教員不足を補う「臨時免許」!よく間違われる「免許外教科担任制度」の違いとは?

文部科学省が2024年2月13日に発表した『中学校の技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について』の文章が発端となり、全国の中学校では、「4人に1人の割合」で正規の免許を持っていない技術科教員が指導していることが明らかになりました。

「臨時の教員では教育の質に問題あるのでは?」「そもそも法律に違反しているのでは?」と心配に思う声も上がっています。そこで今回は、臨時を含めた「教員免許」について正しい知識を持っていただくためにベテラン教員が解説をしていきます。

参考文献:「技術」の中学校教員、23%に正規免許なし…2028年度までの解消目指す,読売新聞オンライン,https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20240213-OYT1T50117/(参照2024-3-10)

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

「臨時免許」と「免許外教科担任制度」の違い


教員免許状の種類に関しては「教員を目指すなら知っておくべき!教員免許状の種類を解説します」をご確認ください。

はじめに、ニュースなどで「臨時免許教員が技術科を教えている」という表現を耳にすることがありますが、これは正しい表現ではありません。まずは、間違われやすい「臨時免許」と「免許外教科担任制度」の違いを理解しておきましょう。


「臨時免許」とは

普通免許状を有する者を採用できない場合に限り、例外的に授与する「助教諭」の免許状であり、都道府県教育委員会が行う教育職員検定(人物・学力・実務・身体)に合格した場合に取得ができます。つまりは、『教員免許を持っていない人が学校で指導をする際に特別に付与されるもの』です。


「免許外教科担任制度」とは

一方で、専門の免許を持っていない教員が別の教科を指導することを「免許外教科担任制度」と言います。
例えば、中学校の理科免許を保有している教員が「技術」を指導することなどがこれに当たります。特に技術科の指導は、「免許外教科担任制度」で行われていることが多くなっています。

参考文献:中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について(通知),文部科学省,https://www.mext.go.jp/content/20240209-mxt_jogai02-000006333_1.pdf(参照2024-3-10)

参考文献:教員免許制度について,文部科学省,https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/136/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2018/09/12/1408735_003.pdf(参照2024-3-10)

臨時免許と免許外教科担任制度の法的な違い


混同されやすい「臨時免許」と「免許外教科担任制度」は法的なルールも全く異なっています。

◯「臨時免許」の場合
・教員免許を保有していなくても教育職員検定に合格すれば付与
・学校での立場は「助教諭」
・有効期限は3年間
・付与された都道府県でのみ有効

◯「免許外教科担任制度」の場合
・校内の他教科の教員免許状を保有している教員に適用
・適用されるのは教諭のみで講師は不可
・有効期限は1年間で、校長や教諭が都道府県教育委員会に申請


多くの教育現場では1年ごとに転勤があり、教科の教員も異動します。そのため、一時的に不足する教科を受け持ってもらうことができる「免許外教科担任制度」を利用する学校が多いのが現状です。


「臨時免許」や「免許外教科担任制度」の条件とサポート体制

臨時免許や免許外教科担任制度による教員による指導だと不安だ、または教育の質の低下につながるのではないかと危惧する人もいるのではないでしょうか。もちろん、専門の指導に比べれば指導力が落ちるのは致し方ないところです。一方、逆に言えば、複数の教科を受け持つことができるのは簡単なことではありません。この免許や制度を利用するにあたっては管理職を通すことになりますし、本人の意向調査、周りの人から見た評判なども加味されます。つまり、一定水準以上の指導力があり、自分の専門教科以外にも興味をもって指導することができる人が選ばれているのです。

各自治体の教育委員会においても「臨時免許」や「免許外教科担任制度」の教員に対するサポートをしており、専門教科を持つ教員によるサポートや退職教員をアドバイザーとして派遣することで、子どもが不利益を被らないように整えています。

「免許外教科担任制度」はなぜ、いつ作られたのか


免許外教科担任制度も臨時免許も、近年教員不足になったから利用者が増えているというわけではありません。実は、昔から利用されてきた制度なのです。元々は、戦後のベビーブームによる児童生徒の増加への対応策として生まれました。
近年は子どもの数が減ってしまい、学級数の減少に伴って教員の配置も減少しました。特に過疎地域や離島は顕著です。

中学校は、どんなに小さな学校でも10教科はあるので最低10人の先生を配置していなければいけません。しかし、現実には配置ができないため、「免許外教科担任制度」を使い、専門ではない教科の指導をします。

また、学校の統廃合によって義務教育学校(小学校・中学校の課程を一貫にして9年で教育する)の場合、中学校の課程(後期課程)を指導する教員が小学校の課程(前期課程)を指導する際にも小学校教諭の免許が本来必要になります。指導する課程の免許を持っていない教員は「臨時免許」を利用しなければいけません。
このように教員不足だから「免許外教科担任制度」や「臨時免許」を使い始めているのではなく、昔から使われてきた制度であることを知っておきましょう。


交付数は右肩上がり!小学校の臨時免許数が過去最多を記録


教員不足が深刻になっているのを表す数値として気になるのが「小学校の臨時免許発行数が過去最多」という状況です。例えば、愛知県教育委員会が発行した小学校の臨時免許は令和4年度が18件に対して、令和5年度は66件と3倍になっています。これには大きく2つの理由があります。

1つ目は、小学校の教員不足です。「臨時免許」を交付しないと必要人数を確保することができない状態になっています。2つ目は、小学校の教員免許を保有している人が少ないという理由です。教員免許を取得できる大学や課程に通っている学生であればイメージが付くと思いますが、小学校の免許を取得できるカリキュラムを持っている大学よりも中学校や高等学校の教員免許を取得できるカリキュラムを持っている大学の方が圧倒的に多いです。また、小学校の教員免許取得の方が中学や高校の免許取得よりも必要な単位数が多いので、小学校免許の取得を諦めてしまう人もいます。そのため、教員採用試験も自然に小学校、中学校、高校と倍率が高くなる傾向があります。

そこで目を付けられているのが中学校教諭の免許を持つ人の中から希望者を募り、臨時免許を交付して小学校に異動させる方式です。これによって少しでも教員不足の解消を狙っています。

教育活動を継続する際のやむ負えない制度


現在の臨時免許や免許外教科担任制度のイメージは、教員不足を補うためのやむ負えない制度になっている部分があります。確かに、このルールがあることによって現場が助けられているのは事実です。この制度があるから学校運営をすることができているところも数多くあります。ただ、マスコミなどの報道を見ると制度について正しく認識されていない部分があります。
これから教員を目指す方にはまず、制度についての正しい認識を持ち、もし、自分の勤務する学校がこの制度を利用していたら、もし、自分が管理職から打診されたらどうするのかということも考えておきましょう。

参考文献:免許外教科担任の許可等に関する指針,文部科学省,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/1410441.htm(参照2024-3-10)

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