【校長インタビュー#22】文京学院大学女子中学校・高等学校(東京都)の清水直樹校長へインタビュー!

今回は文京学院大学女子中学校・高等学校の清水直樹校長にインタビューさせていただききました。令和6年に創立100周年を迎える同校が掲げる教育ビジョンのほか、清水先生の教育に対する思いや、求める教員像など、様々なお話をお聞きしました。

清水先生が教員になったきっかけ

ー大学卒業後すぐに文京学院大学女子中学校・高等学校に採用され、今年で36年目とお聞きしています。新卒からこちらの学校を選ばれた理由を教えてください。

清水先生(以下敬称略):これはもう明確ですね。バレーボール部の指導者として、全国大会を目指したかったからです。そのために私立の教員になったと言っても過言ではありません。
私の子ども時代、日本のバレーボールはオリンピックで金メダルを取るなど国際大会での活躍が凄まじく、大変な人気スポーツでした。高校生の全国大会である春高バレーの華やかな世界にも憧れ、中学でバレーを始めました。地元の大阪は強豪揃いで、高校時代は府予選でベスト8に入りましたが、残念ながら全国大会には届きませんでした。

ー部活動がメインの先生は体育教員が多い印象がありますが、清水先生は社会科の教員をされていたそうですね。

清水:私が学生時代に熱中したものは二つあり、一つがバレーボールで、もう一つが歴史です。中学校で習う歴史は日本史がほとんどですが、特に惹かれたのが、たまに出てくる朝鮮半島や中国の歴史ですね。古代ローマやギリシャにも興味を持ちました。高校に進学すると、世界史という科目があり、意欲満々で学んだ結果、一番の得意
科目になりました。この世界史のおかげで、勉強して知識を得ることが初めて楽しいと感じることができました。
教員になろうと決めたのは最後の春高バレーの予選で負けた後です。教えるなら絶対に世界史と決めていました。とにかく「世界史の教員になって、バレー部の監督として全国大会を目指す!」という、今から考えると恥ずかしくなるくらいシンプルな理由でしたね。

私立ならではの部活体制

ー清水先生ご自身もバレーボール部監督として部活動に力を入れて来られたと思いますが、こちらの学校では現在どのように部活動が行われていますか。

清水:学校の部活動は一般的に、教員の学生時代の経験に委ねられているという側面があり、学校全体のマネジメントがすごく難しいと感じています。それでも私立である本校では、部活動に力を入れたい教員が長く安定的に指導することができるし、競技経験のない教員が顧問となる部活動については、かなり以前から外部コーチに指導してもらっています。

また、教員の異動がない私立だからこそ、競技経験のある教員が新しい活動をゼロから立ち上げ、育てていくことができます。例えば、本校のサッカー部や新体操部は、経験のある教員が最初に部を立ち上げて、地道に活動を続けた結果、今や東京都上位で活躍しています。2004年にクイーンとなった吉峰翼さんは本校かるた部の出身ですが、人気が下火になったこともあり、休部をしていました。しかし、6年前「ちはやふる」のブームに乗って活動を再開させました。現在は、大学時代に競技かるたの経験がある教員の指導の下で大会出場目指してがんばっています。

ー私立学校というと校内外からの指導が充実していて、強豪のイメージがあります。部活動の役割について、清水先生はどのようにお考えですか。

清水:私自身はバレーボール部を全国大会に導きたくて教員になりましたが、当然のことながら「大会での勝利やコンクールでの入賞が目的ではない」と思っています。
今、世間では学校の部活動の在り方が大きく問われています。日本の学校で根付いてきたこの部活動には生徒たちが成長していくための要素がいくつもあると考えています。学年は横のつながりですが、中学1年生から高校3年生までが参加する本校の部活動は縦のつながりです。

これだけ幅広い学年が関わると、他の学年から学ぶものは多くあります。また、勉強以外の目標を設定できる場でもあり、生徒たちの成長のために大切なステージの一つだと思っています。

100周年に向けて掲げる教育ビジョン

ー学校全体で目指している教育方針についても教えてください。

清水:本校は今年で創立99年を迎えます。創立95周年の時に「BUNKYO100」という中期教育ビジョンを作りました。このビジョンには「自立した学習者の育成」「世界標準の学力と人間力」「日本型教育の継承と発信」「人生100年時代の永久サポート校」という4つの目標があります。

ーこちらの中期教育ビジョンにはどのような思いが込められているのでしょうか。

清水:まず、「自立した学習者の育成」についてお話しします。
この目標には、生徒たちが大学という次のステージに進む前に、「考える力」を身に付けてもらいたいという思いがあります。本校では、「探究の時間」を大切にしており、中学1年生から高校2年生まで計画的にカリキュラムを構築して取り組んでいます。

先日は高校1年生が「20年後のプリキュア」について考えました。社会情勢を予測し、「LGBTを考慮した男子のプリキュア」や「平均年齢80歳を超えても地球のために戦う高齢プリキュア」といったアイデアが出ました。それぞれのプリキュアのストーリーを考え、関連グッズを考案し、その需要を予測していく。

こういった「考える力」のベースとなるのが「知識」であり、それを支えるのが「ICTスキル」です。そのため、日頃の授業での知識の獲得も重要であり、ICTツールを使いこなす力の向上にも力を入れています。

ー「考える力」は近年、文部科学省が推奨していたり、大学入試で重視されていたりして、こちらの学校が力を入れるのも頷けます。次に「世界標準の学力と人間力」についても教えてください。

清水:国際社会でコミュニケーションを取るとなると、やはり英語が欠かせません。本校は特に英語教育に力を入れており、4技能をバランスよく身に付けてもらいます。目標は高校卒業時に全員が英検2級レベルに到達すること。そして、何より英語を使うことを恐れないマインドを身につけること。そして、世界標準とは、単に英語力を高めることだけではなく、世界中の「違いという多様性」を理解し、さらにはその「違いを楽しむ」レベルであるということです。生徒には、そのレベルにまで到達してほしいと願っています。

本校には様々な国籍の生徒が在籍しています。例えば、ムスリムの生徒はヒジャブを被り、昼休みには祈りを捧げ、ラマダーンの時には断食をします。本校の生徒たちは、そういった姿を間近で見ていて、柔軟に受け入れています。さらなる多様性に触れてもらうため、海外での教育提携校を拡大しており、留学制度や語学研修等を充実させています。高校の修学旅行もマレーシアと九州の選択制です。

また、2022年1月には、教育提携したアオバジャパンインターナショナルスクール文京キャンパスが本校のインター共用棟に開校しました。生徒の国籍は様々で、授業は全て英語で実施されている学校です。今、このインターとの交流をどんどん深めているところです。この交流を通して生み出されてくる本校生徒たちの変容がとても楽しみです。

ー三つ目の「日本型教育の継承と発信」に対しては、どのような思いが込められているのでしょうか。

清水:日本型教育とは、これまでの日本の学校で普通に行われている教育です。ただし、日本では普通でも、この日本型教育は世界でも稀な教育です。日々の生活場面での礼儀やマナー、毎日の清掃活動、給食でのマナーや衛生管理、行事の企画や運営、放課後の部活動などです。そして私学なら各校の伝統に根ざす教育活動もあります。本校ならば、運針やペン習字です。ここから身につけることは、品位、規律、尊重する心、情熱、継続力など多種多様です。この活動を今まで以上に意識することでその効果はより大きくなると考えています。
こういったことは海外の学校では考えられません。本校では、このことをエジプトやマレーシアの高校生と交流しながら積極的に発信しています。もちろんICTを活用してのオンライン交流です。

ー4つの目標の中で最後になりますが、「人生100年時代の永久サポート校」とは、どのような目標ですか。

清水:私立学校として、卒業生とずっと繋がりを持ち、応援し続けたいという強い思いがあります。
卒業生が母校を訪ねてきてくれる時に、この年まで教員をしていて良かったなと特に感じます。学習面で優秀だったり、部活動や生徒会で活躍したり、または生活指導で手を焼いたり…、昔話に花が咲きます。

おとなしく控えめだった生徒が、立派な社会人となって訪ねてきてくれるのも嬉しいできごとです。卒業生が「先生の授業で世界史が好きになりました。授業のプリントは今も持っています」と言ってくれたことがあり、教師冥利に尽きました。最近では、自分の娘を連れて学校説明会に来てくれる卒業生も増えています。

求める教員像 科目の「知識」は大前提

ー最後に、採用についても教えてください。こちらの学校が求めているのはどのような人材でしょうか。

清水:採用するに当たって重視しているのは、以下の4つの観点です。

  • 「専門科目の基礎知識」
  • 「自分を律していく自己コントロール力」
  • 「成長するための素直さ」
  • 「同僚性(職場での協調性)」

いわゆる「学歴フィルター」はありません。
どこの大学の出身かということよりも、「海外で語学習得に励んだ」とか「学生時代に社会とつながる経験をした」とか、そういった豊富な経験を持っている人を積極的に採用したいです。
また、授業をするには、「知識」が特に重要です。経験がなければ、はじめは下手に決まっています。それでも、専門科目に対する知識があれば、スキルを身につけた後の姿が、ある程度、我々には分かります。最初は拙いスキルであっても、生徒たちの質問に答えられるだけの知識は1年目から必要です。
クラス経営や部活指導が上手であっても、授業で生徒の信頼を得られない教員は、いつか必ず行き詰まると思います。授業というのは、教員の骨であり、血液であり、一番の軸です。

次に重要なことが、自己コントロール力。教員は生徒たちの最前線にいる大人の代表です。だからこそ、自らを律していく力は必要です。また、何歳になっても成長していくための素直さも大切です。これがあれば、周囲の教員がサポートしやすくなりますし、周囲との協調もとりやすくなるはずです。学校は人を育てる場ですので、最終的には、こういった人柄を見ます。

ーこちらの学校の教員を目指すに当たり、心構えは何かありますか

清水:今年の教育実習生にした話をご紹介します。
最近の教育現場では、保護者対応の大変さがよく話題になります。いわゆる「モンスターペアレント」という言葉をよく耳にしますが、教員側が勝手に「モンスター」にしている場合も多いと思います。学校に頻繁にクレームを入れてくる保護者に対応する際に大切なのは、保護者自身を見るのではなく、その子どもを見ることです。その子を取り巻く問題が解決すれば。保護者の不安も取り除かれるのです。子どもに焦点を当てて、解決の糸口を探るのがポイントです。

もう一つ。チームを組んで対応していくこと。自分一人ではなく、常にチームで情報共有した上で対応していく。そのための協調性は絶対に必要です。また、教員間の技能格差が拡大していることについても触れました。教育現場のグローバル化とIT化の進行に伴って、教員の英語力とICT機器の知識とスキルが求められるようになっています。

今、この格差が大きくなっています。これまで必要とされていなかった素養が教員に求められるようになったのです。例えば、本校ではタイの学校と科学交流を行っていて、理科や数学の教員も英語で授業を行うことがあります。
このように、英語教員以外にも英語力が求められることが多くなっています。また、今、一人一台タブレットという教育環境作りが進んでいます。授業はもちろんのこと、様々な場面で、この機器をいかに効果的に活用していけるか。専門科目の知識以外に、意識してこういった力をつけていくことも大切です。

ー授業の軸となる知識を大前提に、人柄、経験、技能のバランスが取れた人材を求めているということなのですね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

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