【校長インタビュー#10】山脇学園中学校・高等学校の校長 西川 史子 先生へインタビュー!

今回は山脇学園中学校・高等学校の西川史子先生にインタビューをさせていただきました。西川先生が生徒に語る『ある言葉』について、実技教科と5教科の教員の役割の違い、変化の早い社会において、生徒の幹や根となる部分を育てたいという思いなど、さまざまなお話を伺いました。

西川先生が教員になったきっかけと校長になるまで

ー教員になったきっかけを教えてください。

西川先生(以下敬称略):音楽大学で教職をとったことがきっかけです。

私は“書くこと”が好きで、音楽を言葉にして伝える仕事がしたくて出版業界に行きたいなと思っていたのですが、教育実習でいろんな先生に「あなたは教員に向いている」と言われたんです。実習も楽しかったので、大学院の修士過程に進み、教育学を学ぶことにしました。

実は私の母が本校の教員だったのですが、大学院2年生の時に講師の枠が急にあいたと聴き、教員の経験ができるチャンスだと思い受けることにしました。そこで非常勤で8時間ぐらい授業を担当したのが、教員生活の始まりです。

ー出版の仕事ではなく、教員の仕事を選ばれたのですね。

西川:合唱祭に向けて、生徒がひたむきに臨む姿や変容していく姿、目標に向かって歌を作っていくような姿に打たれたんです。音楽を通して人を育てるのが、自分のむいている仕事なんだというのをそこで思いましたね。それで結果的にそのまま30年間ずっと本校に勤めています。

言葉で伝える仕事がしたくて出版業界で働きたいと思っていましたが、入試広報を担当したときに「私立学校とは」「うちの学校の存在価値とは」など様々な記事を書かせていただいたので、その願いも叶ったなと思っています。

ーお母様が教員をされていたことで、身近に感じる部分もあったのではないでしょうか。

西川:親を見ていて、私は教員にはなりたくないと思っていました。忙しそうだし、絶対嫌だと思っていました(笑)

でも、母から大きな影響を受けていたのは確かです。母は私をピアニストにしたかったので、幼い頃からよくレッスンに連れて行かれました。でも、母に反発して高校くらいまでは音楽にちゃんと向き合っていなかったんです。音楽科のある高校に行こうとも思ったけど、いざ受験という段階で突然やめてしまいました。

でも、高校2年生くらいになって、自分から音楽をとったらダメだなということに気づき、音大に行くことにしたんです。その頃から、音楽が人に何をもたらすのかみたいなことを考え始めて、音楽を深堀りしていく楽しさに目覚めました。

ーはじめはお母様に反発していたけれど、同じ道を進むことを選んだのですね。

西川:よく生徒にも話すんですが、人に「やらされてる」と思っているとダメなんですよね。自分から求めた時にそれが自分の志になる、という話をしています。

ー校長になられたきっかけを教えてください。

西川:一昨年の3月に、前校長が体調を崩してしまったんです。当時私は教務部長をしていたのですが、急遽校長と言われたときには、青天の霹靂とはこういうことなんだ、と思いましたね。

ー戸惑いはなかったですか?

西川:もちろんありました。前校長が体調を崩したのが3月の卒業式だったので、4月1日までに気持ちをつくるのに、1ヶ月もありませんでした。

4月に入ったら校長の初心表明や職員会議、入学式、始業式と、校長として話す機会がたくさんあります。そこで喋りながら、校長として学校がどうあるべきかということを自分の中に落とし込んでいったような感じでした。入試広報を10年ぐらい担当しているなかで、いろんな校長先生や学校を知る機会もあったので、その経験があってよかったなと思います。

長年ともに教員人生を送ってきた先生方には「先生たちとつくってきたもの、生徒たちとつくってきたもののなかに答えがあると信じ、私の柱に据えてやっていくだけです」ということを申し上げました。

自分の中にどんな原石があるかを探し続けなさい

ー校長先生になられて、授業はもうもたれていないのですか。

西川:中1の道徳を担当しています。そこで自分の人生のターニングポイントはこうだったとか、順風満帆ではない話もあえてしています。

例えば藤井聡太さんのように、小さい頃からやりたいことがあって、その道を突き詰めていく。それは素敵なことなんだけど、やりたいことが既に決まっていて、その道を突き詰めていく人は実際は多くありません。自分は何が好きなんだろう、何をやりたいんだろうと探しながら紆余曲折あっていい、ということを伝えたいと思っています。

私のピアノのように「やらされている」とか、受験のために勉強しなければ、とかいうことではなくて、すごく面白かったとか、すごく興味を持ったとか、すごく心が動いた瞬間があったみたいなことの中から、自分の原石を見つけて磨いてほしい。これが磨けば光る私の原石だ、という感性みたいなものを中高で磨いてほしい、という話をしています。

だから、先生たちにも自分の人生を語ってくださいと言っています。どうして先生になったのか、そこに至るまでの道のりや経験を大事にしたいですからね。

実技教科は人間性を育てる部分に深く関わる教科

ー音楽は授業数が少なく、受験教科ではないということで難しい教科だと思うのですが、どのようにお考えですか。

西川:「実技教科よりも受験科目の5教科の方が優先」みたいな捉え方をされることもあるようですが、私はそうではないと思います。5教科と実技教科は全然違う役割を担っていて、実技教科は感性や表現力を育てる部分に深く関わっています。また、他の教科とコラボレーションすることで、知識や学んだことを五感で実感することもできます。

全ての教科が子どもたちの頭と心と体をつくる。文系だから理系は必要ないとか、受験科目かどうかが大事ではない、ということは生徒にも教員にも伝えています。

ー生徒や保護者の中には受験に必要な科目だけに力を入れたいというニーズもあるのではないでしょうか。生徒が「実技教科も頑張ろう」と思えるような取り組みはありますか?

西川:校歌に「富士の高嶺をいつも仰ぎ見て、世のため人のためになるような人になりなさい」という意味の歌詞があります。その「高嶺」という言葉をとって、全ての教科を頑張った生徒に「高嶺賞」を贈っています。模試でよい点とかではなくて、実技教科なども含めて全教科に手を抜かずに頑張ることって素晴らしいという姿勢を示しています。学年で10人くらい表彰していますね。

ー音楽の教員から校長先生になられて大変だと思うことはありますか?

西川:当たり前ですけど、弱みも強みもあると思っていますね。特に元々自分にとって人生で深く関わることがなかった分野の学問にふれることはとても面白いのですが、例えば理系研究者の方々のお話を伺うときに専門用語がわからない。ICT用語も苦手です。でも「知らない」「わからない」ということは恥ずかしいことじゃない、ということを生徒にも伝えたい

ーわからないということが、生徒と同じ視点に立てるというメリットだとも考えられると思います。

西川:私の専門がいわゆる受験科目ではないということで、いろんなところに素直に触手が伸ばせて、うちの学校にいいと思うものを検証できると感じます。それは様々な学問分野にわたります。

ー今までどのようなものを学校に取り入れてたのかが気になります。

西川:学校で再生医療を扱いたいと思って、両性類研究の第一人者の方をお招きしたんですね。その方がたくさん連れてきたのは何かって。オオイタサンショウウオを何百匹!イモリ何百匹!苦手意識があったので、恐る恐る見に行くと、それはそれは熱く語ってくださり…。

両生類は尻尾を切られても生えてきます。こういったものが角膜の再生に繋がって・・・という話をしていらしたんです。聞いていてイモリってすごい生き物なんだと。すごく面白いなと。しばらく見ているうちになかなか可愛いじゃないかと思えるようにもなってきて。

生徒の中には無理!って言う子もいれば、可愛い、面白い、という子もいました。幅広くいろんな学びをもたらすことで、1600人いる生徒の誰かの心に響いたり、学びの世界を広げたりすることができたらなと思います。

13000時間の授業、ひとつとして同じ授業がなかった

ー教員を目指す学生に、こういう教員であってほしいという思いを教えてください。

西川:紆余曲折あって教員という仕事にたどり着いた人でも良い、と思います。ただ、人が好きで、人に興味がある人であってほしいと思いますね。

学問に深く興味があって、その学問の魅力を知り尽くしていることは、教員にとっては大事なことですが、それだけだったら研究者でもいいんです。その魅力を伝えるのが教員だから、ご自身が学んだ学問をワクワク教えられることが大切だと思っています。

例えば国語の教員だったら、読書の喜びや時代を経ても色あせない古典の作品の魅力。数学の教員であったら、「公式を使えば解けるよ」ではなく、なぜ公式が成り立っているのかという解説。英語であったら文法を教えることだけではなく、ご自身が英語と知り合ったことで広がった世界についてなど。

「自分」という人間を通してその学問を生徒たちに伝えることができれば、生徒たちが自ら学ぼうとするきっかけの扉を開くことができると思います。

ー生徒に「これを伝えたい!」と情熱をもって授業をするのと、「ここの単元はこう教えればいい」と思って授業をするのとでは、全然違いますよね。

西川:『エースをねらえ!』という漫画がありますよね。『エースをねらえ!』を通して知って、感動した言葉があります。世界で活躍した日本人テニス選手 福田雅之助さんの「この一球は絶対無二の一球なり、されば心身を注いで一打すべし。その一球にかけて、心身を磨くべし。それを庭球する心という」という言葉です。

私は30年間の教員人生で1万3000時間の授業をしてきましたが、ひとつとして同じ授業がなかったんです。

相手が違うから、教える内容が同じでも同じ授業になることはあり得ないと思っていて、新人研修でも「渾身の、絶対無二な一球を打ち込んでください」と話しています。そういう気持ちを持った人に、教員になってほしいです。

どうしたらワクワクできるか、させられるかはずっと変化し続けるべきだと思うんですよね。

実は先日の朝礼で『エースをねらえ!』のこのセリフを生徒たちにも話しました。「先生は授業に渾身の力を込めている。本心の一球を受け止めて打ち返せ、そういう気持ちで全ての授業に臨みなさい」という話をしました。

ー重複する部分もあると思うのですが、教員が志望者側に求めるものってどんなものですか?

西川:先日いらっしゃった新卒の方には、「人を育てることや教科への情熱をもっていてください」「ご自身の教科でいかに人を育てるかということを、言葉で語れるようにしてきてください」とお話ししました。採用試験のときに授業をしていただくんですけど、そのようなことを見ています。

ー評価において「情熱」という表現をされているのが素敵だと思いました。

西川:情熱、もっていてほしいですよね。自分もまさか小さい頃は教員になるなんて思わなかったのになって、結局この学校に30年いて、人生を捧げているわけです。

ワークライフバランスって言いますけど、教員の仕事はやっぱり家に帰っても生徒の顔がよぎったり、明日の授業はどういうふうにしようかと考えたりということが求められるものだと思うんです。もちろん「そうしてください」とは言わないし、うちの学校も働き方改革が進んで昔よりもみんな早く帰れるようになりましたけど、でもそういう教員でいてほしい。 

一方では、自分という人間をより豊かにするために、余暇や家族との時間を大切に過ごしてほしいとも思っています。

変化の早い社会で、根や幹を育てるのが中高の仕事です

ー教員の働き方改革と、生徒を情熱をもって育てることを両立することって難しそうですよね。

西川:本校は法人が教育のことをよく理解しようとしていることが大きいです。10年後、20年後に生き残っていくためには、教員の働き方も大事だし、生徒をいかに育てるかの理念、新しい教育に踏み出していくことも大事だということを法人がよく理解していて、非常に協力的なんです。

私がこの学校に来た時は、法人と教員は一体とは言えませんでしたが、10数年前の学校改革を一緒に行ったことで大きく変わったと思います。

ー何があったのですか

西川:“山脇ルネサンス”という改革で、短期大学をなくして、未来に存在価値のある中高のありかた、新しい学びの形などを考えた改革でした。外部のアドバイザーも入り、新しい視点が入ったことは大きかったです。

ー伝統校に新しい風が入ってきたんですね。

西川:社会とのつながりや変化を敏感に捉えることや、中高時代に何をしておくべきかということを忘れると、伝統校であっても未来は厳しいんじゃないかと思います。

社会もものすごい勢いで変わってますが、うちもコロナで2年前とは全く違います。教育の流れもものすごい速さなので、そこを見ていかないといけないと思っています。

「新しいものにばかり目を向けてもダメなんだ、本校に流れる重みとか、深み、伝統とかを大事にしなければならないんだ」という考えもあって、それはその通りだと思うし、時流に乗っかっていくことがいいことだとは思わない反面、学校教育は過去にないスピードで変化しています。社会とのつながりもしっかり踏まえなければならないと思います。

ー今、女子校は次々共学になっているし、新しい学校も次々できていますよね。そのような学校にバーっとそこに人気が集まっています。

西川:そこに受験生が集まるということは、時代は求めているわけですよね。今の保護者は社会で活用できるいろんなスキルをつけることを求めているし、私もそれは大切だと思います。

これからの生徒たちは、生涯ずっと同じ仕事を続けるわけではないかもしれませんね。でも根や幹がしっかりしていれば、変化に対応し、踏ん張って自分の道を自分で選んでいけるのだとよく話しています。中高時代は、人としても学びという意味でも、しっかりと根を張り、幹を太く育てる時期。どんな社会でも折れることなく、しなやかに枝を伸ばしてほしい。その根や幹を育てるのが、中高6年間を預かる学校の仕事です。

ー本日はありがとうございました。

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edulo編集部

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