【知っておきたい】学校教員と義務教育における食育

みなさんは「食育」と聞いて何が思い浮かびますか?給食や調理実習、家庭科の授業のことを連想するでしょうか。
実は、食育とはもっと幅広い分野のことを指します。この記事では、食育とは何なのか、教員は食育について何を指導するべきなのかを紹介しています。

食育とは給食の時間や家庭科の授業だけで行われる訳ではない

新学習指導要領において、「学校における食育の推進」がこれまで以上に明確に位置付けられました。例えば、小学校及び中学校では、各教科、道徳科及び総合的な学習の時間などにおいても、それぞれの特質に応じて適切に行うよう努めることが示されました。
つまり、食育は給食の時間や家庭科の授業だけで行われる訳ではないということです。

具体的には、食に関する指導の目標として、学校教育活動全体を通して

  • 食事の重要性や栄養バランス、食文化等についての理解を図り、健康で健全な食生活に関する知識や技能を身に付けるようにする。(知識・技能)
  • 食生活や食の選択について、正しい知識・情報に基づき、自ら管理したり判断したりできる能力を養う。(思考力・判断力・表現力等)
  • 主体的に、自他の健康な食生活を実現しようとし、食や食文化、食料の生産等に関わる人々に対して感謝する心を育み、食事のマナーや食事を通じた人間関係形成能力を養う。(学びに向かう力・人間性等)

ということが明記されました。

このことから、食育とは、単に食べることだけでは無く、食べ物が自分たちの元に届くまでの過程であったり、食事を通しての人間関係であったり、それらを自己管理できる力を身に付けることを示しているのです。

各教科における食育

ここでは、実際にどのような指導をしていくことがふさわしいのか、教科を例に挙げて説明していきます。

「社会の授業」では日本の農業や輸出輸入などの知識を得る

例えば、日本独自の農業に目を付けさせます。そうすると、米づくりが特徴的であること、米づくりに適している地域があることが分かります。そして、機械化による効率化や省力化、収穫量の増加、品種改良、気候などにも視野を広げ、主食である米の生産に関わる人々の工夫について調べ学習をすることもできます。野菜や水産業についても同様に調べ学習ができるでしょう。

また、日本人の食生活の変化から、輸入や輸出など外国との関わりなどに着目して調べ、食料自給率について学ぶこともできます。こうしたことから、日本の食料生産における問題を取り上げ、正しい知識に基づいて、自ら判断し、食品を選択する能力を身に付けたり、食料の生産にかかわる人や動物に対する感謝の心をもつこともできます。

つまり、社会では資料や地図などの読み取り、そして調べ学習などから、食育について学ぶことができるのです。

「理科の授業」では食べ物の栄養分や食物連鎖を理解する

理科と食育は一見関係なさそうに見えますが、食べ物を食べるのは人間です。その人間自身について知ることも、食育の一つなのです。例えば、食べ物の中の栄養分について知り、その栄養分をどのように消化、吸収されるのか知ることも食育です。そして、動物によって食べ物やその摂取の仕方が異なることから、動物と食べ物との関係について理解できるようになります。

このように学んでいくと、生物の成長、遺伝、多様性、進化が、食と関連していることについて分かるようになります。最終的には、食物連鎖の学習を通して、生物同士は食べ物でつながっていることについて理解することができます。食べ物を粗末にできない、というもったいない精神を育むこともできます。

より日常的な話題とするために、消化によいものや栄養のあるものなど、食と健康や成長との関係について、給食の献立で使用した食材の栄養と関連させて指導を行うと良いでしょう。

「生活の授業」では郷土料理や名産物について知る

小学校の生活では、食事がどのように自分自身と関係しているかを理解することから始めます。家庭で家族と一緒に食事をしたり、料理の手伝いなどをしたりしたことを振り返り、食事の喜びや楽しさに気付くようにします。また、季節の行事や、地域の伝統行事について調べたり、参加したりすることを通して、郷土食や産物について親しみをもつようにします。

また、学校内に目を向け、給食室や調理員等との関わりなどを取り上げることもできます。

「技術・家庭の授業」では献立や栄養バランスなど実践的な知識を学ぶ

給食の献立を取り上げながら、中学生の時期の栄養や食品の組み合わせや、1日分の献立作成の方法を学んだりします。自治体によっては、子供達の考えた献立を、給食の献立の中に組み込むことなどにより、生徒の献立作成への意欲や関心を高める取り組みを行っている所もあります。

また、調理実習で使用する食材や用具、食器の安全で衛生的な取扱いについて、実践を通して学びます。その際、アレルギー疾患を持つ子供がいる場合は、材料にアレルギーの原因となる

物質を含む食品がないか確認し、自分自身で事故の防止に努めるようにします。

つまり、技術・家庭は実生活に最も近い、実践の教科と捉えて良いでしょう。

「道徳の授業」では食事の作法や感謝の心を学ぶ

道徳では、食への感謝の気持ちを育てることができます。
例えば、「礼儀」について学習する際に、食事の挨拶やマナーを取り上げることが考えられます。また、「勤労,公共の精神」について学習する際には、農業や漁業に携わる人の、自然と対峙する故の困難を題材とする中で、食べ物を大切にすることについて取り上げることができます。

小学校の特別活動では食事を通して交流を深める

例えば、給食を楽しく食べるための机の配置やグループの作り方などについて、学級で話し合い、子供達自身が主体的に楽しい給食の時間をつくろうとする取り組みが挙げられます。
また、学級の係活動で、給食係を作り、掲示物を作ったり、給食のメニューを発表したりするなどの活動が展開できるようにすることも考えられます。教育する側の側面としては、生徒がのびのびと特別活動が行えるための学級経営を考えるのも大切です。

さらに、遠足・集団宿泊的行事では、家族が作ってくれたお弁当や、修学旅行の宿泊先での食事など、みんなで一緒に食事をする場を通して人間的な触れ合いを深め、楽しい思い出を作ることができます。

アレルギー対応が学校では必須

まず一番大切なことは、アレルギー疾患のある子供について把握しておくことです。体の状態について、医師の診断を踏まえて正確に把握し、それを教員間で共有することが何よりも先決です。普段の学校給食では管理ができていたけれど、修学旅行や校外学習など、外部で食事をとる際に、事故が発生してしまった、という事例が多いので注意が必要です。

次に、アレルギーの対応食についての、献立作りから、配膳までをミス無く行うことです。そのためにも、落ち着いた雰囲気の食事環境を整えることが大切です。詳細なメニュー表を配布したり、弁当での対応をしたり、代替食に切り替えるなどの対応があります。

ここまでは、事故防止の観点から、アレルギー対応について説明しましたが、万が一の緊急時の対応も頭に入れていかなければいけません。アナフィラキシーショックを起こしてしまった場合に、担任だけではなく、教員全員がアドレナリン自己注射薬(エピペン)を使用できるように、校内研修などで準備をしておく必要があります。また、子供がエピペンを普段持ち物のどこに入れているのか、最低限担任は知っておく必要があるでしょう。

食育に繋げられる実践できる事柄3つ

ここでは、家庭や学校問わず、食育に繋げるために今すぐ実践できる事柄を紹介します。

まずは、好き嫌い無く、何でも食べられるようにしましょう。小中学校の担任を持つと、昼食は必ず子供達と一緒に食べることになります。その際、担任の先生が嫌いな物を残していたら、子供達はどのように思うでしょうか。好きな物だけ食べれば良い、だって先生だって残しているから…と考えるのではないでしょうか。もちろん大人だって苦手な食べ物はありますが、努力をして食べられるようにすると、子供にとってのお手本となります。

次に、食事中のマナーを身に付けましょう。いくら公の場で気をつけよう、と思っていても、普段から習慣となっている癖は、無意識のうちに出てしまうものです。お箸の使い方、口に食べ物が入っているときのマナー、頂きますやごちそうさまの挨拶などを、一人で食事をする時でも心がけるようにしましょう。

また、自炊経験を増やすことも大切です。自炊をすると、たくさんのことが分かります。まず、買い物をした時には、食べ物の種類、価格、重さなどを、身をもって感じることができます。そして、調理をした時には、命を頂いているということや、調理の時間、手間、気遣いなどを常に感じることができます。そして、食べる時には、その「いただきます」の意味をより深く感じることができるでしょう。忘れてはいけないのは、食べた後の食器や生ゴミの処理までが食事だということです。外食や買弁では、味わうことの無い大変さでしょう。その大変さを、子供達に伝えるためにも、まずは自分が実践してみることが大切なのです。

子どもは食事を通して多くの学びを得ている

ここまで、義務教育における食育の重要性について説明してきましたが、教員にとって大切なことは、昼食の時間は、教員にとっての休憩時間ではない、ということです。
昼食の時間はたった15分や20分かもしれませんが、日々、子供達は給食から多くの学びを得ています。
楽しく、そして美味しく学ぶことができるよう、教員として努力をしていきましょう。

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