教員なら知っていて当たり前!「就学援助制度」とは?

義務教育の小中学校では、授業料や教科書代は無償となりますが、補助教材や給食費等は実費請求されるものも多くあります。修学旅行費や入学準備などにかかるお金も多く、経済的に困窮している家庭は、子どもを学校に通わせることも難しいところがあるのも事実です。

そんな困難さを抱えている保護者や子どもを支援する制度が「就学援助制度」です。教員をやっていると書類で「準要」「要保護」といった言葉を見たことがあっても、実際どんなルールで決められているのか知らない方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は保護者からの問い合わせに対応できるように保護者や子どもにとって、最後の綱となる「就学援助制度」について詳しく説明します。

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

「就学援助制度」の概要


はじめに就学援助の考え方の根本は、学校教育法第19条「経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない。」と示されているところにあります。教員が覚えておきたいことは、就学援助の手続きは「市町村」単位で行われるということです。
就学援助は自治体単位で行われているため、基本的には「居住自治体が認定する」ということが原則になります。したがって外国籍であっても住民票があり、居住地の自治体に通学していれば申請することができます。

参考文献:就学援助制度について(就学援助ポータルサイト),文部科学省,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm(参照2024-5-23)

「要保護」と「準要保護」の違い

就学援助の対象になるのは「要保護」と「準要保護」の世帯になります。名前が似ていて分かりにくいかもしれませんが、この2つの違いは教員ならしっかりと理解しておく必要があります。

【要保護】
◎生活保護法第6条第2項に規定されている要保護者
◎自治体の福祉事務所(生活福祉課などの名称)が認定
◎生活保護法に基づき、認定される

【準要保護】
◎市町村が要保護に準ずる程度に困窮していると認める者
◎教育委員会(学校教育課など)が認定
◎市の要綱で定めた認定基準に基づき、認定


要保護世帯の方が認定基準が厳しい(保護者の収入や財産の保有状況など)ですが、支援の範囲が広く(支援額が大きくなる)なります。
ただし、就学援助に関わる費用は自治体が負担します。そのため、自治体の財政力による影響は大きく、認定を受けるための所得基準額も自治体により異なります。

例えば、愛知県名古屋市では、経済的に困る所得基準ラインが3人家族(父母子)で306万9千円以下となっています。

参考文献:名古屋市就学援助,名古屋市,https://www.city.nagoya.jp/kyoiku/page/0000051014.html (参照2024-5-23)


一方、東京都港区では、同じ家族状況で約362万円以下となっています。
参考文献:就学援助のお知らせ,東京都港区教育委員会,https://www.city.minato.tokyo.jp/gakkouuneishien/kodomo/gakko/shugakuenjo/documents/reiwarokuennsyuugakuennzyo.pdf (参照2024-5-23)

就学援助による支援範囲

就学援助を利用すると学校生活にかかる費用の一部から全額を支援してもらうことができます。


【主な支給対象費目】
○学用品費
○校外活動費(遠足代金などの補助)
○通学費(公共交通手段を利用しなければいけない場合)
○修学旅行費
○新入学学用品費
○学校給食費
○クラブ活動費(学校に関わるクラブ活動)
○生徒会費
○PTA会費
○医療費


既に自治体が「子どもの医療費無償化」や「給食費無償化」をしている場合には、支給対象とはなりません。 

基本的には保護者の申請から始まり行政の認定が必要

就学援助の手続きに関して、教員が何かの手続きをするということはほとんどありません。スタートは、保護者が市役所の生活や福祉に関する窓口に相談し、手続きを開始すると生活保護対象者や準要保護者として認定されます。その間学校側は、行政からの通知を待っているだけです。

就学援助の認定事務スケジュールには、自治体の予算審議との兼ね合いが生じるため、基本的な流れがあります。


【就学援助の基本認定スケジュール】
10月頃 本年度認定案件の再審査
年明け1月~2月頃 継続申請・受付・審査
3月頃 次年度の申請締め切り
4月はじめ 新規認定
このような流れで進んでいきます。一度申請して認定されたらずっと援助を受けることができるわけではなく、基本的には年度ごとに更新をしなければいけないことを意識しましょう。

担任が気を付けること


就学援助について担任が何か手続きをすることはないのですが、気を付けることはいくつかあります。


①「離婚」の情報に注意すること
保護者が離婚をすれば親権の情報が変わるため、学校にも連絡が来ます。特に「母親」が親権者となった場合には、収入が大幅に下がり、「準要」などの申請をする可能性があることを意識しておきましょう。


②「日付」
年度途中での「準要への変更」や「要保護への変更」、「保護解除」といったこともたびたび起こります。このときに援助に関わるお金は日付単位で分割されて支給されます。例えば、準要で給食費が援助されていた子どもが、保護者が就職したことに伴って「保護解除」となると、保護解除が認定された日から給食費が発生することになります。行政は日割り計算できっちりと算出してくるので、変更が発生した際には「日付」を意識するようにしましょう。


③曖昧なことは言わずに「役所」の専門家に誘導
役所で勤務していると「学校で〇〇と言われましたが・・・」といってお話に来る人がいます。このときに、とんでもない間違いの情報を教員が保護者に与えてしまって窓口に来る人が多いのもあるある話です。

保護者にとっては「学校」も「役所」も同じような相談窓口のイメージがあるかもしれませんが、就学援助に関しては複数のプロセスを経ないと認定されません。保護者から就学援助に関しての相談を受けた場合には「役所にご相談してみてはいかがでしょうか」と促す程度にすると、物事がスムーズに運んでいくことが多いです。

私たち教員にできること

教員ができることは保護者から相談を受けた際に専門家に相談することを促すことです。また、同時に迅速に情報が上がるように管理職を通して行政に報告してもらうことも大切です。また、就学援助に関わる話は非常にデリケートです。外部に知られることはいけませんし、子どもが準要や要保護が分かるような状況になってはいけません。中には、虐待などの案件から逃げたために特例的な保護を受けているケースもあります。保護者と話をする際にも細部まで気を遣って話をするようにしましょう。

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