分からないことや疑問に思ったことを授業後の時間を使って質問してくる子どもも多く、その質問に対して答えるのは教員の責務です。この質問受けの時間は、授業に比べ圧倒的に短い時間ですが上手く回答することができれば、質問してくる子どもの学習意欲もより高まり、教員の教え方や授業の質がレベルアップする素晴らしい機会になります。今回はすぐに実践でき、子どもが何度も質問に来てくれるようになる質問受けのポイントを紹介します。
子どもからの質問は教員にとってのチャンス
経験の浅い教員は子どもからの質問を後回しにしたり、とりあえず質問に答えることに気が行きがちです。常日頃授業を受けているとはいえ、年の離れた大人である教員に子どもが質問する、というのは、非常に勇気のいることです。ましてや消極的な子どもならば尚更です。授業外で子どもと接触できる数少ない機会を有効に活用しましょう。
質問は授業外でのコミュニケーションの機会
学校の中で教員が子どもとコミュニケーションを取ることができるのは、ほぼ全て授業中だけと言っても過言ではないでしょう。しかし、僅か1時間程度の中で1クラス30名全員の理解度を細やかに確認するのは中々難しいものがあります。だからこそ、子どもからの質問を不意にしてはいけません。質問を持ってくるということは、当たり前ですが「疑問がある」、つまりは「授業や問題を解く中で分からなかった箇所がある」ということです。教員が質問の内容から子どものより細かい得手不得手や、どのような問題で躓きやすいのかなどの傾向を把握することができます。
また、質問してきた子どもの成績状況を把握しているならば、授業の改善に繋げることも可能です。全く同じ内容の質問であっても、およそ平均的な成績の子どもが質問に来たというならば、授業を受けたうちの半分は理解していないということになります。そのような状況ならば次回の授業でもう一度説明したり、その内容に関する説明の仕方自体を改めねばなりません。しかし、成績が芳しくない子どもからの質問ならば、授業としては十分に子どもたちは理解していると判断しても良いでしょう。この場合、質問してきた子どもの理解がきちんと深まる回答が必要になります。ここで単に授業の焼き直しでは結局質問に答えられていませんので、こちらも別の参考書などを提示して説明をする、図を用いて説明するなどの工夫が必要です。
上手に回答すれば子どもの信頼を得ることができる
心理的なハードルを何とか飛び越えて子どもが質問を持ってくるときは、教員に対して「疑問を解消してくれる」ことを期待しています。単純な話ですが、質問に対して取り合えず答えを言うだけでも、子どもの期待には応えられているので、教員に対しての信頼に繋がらない訳ではありません。しかし、そこで質問してきたこと自体を褒めたり、質問の内容について関心を示してみてはいかがでしょうか。次回以降の心理的なハードルは下がり、次回以降も気軽に質問できるようになります。
当たり前ですが、子どもからの質問に対して「的確な回答をすること」、また「適切な回答の仕方をすること」は極めて重要なポイントです。疑問の解消を期待して質問しに来ているので、回答が子どもの求めていたものではなかったり、授業での説明との間に齟齬があったりすると期待の分だけ落胆も大きくなってしまいます。これが繰り返されると、やがて落胆が不信に変わり、子どもが教員に対して質問する意義を見出せなくなってしまいます。
すぐに実践できる上手な質問受けのポイント5選
質問受けの際は「とにかく目の前の子どもからの質問に答える」ことのみで終わらないようにしましょう。確かに質問受けの時間というのは非常に短い時間しかありませんが、数少ない子どもとダイレクトにコミュニケーションができる場面です。ここからは実際に明日からすぐに使えて、より子どもの成績アップや教員自身の授業のレベルアップにもつながる質問受けのポイントを5つ紹介します。
その1 理想は「その場で」「すぐに」完結してしまうこと
前提として質問する子どもに時間的な余裕がないことを、教員は知っておかなければなりません。子どもが質問しにくる授業後の休み時間は長くとも10分程度、放課後も部活などの時間を考えると授業のように丁寧に教えるというのは不可能と言ってもよいでしょう。それは質問を受ける教員も同様です。回りくどい説明にならないように子どもが質問してきた段階で、彼らが何について疑問に思っていて、何が分かっていないのかを瞬時に把握して明確な解答を教員は準備しなければなりません。授業の予習や教材研究をする中で、子どもが躓きやすい場所、つまり質問が出やすいであろう場所については事前に確認し回答を用意しておきましょう。
また簡潔に解答するために、「不要な情報」は言わないことも重要です。例えば、英語で過去形の文章のつくり方を質問したとして、相手から併せて過去完了形や現在完了形など、事細かに時制の話までされた場合、子どもたちは混乱してしまうのではないでしょうか。確かに質問には答えてもらったかもしれませんが、何が大切だったのか、メインとなる部分がどこなのか分からなくなってしまいます。質問があるとついその解答に関係すること話してしまいますが、かえって子どもが分からなくなるだけなので、聞かれたことについてだけ答えるようにしましょう。
その2 答えられないことよりも、間違ったことを伝えることが危険
子どもからの質問に対して即応できることが理想ではありますが、本当に教員側に時間的な余裕がない場合もあります。そのような場合は、無理して即応するのではなく、改めて時間を設けたり、質問を持ち帰ったりして後で質問に答えるようにする方が望ましいでしょう。時間的な余裕がないのに無理に回答しようとすると、子どもの質問の意図を取り違えてしまい回答も誤ったものになってしまいます。特に、入試問題などの解答に時間を要するものは一旦持ち帰った方が賢明でしょう。教員が思っている以上に、子どもは教員の回答を信頼してくれています。間違ったことを教えることは、子どもの信頼を裏切ることになってしまいますので安易に答えないことも大切です。
また、教科書以外にも図鑑や資料集などを活用する機会の多い理科や社会に関しての質問受けには注意が必要です。この2教科が他の英数国の3教科と大きく異なる点は知識が非常に重要視されるところです。曖昧な解答をしたり間違った解答を避けるためにも、自分の知識や見識で「即答できない」ものについては改めて調べて答えましょう。その方が自分の知識も深まる上に、何よりも子どものためになります。
その3 質問に対して「全て」答えてはいけない
問題集などに掲載されている特定の問題についての解き方や解答に関する質問を受けたときは、「答えすぎ」に注意が必要です。問題演習は子どもたち自身が知識を得て、問題が解けるようにすることを目的にしています。安易に答えを教えてしまうと類題や例題になった時に子どもたちが結局解けないままで終わってしまい、レベルアップする機会を奪うことになってしまいます。問題の解き方に関する質問を受けた場合は、1から10まで全て解答するのではなく子どもの躓いている部分から次のステップに繋がるようなヒントを少しづつ出して、子どもが一歩ずつ階段を上がれるようにしましょう。
同様に、答えが多種多様あるような質問についても最後まで答えを言い切らないようにします。学校での授業を例に取るならば、国語の読解が筆頭になります。読む人によって様々な解釈がされていて、そのどれが正解という訳ではありません。それなのに教員の側で回答してしまうと答えを1つに限定してしまうことになり、子ども自身の考える機会を奪うことになります。他にも社会や理科などで多様な仮説が出されている内容についても、教えることが仕事である教員は明言を避けておくほうが無難でしょう。
その4 子どもに合う回答の仕方を考える
教員に質問しにくる子どもは当然成績も様々ですが性格も様々です。中には自分の頑張りを他に見せたくない、言ってほしくない子どももいます。そのような子どもからの質問に対しての回答を全員に向けて話すというのは、その子どもの自尊心などを傷つけることになりかねません。そのような子には一対一で丁寧に疑問に答えるようにしましょう。反対に連れ立って楽しそうに質問に来る子どももいます。それならば質問してきた本人だけではなく、一緒にやってきた他の子どもも巻き込んで回答しましょう。こうすれば、教員としても2度3度と質問に答える手間が省けますし、質問に来た本人だけではなく一緒にやってきた友人からの信頼にも繋がります。
他にも、口頭での説明で十分に分かってくれる子どももいれば、図や資料などを用いた方が解説しやすい場合もあります。その子が一番分かりやすいであろう説明の仕方を質問受けの際には工夫します。そのためにも、常に子どもの状況にはアンテナを張っておき、成績状況だけではなく本人の性格や最近の勉強への取り組み方などには、特に注視しておきましょう。
その5 回答の後にはメモが残るようにする
子どもからの質問に対してはメモなどの成果物が残るようにします。子どもたちは質問によって得た知識や見識を基にして宿題やテストなどに向かうことになりますが、その時にメモが1枚あるだけでも後から見返すことができます。メモがないばかりに何を質問したのかまでは覚えていても、どんな回答をされたのか覚えていないとなると、再び同じ質問をすることになってしまい、教員にとっても子どもにとっても二度手間です。同じ質問を2度も3度もするのはする側の心理的な負担も大きいですし、される側も辟易することになります。1度で終わらせるためにもメモを残すことは必要です。
しかし、質問受けは授業ではないので、そこまで形式ばって色使いなどに気を使わなくても問題ありません。教科書やノートの余白に走り書きでも十分にメモの役割を果たしてくれます。子どもが質問に手ぶらで来るのであれば、その時は裏紙を用意するなどして、とにかく子どもが「聞いた跡」、そして教員が「答えた跡」が残るようにします。
子どもからの質問で教員の授業もレベルアップ
質問受けに許されている時間は正直多くありません。時間にして1回10分もあれば長すぎると言えるでしょう。しかし、その短い時間であっても子どもの様子を確認したり、授業に関する理解度を確かめたりと、子どもとの接触機会を増やしコミュニケーションを取るには十分な時間です。質問受けおいて子どもの生の声をダイレクトに聞ける機会は他にありません。質問を受けるだけ、回答するだけではあまりにも勿体ないと思います。子どもの声を参考に自身の授業の分かりにくかった点、説明が不十分だった点を改善し、次回以降の授業のレベルアップに繋げるようにしましょう。