小学校高学年で教科担任制の導入が進む
文部科学省は令和3年7月に「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について」報告を発表いしました。中央教育審議会の審議状況を踏まえて、小学校高学年から教科担任制の推進が行われていきます。中学校では既に導入されている教科担任制度ですが、小学校で導入するにあたり、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。ここで解説していきます。
教科担任制のメリット3つ
これから先生になろうと考えている人は、今後、この教科担任制が導入されていく可能性が高いです。また、現場で働いている人は、「音楽」や「家庭科」などで既に導入されている学校も多くあると思いますが、それがさらに増えていくと想像してください。
専門の先生に指導してもらい質の高い授業ができる
メリットの1つ目は「質の高い授業」を受けることができる点です。小学校教員の免許には専科がないですが、学生時代に特定の教科を専門的に学んでいる人は多いと思います。また、中学校の免許を取得できる課程を卒業していれば専門教科があるはずです。この専門性を生かした授業をすれば質の高い授業をすることができます。
国語の専門教師が国語の授業をすると、授業の指導ポイントや身に付ける力を確実に付けさせることができます。児童側も分かりやすい、身につく授業を受けることができれば毎日楽しく過ごすことができます。児童の学力の向上も期待できます。
教材研究の時間が削減され働き方改革につながる
2つ目のメリットが「働き方改革」です。小学校では一人の先生が全ての教科指導を請け負うので、授業前には全教科の準備をしなければいけません。理科などの実技を伴う授業においては準備作業もあるため教材研究だけで膨大な時間がかかります。教科担任制が導入されると一回準備をすれば他のクラスの授業でも利用することができます。また、教材研究をする教科の数が減るため、働き方改革にもつなげることができます。
ほかにも教科担任制が導入されるようになると担任の空き時間を作ることも可能です。全教科を受け持つ小学校では、児童がいる間は授業をやり続ける必要があり、空き時間がありません。しかし、教科担任制が導入されると教科担任が授業している時間は担任の先生の空き時間とすることができます。空き時間には事務処理や教材研究をすることができるので、働き方改革になります。
学年で統一したレベルの授業ができる
3つ目は「授業レベルの維持」です。小学校では、各担任が授業を教えているので同じ教科の同じ単元の授業をしたとしても教師の技量によって指導力に差が生じます。一回の授業で生じる差はわずかなものかもしれませんが、これが1年間を通すと大きな差になってきます。さらに評価テストにおいても学年で基準は統一するものの、どうしても記述問題の採点基準には差が生じやすくなります。特に最近では、かつての「興味・関心」にあたる「学びに向かう力や人間性」を重視した評価をしなければいけません。この評価はテストだけでなく授業における発言やノートなど1回1回の授業で評価をしていくことも多く、担任の主観による評価のぶれが起きやすいところにもなります。教科担任であれば全てのクラスで同じ授業、評価の観点で見ることができるようになるので、評価の差が生じにくいメリットがあります。
教科担任制の難しい点3つ
たくさんのメリットがある教科担任制ですが、一方でなかなか導入が進んでいかないのが現状です。では、なぜ進んでいかないのでしょうか。次に小学校において教科担任制を導入することが難しい3つの点について解説していきます。
時間割構成が複雑になり自由度がなくなる
1つ目のデメリットが「複雑な時間割構成」です。教科担任制を導入する場合、担任の先生が勝手に時間割変更をしたり、行事を入れたりすることが難しくなります。1つの変更が自分のクラスだけなく、他のクラスの先生の動きにも関わってくるからです。
教科担任制を導入する方法として大きく2つのやり方があります。
① 専科教員を導入して授業を受け持つ
② 学年の中で先生を交換して授業を受け持つ
①の専科教員を導入する場合、時間割を作成するにあたり勤務時間との問題が生まれます。専科教員は常勤の先生をあてる方法と非常勤の先生をあてる方法がありますが、多くの学校で使われているのが非常勤の先生をあてる方法です。非常勤の先生は、年間の勤務時間が決まっており、雇用の関係で簡単にその数を増やしたり減らしたりすることができません。また複数のクラスを受け持っていることが多く、時間割と先生の予定の空いているところを探して時間割変更することになります。専科教員が一教科であればそこまで大変ではありませんが、複数の専科教員が入っていると時間割変更が容易にできなくなります。
また②の交換授業も他のクラスに影響が及ぶだけでなく、交換できる教科の時間数の問題があります。例えば、国語と理科では年間の授業数に大きな違いがあり、交換してしまうと国語を受け持つ先生の負担が大きくなります。年間の授業時間数がほぼ同じの「国語と算数」や「理科と社会」といったような教科同士しか交換しにくいのが現状です。
専科教員の確保が難しい
2つ目が専科教員の確保です。教員の不足は全国的に問題となっており、担任だけでなく専科教員にもその影響が及んでいます。特に専科教員の場合、中学校や高等学校の専科の免許と小学校の免許を同時に持っている必要があります。しかし、このような人材は少なくどの学校も専科教員を導入したいものの教員の確保ができないというのが現状です。
そこで退職したOBを再任用教諭として雇用し専科教員として働く方法や近隣の中学校と連携して、中学校から教員を派遣してもらうという方法を採用していることもあります。文部科学省も専科教員の導入ができるように人件費の確保はしていますが、実際に働いてもらうことができる教員が不足しているのが現状です。
児童の様子の深い読み取りが難しくなる
3つ目のデメリットが「児童の様子の読み取りが難しくなる」という問題です。中学校で音楽や体育の先生が担任をしていると生徒が担任の顔を見るのは1日に数回というのも珍しいことではありません。小学校でも多くの教科に教科担任制が導入されれば同じことが起きます。これで児童の様子を細かく観察することができるかという課題があります。小学校でも高学年ぐらいになってくると、いじめや不登校といった様々な問題が発生します。児童の様子を細かく観察していないと変化に気づかないケースも起きやすくなります。教科担任制が導入されてくると担任の先生の観察眼がこれまで以上に求められることになってきます。
また、この問題は学年主任を中心とした学年経営もこれまでのやり方を根本から変える必要があります。これまでのようにそれぞれの学級運営を担任任せにするのではなく、学年全体を意識して活動することや情報交換会の開催など、中学校式の運営をしていく変化をすれば問題を解決することができます。
これから増えていく流れ 場所によっては中学校からの出張も実施中
小学校の教科担任制については、文部科学省も強く推進をしており各学校単位で導入が進んでいます。学校規模や所属している先生の配置などから推進度合いにはばらつきがあるものの今後も導入校は増えていく予定です。文部科学省の初等中等教育分科会からは令和4年度から4年程度をかけて段階的に教科担任制を推進することが表明されています。これから先生になる人、現場で働いている先生はメリットとデメリットを知ったうえで、児童の学力をどう向上させるのか考えていきましょう。