【校長インタビュー#21】瀧野川女子学園中学高等学校の山口龍介副校長へインタビュー!

今回は瀧野川女子学園中学高等学校副校長の山口龍介先生にお話を伺いました。
山口先生は東京工業大学大学院理工学研究科の修士課程を修了後、博士後期課程在籍中の2010年に着任されました。在籍中に大学院の教育改革に携わり、日本の大学教育の変化を肌で感じてきた山口先生だからこそ実践できる教育とは。

「日本を元気にするには中高の教育を変えることが近道である」
山口先生が瀧野川女子学園の副校長に就いた経緯

山口先生が教員になられた経緯をお教えいただけますか。

山口先生(以下敬称略):私は東工大でロボット工学を学んでいた博士課程在籍中に、縁あって瀧野川女子学園に着任しました。

かなり珍しいご経歴ですね。ロボット工学を学ばれていたところから、どのような経緯で副校長になられたのですか。

山口:私が博士課程に在籍していた2006年からの数年間というのは、日本の大学・大学院が狭い意味での研究機関から教育機関へ変わり、現代社会をリードする高等機関へ変わるタイミングで、教育が大きく変わろうとしていた時でした。大学教育がもう一度国際競争力を取り戻そうとしている時に、先進的な教育を取り入れ、新しいものごとをチームで生み出せる若者を育てるべく、教育改革が行われるのを間近で見る中で、私自身、大学に入る前の中高教育の重要性を強く感じました。

中でも私が所属していた理工学部は、先端技術分野で産業界と連携して、より実践的、専門的な教育に変わっている最中でした。その反面、理工学、特に工学分野から中高の先生になる人は、教科の問題でほとんどいないため、大学改革を受けて、「中高の時点でこういうような教育ができたらいいのに」と思うことがあっても、それを実行する術があまりなかったんです。

そんな中、瀧野川女子学園の英語科の一教員だった私の母が理事長に就任するのをきっかけに、学園の教育改革に協力して欲しい、という話が私にきました。
そこで「創立者の理念に基づく教育を、最先端の形で実現する」という方向で改革に着手しました。創立者の掲げた理念を現代の言葉で言い換えると、「創造性と起業家精神」なのです。やりたいと思う仕事が世の中になければ、自分で新しい仕事を作れば良いということです。理工学分野で私自身が実現できたらいいなと思っていた、新しいものごとを創る教育と一致していたので、博士課程を休学して着任しました。

そういった経緯だったのですね。

山口:調査や立案は数ヶ月でできるだろうと考えていたのですが、進めていくうちに実行役が必要だとなり、そのままこの仕事を続けています。当時の指導教員に相談したところ、実行役がいないなら、自身でやればいいんじゃない、と言っていただき大変ありがたかったのですが、そうこうしているうちに休学できる年数が過ぎてしまって。博士号は取りそびれてしまいました。(笑)でも、その指導教員だった廣瀬茂男教授も東工大を退官した後、今でも理事として瀧野川女子の教育に関わってくださっているんですよ。

山口先生にとって瀧野川女子学園での仕事は、それほど没頭するような楽しいものなのですね。

山口:はい。テクノロジーの分野で、世の中をもっと面白く、もっと元気に、もっと儲かる教育方法を探っている時に、大学の先生たちともやっぱり中高教育が大切だという考えに達したところでのご縁だったので、ここでの仕事はとてもやりがいがあります。

「実社会に近い教育で、現代に求められる力を現実的な形で鍛える」
大学入試改革初年度に合格実績4倍という結果を出した理由

山口:大学・大学院教育改革を経て、大学の教育プログラムが実社会に近い教育へと変わっていくと、当然入試方法も変わっていきます。これまでのペーパー試験重視の入試方法から、欧米ではすでに一般的な、口頭試問など面接中心の総合的に評価する入試へと大きく変わったのが、2021年の大学入試改革です。

瀧野川女子学園は大学入試改革初年度に、合格実績4倍という結果を出していますよね。

山口:はい。中高という自分の関心ややりたいことを明確化していく時期、そして基本的な能力や心構えが形成される時期に、最先端の仕事や技術、世の中の在り方に触れさせてあげると、将来の選択肢の幅が大きく広がるんです。着任当時から、こういった教育をすることで若者の能力を最大限発揮できるようになると確信していましたし、いずれ大学入試もこうした力が求められるように変わるだろうと思って前々から進めていました。こうした結果に結びつき、手応えを感じています。

瀧野川女子学園は昨年、キャリア教育優良学校として文部科学大臣表彰を受けましたよね。総合的探求が始まる随分前「創造性教育」という名前で独自のキャリア教育をおこなっていると拝見しましたが、具体的にはどのような教育なのでしょうか。

山口:「創造性教育」は、2010年に前身となるプログラムを導入し、2015年より学校独自必修科目としてカリキュラムに取り入れました。中高6年間かけて、週1〜2時間行っています。新世代の大学・大学院教育でも用いられる工学的思考やデザイン思考、MBA的思考などを用いて、新しいものを作り出したり、まだみんなが気づいていない、けれど体験した時に「これが欲しかった」と言わしめるものを創り出す考え、それを仕事に結びつける手法を学びます。

瀧野川女子学園独自の「創造性教育」についてはこちら

山口:創造性とは、「自分の思いを言葉や形にする」ということで、ちょうど中高生の時期に直面する問題です。何かやりたいんだけど、何か分からない、もやもやする。まさに青春です。それを最新の考え方を使って、形にするという手法を教えるだけでも、生徒たちの能力は大きく開花します。それと同時に友達と話していたらいつまでも終わらないというような、とても楽しい時期で、色んなものから色んな連想をしたり、想像したり、新しいものを思いついたりというようなことも、彼女たちは既に日々やっているのです。これを実社会の仕事へと繋げていくことで、社会を進化させていく、イノベーションを引き起こす力へと繋げてあげることができると、私たちは考えています。
実際に生徒たちはこうした手法を得ると、新商品の開発をとても柔軟にやってみせますし、それでいてきちんと現実的な帰着点に持っていきます。その発散と収束は目を見張るものがあります。
中高のうちからより実社会に近い教育をし、現代に求められる力を現実的な形で鍛えてあげることが重要だと私たちは考えています。

この教育を受けた第一世代が今社会人三年目になっているのですが、大学入試での活躍はもちろん、入学後、そして就職活動でも力を発揮できていて、それぞれの職場で大切にされ、おもしろい仕事に挑戦させてもらっていると聞いています。これからどう活躍していくのか楽しみです。

「YouTubeやAIではできない、人だからできる指導」
瀧野川女子学園の教員に求められる力とは

御校のwebサイトで、「生徒は以前から優秀であり、変わるべきは学校である」というものを拝見しました。これまで伺ったような教育を実現するまでには、こちらで指導する先生方にも大きな変化が求められたのでは無いかと思います。新たな指導力というんでしょうか。先生方はこの力をどのように身につけていかれたんですか。

山口:創造性教育は、スタート時には全て私が担当していました。当時は毎回体育館に学年別に生徒を集めて、ワークショップ形式でやっていたんですが、一緒にやっていくと先生たちもどんどん吸収してできるようになっていきます。始めてもう10年近くになりますが、今では学年主任を中心に先生たちが指導してくれています。何より大切なことは、一方的に教えるのではなく、一緒に取り組んで、一緒に学ぶことで、先生も生徒たちも楽しみながら力をつけていくことです。デザイン思考や工学的な思考はテキストを読めばできるというものではなく、指導者と一緒に実践していく中で身につけていくものです。

創造性教育だけでなく、各教科の授業もそれぞれ、独自のプリントなどを用いて実践に近い授業をしています。
例えば社会科だと、歴史や年号や人物名を覚えるといったことは、何も先生と仲間がいるところで学ばなくても一人でできます。それより大切なのは問も答えもない中で、自分たちで、チームで議論して決断・行動していくことです。
この間高校3年の日本史の授業を覗いてみたら、第二次世界大戦について、「どのようにすれば敗戦を回避することができたか」について、歴史的視点から議論するという授業をしていました。つまりどこの段階が最終分岐点だったのか議論していたんですね。

面白い授業ですね。

山口:実際、これはMARCHレベルの大学入試で出た問題なんだそうです。今の大学入試で試される力というのは、こうした答えのない、でも、現実的な問題について検討できる能力なんですね。教科書の内容を学ぶだけであればYouTubeの動画を見ればいいけれど、こうした力はオンライン授業とかAIを使ったベーシックトレーニングだけでは身につきません。仲間や先生と顔を合わせて、日々議論していくことが最も効果的であると私たちは考えます。それこそ学校の一番大きな機能であり、教員が果たす一番大きな役割だと思います。瀧野川の先生たちはそれぞれとても工夫して、こうした教育を実現してくれています。

「その教科を本当に好きかどうか」「大学でどこまで専門性を磨いてきたか」
瀧野川女子学園が求める人材とは

山口:採用するときには、「その教科を本当に好きかどうか」、「大学でどこまで専門性を磨いてきたか」というのを重要視しています。大学で高度な学問的トレーニングをきちんと受けていて、かつ自分自身を鍛えてきた人であれば、いざ教員になっても同じような考え方で生徒たちに接し、力を引き出せます。

私たちの学校は創立以来、最先端の手法を用いて、本質的な知性を育み、「好きなことを仕事に繋げ真に社会に貢献できる女性」「仕事を通して自分の望む人生を手に入れられる女性」を育てることを目的に教育をしています。日々変わりゆく世界の中で一緒に挑戦したい人に、ぜひ我が校に来て欲しいと思います。ぜひ一緒に働けると嬉しいなと思います。

御校には独自のカリキュラムが沢山あると思うのですが、新任教員をどのようにサポートしていらっしゃいますか。

山口:最初の一年目は副担任の位置について、ベテランの先生とペアを組んでアシスタント的な立場でさまざまな授業に参加してもらいます。教員を対象としたデザイン思考のワークショップなどもやりますが、理論よりも実践を優先するプログラムを組んでいます。創造性教育や教科の授業はもちろん、ICT関連についても入ってからしっかり研修するので、心配いりません。

「こんなに面白くて、社会貢献できる仕事って他にない」
教員志望者に向けたメッセージ

教員を志望している方や、教員もいいかなと悩んでいるような学生にメッセージをいただけますか。

山口:大学改革が先行して終わって、大学入試も就職活動もペーパーテスト優先の時代から人物本位の時代に変わった今、中高の教員はより面白い職業になったと思います。中高教員というのは、家族とはまた別の視点で生徒に向き合う、とても大切な大人でもあるのです。生徒の人格形成に関わり、社会に貢献できる若者を育てていく。こんなに面白くて、社会貢献できる仕事は他にないと思います。毎年いろんな生徒がいて、その生徒たちが「先生」って来てくれて、彼女達の想いに応えながら一緒に成長していく。世の中にはいろんな職業があるけれど、やっぱり人を育てる仕事って面白いし、今育てている12歳の生徒が社会に出るのは少なく見積もって10年後。10年後にちゃんと活躍できる若者を育てるには、先生たちは10年先を見据えた教育を行う必要があります。そういう意味で言うと教員というのは最先端のおもしろい仕事です。ですから是非挑戦してもらいたいなと思います。

それから、各学校の校風や労働環境をきちんと見極めて、自分の考えに合う学校を見つけて欲しいと思います。私立学校は、本当に自由に学びを提供する機会を与えられていますし、労働環境も学校によって大きく異なります。例えば我が校は80%以上が専任職員ですし、若くても能力に応じて職位や給料も上がっていくようになっています。色々と調べてみて欲しいと思っています。

貴重なお話をありがとうございました。

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