ベテラン教員は何を意識している? 授業が分かりやすい教員のテクニック5選

学校における教員の仕事は多岐にわたりますが、大部分を占めるのは子どもに授業をすることです。授業の中で子どもに「分かった」「面白い」と言ってもらえれば教員として務める中でも喜びを感じられるのではないでしょうか。今回は授業をより分かりやすくするために使えるテクニックを5つ紹介します。

授業が分かりやすい教員を目指そう!

日本全国どの学校でも各学年において扱う単元は文部科学省によって決められています。そのため、授業進度や難易度の違いはありますが、授業内容自体はベテランも新人も同じ内容を子どもたちに教えることになります。その中で、分かりやすい授業をすることは、担当する子どもたち自身に各教科や学年における目標を獲得しやすくさせ、更に関連する内容への興味・理解を深める大きな手助けになります。

信頼される教員とは?分かりやすい授業をしよう!

子どもたちが学校生活において費やす時間が最も長いのは授業です。そのため、分かりやすい授業をする教員が子どもたちから信頼を得ることができます。授業をすることに慣れていない若手教員は、子どもたちに授業内容を伝えることに必死になってしまい、子どもたちの様子を見ずに授業を進めてしまいがちです。しかし、ベテラン教員は授業中の子どもたちの様子に対して常に目を光らせ、子どもたちが理解しやすいように授業の中で伝える情報量と話すスピードを常に調節しています。

良質なサービスを続けるレストランやホテルにはリピーターが付き、そこから徐々に口コミなどで話題が広まっていきます。教員と子どもの関係もこれと同じです。分かりやすい授業はホテルやレストランなどにおける良質なサービス提供とイコールになります。分かりやすい授業ができる力がある教員とそうでない教員を比べたとき、子どもが「引き続き授業を受けたい」と思うのも保護者が安心して預けることができるのも良質なサービスをしている前者の方です。

「授業が分かりにくい」と言われないために何に注意するか?

授業をしている中で、特に成績の良い子どもから授業が分かりにくいという感想が出てくることは教員にとっては非常に危険な状況です。聞いていても分かりにくい授業をしていては、子どもたちに自分で勉強した方が早いと思わせてしまい授業への意欲を失う可能性もあります。

授業が分かりにくくなる要因の1つとして、教員の準備不足が挙げられます。授業の役割は教科書を読むだけでは分からない単元や問題の段差を、子ども一人で超えられるようにすることです。この段差を子どもたちの実力に関係なく強引に昇らせようとすると、子どもから「授業が分りにくい」と言われることになります。授業が分かりにくいと言われないためには、日頃から子どもが躓きやすいポイントを洗い出しておくことが重要です。

日頃から良い授業を提供するための準備として、ベテラン教員の授業の見学の他、模擬授業を見てもらうというのも授業を良くするために有効ですが、最も重要なことは、教材研究と次回の授業の事前準備です。1回の授業の中で何を扱うのかを決めるのは勿論のこと、教科書や問題集の問題も授業用と宿題用という形で、子どもに定着するように内容を組み立てていきます。実際に板書する内容などを書き起こしておくのも良いですが、重要なことは教科書内容を子どもが理解しやすい順番に整理し、必要に応じて問題を繋ぐステップを用意することです。事前準備が丁寧にできていれば、授業の中で慌てることなく子どもたちが「分かりやすい」と言ってくれるような授業を展開することができます。

授業の出来栄えは少しのテクニックで格段に上がる

ここからは、実際に授業が分かりやすいベテラン教員が使っている授業中のテクニックを紹介したいと思います。特に、その2とその5については事前準備の段階である程度決めておくことをおすすめします。

その1 最初のひと言は「前回は~」

このひと言には2つの目的があります。1つ目の目的は、授業と休み時間の境目を明確にすることです。ここからは授業の時間であるとの宣言することで、子どもたちに休み時間は既に終わっていることを認識させ、授業に集中できるようにします。

2つ目の目的は、子どもたちの学習状況や前提となる知識や経験の把握です。学習は積み重ねです。授業開始時に前回内容の振り返りや既習内容の確認を行い、子どもの理解度を把握します。もし、理解できていないようであれば再度解説でも構いません。同時に、教員側の課題として前回の内容を理解できていない子どもが多いようであれば授業内容やそれに付随する宿題などを見直すようにしましょう。また、復習する機会を用意するなどのフォローをすれば「分からないまま進んでしまう」という子どもの不安を払拭できます。

その2 質問する相手は前もって決めておく

ベテラン教員はその場で選んでいるように見えて、実は質問する相手を事前に選んでいます。教員が授業中にする質問の目的のひとつは「子どもが授業の内容を理解しているか」を教員が把握することにあります。クラス全体の理解度を確認したいならば、成績的にクラスの真ん中くらいに位置している子どもに質問します。成績の良い子どもに授業の理解度を質問しても理解しているので意味がなく、逆に成績下位の子どもに質問すると復習に時間を費やすために授業が止まってしまいます。授業時間を勉強が苦手な子どもだけの指導に割いてしまうのは、指導してもらえなかった子どもから見れば不公平に思われます。復習が必要だと感じた子どもは授業が終わった後にフォローするようにして、確認を取ったら授業を進めるようにしましょう。

もうひとつの目的は、子どもたちのやる気を引き出すことです。難しい質問を成績下位の子どもにしても答えられないことが多いので子どもにとっては辛い経験になってしまい、逆に簡単な質問を成績の良い子どもにしても「馬鹿にされている」との印象を持たれてしまいます。簡単な質問は苦手な子どもに成功体験を積ませて自信をつけるため、難しい質問は得意な子どもに更に奮起してもらうためにと相手に合わせた質問をしましょう。

その3 話す言葉は徹底的に分かりやすくする

授業の分かりやすさは使用する「言葉」にあります。特に、理科や社会など専門的な用語を扱う教科や国語のような概念を説明することの多い教科は子どももイメージが膨らみにくく、理解に時間がかかります。説明する際には、比喩を使ったり、具体的な実例を挙げてから抽象的な話へと説明を進めていくと子どもに伝わりやすくなります。例えば、社会公民分野での円安・円高を説明するなら「円安とは他国の通貨に対して円の価値が下がること」と説明するよりも、実際の円安の例を挙げる方が子どももハッキリと「円安」についてのイメージが見えます。

しかし、単に比喩を使って別のものに置き換えれば良いというわけではなく、子どもたちが知っていることに喩えなければなりません。授業が始まった際の確認で子どもの前提知識を把握しておけば、どんなものに喩えれば子どもたちに一番伝わるかについても考えることができます。先の例ならば「海外旅行の経験がある人は?」という質問から始めても良いかもしれません。

その4 文字の色使いにルールを決める

子どもたちが宿題や復習の際に参考にするものは、教科書とノートです。ノートは授業中の教員の板書が元になっています。教員は、後で子どもがノートを見返したときに、要点がすぐに分かるような板書を心掛けましょう。教科書の文章で書かれている登場人物の関係性をまとめたり、時系列を整理したりと文章だけでは掴みにくいことを図や表として板書にまとめると良いです。

また、板書する文字が丁寧であることは見やすさ・読みやすさの面でも重要なことです。加えて文字の色使いには明確なルールを決めるようにしましょう。例えば、英語であれば文の主語には赤で、述語には青で、補語には黄色で、下線を引くというような具合です。これらの色使いのルールは子どもに対して予め宣言しておくと、子どもたちもノートを見返したときに下線の色だけでどの部分が主語で述語なのかということが一目で分かります。ただし、使う色は限定しておかないと重要な部分が分からなくなってしまい、要点を見失ってしまいます。板書に使う色は多くても5色程度に絞っておきましょう。

その5 時折、雑談を挿んでみる

授業中に雑談をする教員がいますが、実は授業において雑談を入れることは非常に効果的です。そもそも距離があって近づきがたい相手とは大人であっても信頼関係が結びにくいものです。ましてや、教員という存在は子どもたちにとっては数少ない「家族ではない大人」ですから、子どもとの間には教員が思っている以上に距離があります。確かに授業は集中して受けてほしいのですが、距離のある大人がいる部屋で1時間も授業を受け続けることは子どもにとっては教員が思っている以上にストレスになります。

仕事の場における雑談の重要性は多くの識者が論じていますが、雑談にはお互いの心理的安全性を高め、長期的により良い関係性を築く効果があります。これらは授業においても同様です。例えば、毎回の授業で挨拶を交わしてくれる教員とそうでない教員、どちらと友好な関係を結べるかと尋ねられれば、明らかに前者でしょう。他にも、教員が飼っているペットや家族の話、過去の苦い経験などを話してくれるなら、子どもは今まで無味乾燥していた「家族でない大人」のことを知ることができ、教員を身近に感じられるようになります。また、雑談は子どもたちにとってリラックスした状態で聞くことができる話ですから、子どもの緊張を解す意味でも雑談は効果的です。

教員にとって授業は「最大の武器」であることを忘れない

よく営業では「お客様との信頼関係を築くには2分で十分」と言われます。2分という短い時間でも顧客の元へ出向き挨拶をする。たったこれだけのことを何度も行うことで、営業マンは顧客との信頼関係を築いていきます。学校の中で教員と子どもが接するのも、8時間ある中の1時間程度の授業しかありません。この1時間のために、授業が分かりやすい教員は入念に準備を行い、子どもの顔を見て授業を行っています。

授業が分かりやすくなれば、子どもから自然と信頼も寄せられるでしょう。1度信頼関係が出来てしまえば、1回や2回「授業が分かりにくい」と思われてしまっても後々の授業で取り返すことも可能です。教員にとって授業は子どもと繋がるコミュニケーションの機会であり、生徒の様子を観察する場でもあります。教員にとって子どもと繋がる最大の武器を常日頃から磨いておきましょう。

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