OECD(経済協力開発機構)が世界各国の15歳を対象に行う学習到達度に関する比較調査です。日本でも高校一年生を対象に、2000年から3年ごとに実施されています。
今回は、世界中で取り組まれているPISAの目的や、そこから見えてきた日本の学校教育の課題について解説します。
PISAの目的は?
PISAの目的は、義務教育修了段階の15歳までに身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題に、どの程度活用できるかを測ること。単に知識の量を問うものではないため、国語や算数といった教科ごとの学力調査とは大きく異なります。
この調査の結果から、自国の教育システムの良い点や課題についての情報を得ることができ、国の教育政策や教育実践に生かすことができるのです。
PISAの内容は?
PISAは、子どもたちの学習到達度を測る「主要3分野調査」と、生活実態との関連を把握するための「生徒質問調査」「ICT活用調査」の3種類の調査で構成されています。
主要3分野調査は「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解リテラシー」の3分野で行われます。毎回、重点的に調査する中心分野が設定されており、残りの2分野については概括的な状況が調査されます。
生徒質問調査は、生徒の家庭環境や学習条件などを調べ、学習到達度の関連性を分析。ICT活用調査は、スマートフォンやパソコン、ゲーム機器などさまざまなデジタル機器の利用状況について調べます。
平均点と順位の推移
PISAは過去7回実施されており、直近では2022年に新型コロナの影響で当初予定より1年延期して行われました。PISA2022の結果は2023年内に公表される予定で、現時点では前回調査の2018年までの結果を見ることができます。
PISA2018の結果は?
下のグラフは、主要3分野調査における日本の平均得点と順位の推移を表しています。
(※PISA2015からはコンピュータ使用型調査に移行し、尺度化・得点化の方法に変更があったため、波線で隔てられています。)
参照:OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント.文部科学省・国立教育政策研究所.令和元年12月3日
PISA2018にはOECDに加盟している37か国が参加し、日本の順位は以下の通りでした。
- 数学的リテラシー・・・1位(前回1位)
- 科学的リテラシー・・・2位(前回1位)
- 読解リテラシー・・・11位(前回6位)
科学的リテラシーと数学的リテラシーに関しては世界トップレベル。過去の調査からも安定的にレベルを維持していると、OECDが分析しています。
読解リテラシーに関しては、OECD平均よりも高得点グループに位置しているものの、2015年の6位から順位が大幅に落ちています。
日本の課題は「読解力」
PISAの「読解リテラシー」は「情報を探し出す力」「理解する力」「評価し、熟考する力」の3つの能力を測るもので、ODCDは日本の子どもたちの読解力について
- 「理解する力」の平均得点は安定して高い
- 「情報を探し出す力」「評価し、熟考する力」の低下が顕著
- 自由記述形式の問題において、自分の考えを根拠を示して説明するのが課題
と分析しています。
結果を踏まえた学習指導要領
文部科学省は、PISA2018の結果から見えてきた課題に対応した新学習指導要領を実施するという施策を打ち出しています。その中で「読解力等の言語能力の確実な育成」という項目を掲げており、
- 辞書や事典を活用し、正しく文章を理解する、または情報を扱うための語彙を定着させる
- 文章構成や、論理の展開、文章と図の相関などを踏まえて内容を理解する
- 文章を読んで理解したことに基づいて、自分の考え持ち、表現する
- グラフや図表を読む、実用的な文章(新聞や広報誌等)に触れる等の機会を充実させる
といった点を重点的に推進する方針を示しています。
小中学校教員こそPISAに注目!
PISAは高校一年生を対象に実施されているため、調査結果を細かく分析している小中学校教員はそう多くないのではないでしょうか。
先ほど紹介した通り、PISAは学習指導要領の方針や、中央教育審議会の答申などに大きな影響力をもたらす大事な調査です。各教育委員会が作成しているガイドラインにも関連しています。義務教育を行う小中学校教員にこそ注目してもらいたいです。
教員採用試験でも、現在の教育動向としてPISAの話を聞かれることがあるので、学生の皆さんも最新の結果をチェックしておきましょう。