教員の多忙化が問題となっている昨今、注目されているのが「働き方改革」です。時間外労働の短縮や部活動の地域移行など、各自治体でさまざまな取り組みが行われているでしょう。しかし現場の感覚としては、働き方にそれほど大きな改善は見られていないように感じます。
筆者は14年間教員として働いてきましたが、業務は減るどころか増える一方です。行政による「働き方改革」を待っていたら、いつ実現できるかわかりません。そこで今回は、明日からすぐに実践できる「セルフ働き方改革」を5つ紹介します。仕事が全然終わらなくて自分の時間がない、と感じている先生方の業務効率に役立てば幸いです。
教員の仕事を効率化する7つの方法
仕事の優先度を決める
教員の仕事はさまざまな分野にまたがるマルチタスクです。全ての仕事を効率的に管理できるように、優先順位をつけて管理していきます。
おすすめは、次の二軸で仕事を管理する方法です。
- 緊急度:すぐに取りかかる仕事かどうか
- 重要性:他の教員に迷惑がかかる仕事かどうか
緊急度は締め切りまでの距離を指し、例えば提出期日が近い報告書などは緊急度が高い仕事に分類されます。一方、重要性は自分で完結する仕事かどうかが判断基準です。学校行事の企画・運営を担当している場合、あなたの仕事の遅れが他の教員にも影響する可能性があるので重要性は高い仕事に分類できるでしょう。この2つの軸を使って仕事を4種類に分類し、優先すべき仕事から行うことにより「やらなくて良い仕事」を見つけることができ、余計な仕事に時間を奪われずに済みます。
終わりの時間を決める
終わり時間を固定して作業することにより、効率と生産性の向上が可能です。仕事を完了させるまで一定の時間しかないとわかっているため、集中力が高まるとともに、先延ばしの防止にも役立つでしょう。筆者自身も毎日定時までに仕事を終わらせるという目標を設けて業務をしているため、無駄な時間を過ごさず集中して取り組むことができています。これを続けていくことにより、仕事をリストアップしなくても、おのずと優先度が高い仕事から効率的にこなせるようになるでしょう。
また、終了時間を設定する方法は、全員で完了時間を共有でき、タイムマネジメントの感覚が生まれるため、チームの仕事でも役立ちます。例えば、会議の冒頭で「今日の会議は◯◯時までです」と宣言することにより、不要な延長を防ぐことができます。
前年踏襲を活用する
前年踏襲はマンネリズムを生むため、嫌われるのが一般的です。しかし、時には業務の効率化に役立てられるでしょう。特に優先度の低い仕事は、時間がかかるわりに退屈で「なんのためにこんな仕事をしているのだろう」と感じることがあります。
筆者の勤めた学校では、運動会の種目説明を毎年手書きで作り直していました。しかし、大きな説明の変更もないため、書き直しは中止しました。
「子どもたちの活躍の場が減る」と訴える教員もいましたが、前年の種目説明書を見ながら写すよりも成長につながる仕事があるはずです。そのため、書き写す時間を無くして「子どもたちで競技の作戦を考えたほうが成長につながるのでは」との意見から、書き直し作業はなくなりました。
紙の保存をやめる
あらゆる紙資料の保存をやめることで、スペースと時間が無駄になりません。筆者は、後から見直しやすいようにと会議などで各教員に配布される職員向け資料を1年間、すべて捨てずに保存したことがあります。資料の厚さは10センチを超えましたが、そのうち一度でも見直した資料は半分以下です。結局3月末にシュレッダーに投入してしまうので、保管する意味をあまり感じませんでした。
現在では紙資料の保存は全くせず、以下の手順でデータ保存しています。
- 資料の保管が必要か判断する
- 必要なものは写真に、不要なものは廃棄する
- 写真が不可のものは、スキャナーでPDF化
- データとしてフォルダにまとめて保存
スキャナーがなくてもスマホのアプリで撮影すれば、簡単にPDF化が可能です。
また、データ保存のメリットはスペース節約だけではなく、検索ですぐ見つけられる点も挙げられます。「あの資料、どこだっけ?」と分厚いファイルをめくる必要がありません。一般的なビジネスマンは1年間で150時間を探し物に費やしているという研究もあります(※)。膨大な資料探しをやめて、もっと重要な仕事に時間を使いましょう。
参考文献:『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』https://www.soshisha.com/book_search/detail/1_1146.html,リズ・ダベンポート 草思社 2001
パソコン周辺機器を活用する
周辺機器を活用すると、仕事が効率化できます。
例えば次のような操作をショートカットキーで行っている方も多いはず。
- コピー:Ctrl + C
- 貼り付け:Ctrl + V
- 切り取り:Ctrl + X
- 印刷:Ctrl + P
これらのよく使う操作をさらに効率化するために、多機能マウスを使ってワンボタン化してみませんか。
ゲーミングマウスなら多くのボタンがマウス上に付いており、上記のショートカットキーを各ボタンに割り当て可能です。
例えばコピーの場合、右クリック、コピー、そしてまた右クリック、貼り付け、と操作していたら10秒かかるところが、3秒で終わります。1年間で300回行うとしても、30分以上の節約です。30分あれば授業準備が1コマ分できるので、効果は決して小さくありません。
また、デュアルモニターも効果的です。学習指導要領のPDFを見ながら指導案を作成したり、前年度の資料を参照しながら今年度の起案書を作成したりする場合に活躍します。今やデスクワークは、教員の業務の中でも大きなウエイトを占めています。細かい作業を効率化するだけでも、1年間で見れば大きな時間短縮につながるはずです。
教員の残業時間は平均120時間超オーバー
そもそも教員は現時点でもかなり超過労働の状態と言えます。連合総合生活開発研究所が2022年9月に発表した報告によれば、教員の時間外労働は平均123 時間 16 分です(※)。過労死ラインである月80時間を大きく超えているうえ、今のところ効果的な改善策も示されていません。身近なところから仕事を減らすことができなければ過労死ラインを超えた労働があと何十年も続くことになってしまいます。では、どのように仕事を減らせばよいのでしょうか。
参考文献:連合総合生活開発研究所.「教職員の働き方と労働時間の実態に関する調査結果 中間報告 」.22年9月(参照2023-01-24)
教員の仕事そのものを減らすことも重要
業務の効率化が手抜きに感じる完璧主義の方のために、あなたの仕事量そのものを減らす2つの方法を紹介します。
他の教員の力を借りる
仕事によっては、自分自身がするよりも他の教員が行う方が早く終わるものもあるので、得意な仕事をお互いに手伝い合うことで一石二鳥となるはずです。学校は様々な能力をもった専門家が集まっているため、専門知識を持った教員に仕事をまかせるのも効率化につながります。例えば、小論文指導を国語科の先生にお願いするかわりに、自分が得意な仕事を引き受けるのも良いでしょう。
- 数学:データ整理、分析
- 美術:学年掲示板の掲示物作成
- 社会:修学旅行の見学地リスト作成
上記のように担当教科によって得意な分野もあるため、担任が全てのクラス業務を引き受けるのではなく、分担することで質を下げずお互いに仕事を早く終わらせることができます。
子どもの力を借りる
子どもができることは、子どもに任せることも大切です。メリットは先生の仕事を減らすだけではありません。子どもに任せることで自分たちで考える力がつき、計画性や実行力、改善する力が少しずつ身につくでしょう。
筆者は担任をすると毎年「担任が1週間いなくても問題なく過ごせるクラスを作ろう」と話しています。例えばよく行われる自主学習ノートの宿題は、以下のステップアップで手放していました。
- 担任が全員分をチェックする
- セルフでチェックして問題なければ提出し、担任が全員分チェックする
- セルフチェックが問題ない子どもに点検役を任せ、担任が全員分チェックする
- 点検役を交代し、担任が全員分チェックする
- 当番が点検し、担任は簡単にチェックする
この段階に到達するまでは、習慣づけや承認を繰り返しながら定着させる必要があるため、1ヶ月ほどかかるでしょう。
しかし、最初の1ヶ月間を徹底的にチェックしておけば、ほぼ全員が点検しなくても問題ない状況を作れます。2ヶ月目からは簡単なチェックだけで終わるので、残りの11ヶ月は時間を節約できるはずです。子どもに任せられる部分は1学期のうちに手放し、教材研究や授業準備を充実させたほうが子どものためにもなります。
ただし責任を持って手放すのと無責任に放っておくのは全く異なるため、任せきりにせず必ず定期的にチェックを行い、適切な状態が保たれているか確認することが重要です。
まとめ:教員の働き方改革は人に任せず、自分で効率化を進めよう!
1番早い働き方改革はあなたが働き方を変えることなので、まずは自分の業務効率化からはじめてみませんか。本記事では、明日からすぐに取り組める方法ばかり紹介しています。「できそうかも」と感じた1つの方法でもいいので、まずは実行してみましょう。やって合わなければ、あなたの好みに応じて変えていけば良いのです。
大きな改革を待っていても、おそらく変化は起きないはず。
働き方改革の目玉だった「部活動の地域移行」も、当初の目標である2025年度までの実施が難しくなっています。このような状況なので、教員一人ひとりが各自で働き方を変えていかないと、いつまでも仕事は減りません。まずは、あなたがセルフでできる「働き方改革」をすすめましょう。
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