STEAM 教育とは?現役教員による徹底解説

最近よく聞くSTEAM教育とは?

STEAM(スチーム)教育とは、Science(科学)、Technoligy(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・教養)、Mathematics(数学)の5つの学問領域を組み合わせた新しい教育です。

この教育は、1990年代にアメリカで生まれたSTEM(ステム)教育が元となっています。STEM教育はSTEAMのArt以外の領域を指しており、国際競争力を高めるための科学技術人材の育成を目的としています。シンガポールやインドなどの新興国でも国主導で導入されており、子どものうちからロボットやIT技術に触れ、「自発性」「創造性」「判断力」「問題解決能力」を養うのがねらいです。では、日本ではどうしてArtを加えたSTEAM教育を重視するのでしょうか。

文部科学省はSTEAM教育について、「各教科での学習を実社会での『問題発見・解決』に活かしていくための教科等横断的な教育」ととらえ、Artを広い範囲で定義しています。日本人は、言われたことは忠実に行動することは得意ですが、自分自身で考え発想し行動することが苦手という傾向にあるため、STEMにArtの要素を加えることで、知識や技術だけでなく、「創造性」を養うねらいがあります。今までの学校教育で行っていた「教員が一方的に知識を与える授業」では足りなかった部分を補いたいという考えもあり、日本はSTEAM教育に力を入れているのです。

参考文献:文部科学省,STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/mext_01592.html(参照2023-2-26)

STEAM教育が必要な理由とは何か

株式会社野村総合研究所などの試算によると、「近い将来、日本の労働人口のうち49%が人工知能(AI)、IoT、ロボットなどの機械に取って代わられる可能性が高い」とのことです。

参考文献:総務省,ICTの進化によるこれからのしごと,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/n4500000.pdf(参照2023-2-26)

つまり、AIやIoTが導入され業務効率や生産性が向上することにより、人の仕事はどんどん奪われていくということです。一方で、AI時代の到来によって新たに生まれる雇用もあります。なぜなら、AIやIoTを導入するためにそれらを開発するのも、運用するのも人だからです。

AI時代の仕事は、このように新しいものを開発し運用する仕事が重要となるため、子どものうちから「自ら課題を見つける力」「物事を様々な面から捉え解決する力」「新しい価値を想像する力」を身に付ける必要があります。そして、これらの力を養うのがSTEAM教育なのです。 

参考文献:総務省,職業の変化,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd145210.html (参照2023-2-26)

新学習指導要領でも推進

新学習指導要領では、高校で「社会と情報」「情報の科学」が必履修科目となり、2022年度からプログラミングに関する内容が増えた「情報Ⅰ」が必履修科目として設定されました。そして、2025年度大学入試からは「情報」が大学入学共通テストに追加される予定となっています。このように、AI時代に向けた準備が着々と進んでいます。

高校の新学習指導要領では「総合的な学習の時間」「理数探求」で教科等横断的な課題を設定し、各教科で学んだことを統合する探求プロセスを求めていますが、これはSTEAM教育のねらい「AI技術や多様化する社会に対応できる人材」と共通しています。

参考文献:文部科学省,教育課程の編成(2)STEAM教育等の強化等横断的な学習の推進,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01496.html (参照2023-2-26

AIやプログラミングなどというと、STEAM教育は理系進学者だけに必要な教育のように思われてしまいがちですが、決してそうではありません。新学習指導要領でも述べられているように「教科等を横断した学び」が大切で、文理を問わず必要な教育なのです。文系進学者であっても、これからの時代はタブレットなどの端末を使用し、活用をしていかなければなりません。AIやIoTの開発・導入に携わる人も増えてくるでしょう。

小学校低学年のうちからAIやIoTに触れてプログラミング的思考力を身につけ、高校の「情報」の授業でより専門的な知識や技術を身につけていきます。そして、「総合的な学習の時間」「理数探求」を利用し、AIやプログラミングの専門的な知識や技術と、STEAM教育の知識や素養を統合し、教科横断的に学びを深めます。そうすることで、「自ら課題を見つける力」「物事を様々な面から捉え解決する力」「新しい価値を想像する力」が身につき、AI時代を生き抜くことを可能とするのです。

教員を支える「STEAMライブラリー」

学校教育では「総合的な学習の時間」「理数探求」だけでなく、社会・国語・英語・数学・理科などの必履修科目でもSTEAM教育が取り入れられています。GIGAスクール構想によって校内のネットワーク環境や、1人1台端末が整備されたため、ネットや端末を活用したSTEAM教育が可能となりました。

ここで問題になるのが、従来の学校教育で前例のない授業をしなければならない教員への負担です。「授業にどのような手法で取り入れたら良いのかわからない」「端末を利用した資料を作成する時間がない」といった教員は多いと思います。そこで心強い味方となるのが、経済産業省が開設している「STEAMライブラリー」です。小中高等学校の教員を対象としたデジタルコンテンツで、会員登録をすると、授業向けの動画やスライド資料、指導案、子ども向けワークシートを無料で使用できます。

サイト内で、テーマ(SDGs)、学年、キーワードを検索すると、授業で使用したい動画や資料をすぐに探すことができ、動画や資料には教材の概要、レクチャー一覧があるため、授業の流れや活用方法をイメージしやすいです。動画は2分〜15分程度になっているため授業に組み込みやすく、資料は学習者用と指導者用の両方があります。実践事例も紹介されているため、授業準備時間を短縮できます。

参考文献:経済産業省,STEAMライブラリー,https://www.steam-library.go.jp(参照2023-2-26)

STEAM人材がこれからの時代をつくる

私たち人はAIやIoTの情報処理能力や精密作業の精度には敵いません。このため「AIやIoTにつかわれる」のではなく、「AIやIoTの商品やサービスをつくり・つかう」側になっていく必要があります。AI時代を生き抜くためにはSTEAM教育を通して「自ら課題を見つける力」「物事を様々な面から捉え解決する力」「新しい価値を想像する力」を身につけることが必要不可欠です。

そのために私たち教員ができることは、大きく2つ考えられます。1つ目は、「『こうであるべき』という固定観念を捨て、柔軟性に富んだ発想や行動を大切にすること」。2つ目は、「完璧を求めず多くの失敗から改良を重ね、自分の力で前に進むことを促す指導」です。この2つを授業や教科の中だけでなく、生活指導や進路指導の中に取り入れていくことが大切だと思います。

STEAM教育やその理念を取り入れていくにことは、教員にとっても新しい取り組みであり、時間も労力も必要です。その労力を惜しまず、次世代を担う人材を育て欲しいと思います。まずは手始めに動画や資料が用意されている「STEAMライブラリー」から始めてみてはいかがでしょうか。

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