いよいよ始まる「部活動の地域移行」 メリットと課題は?

部活動は生徒の人間形成の機会や活躍の場をもたらす貴重な活動ですが、その裏で、教員の長時間労働が問題となっています。また、自分の経験や専門性とは関係のない部活動を指導する教員も多く、教員自身に多大な負担がかかるとともに、生徒とって望ましい指導をできていない場合もあります。

このような問題を解決するため、一部の自治体で「地域部活動」という新しい取り組みが導入されており、令和5年度から全国で展開されることになっています。今回の記事では、部活動がこれからどのように変わっていくのかを紹介していきます。

「地域部活動」とは?

地域部活動にはいくつかの運営方法がありますが、共通するのは「教員に代わって、地域人材が部活動指導に携わる」ということ。部活動運営の主体が、学校から地域に移行することが大きな特徴です。

文科省は部活動について「必ずしも教員が担う必要のない業務」であるとし、

  • 休日に教員が部活動指導に携わる必要がない環境
  • 部活動指導を希望する教員が引き続き休日に指導できる仕組み
  • 休日に地域のスポーツ・文化活動を実施できる環境

上記の整備を進めていくことを明らかにしています。

参照:学校の働き方改革を踏まえた部活動改革(令和2年9月)概要.スポーツ庁

これを踏まえた地域部活動の代表的な方法は、

  • 学校内の既存の部活動を維持しつつ、外部の指導者を招く
  • 地域で運営されているクラブチームに通ってもらう
  • 複数校で合同チームを作る

などがあります。既にいくつかの自治体で実施されており、令和5年度から7年度の3年間に全国の自治体で段階的に展開していく予定です。

地域移行のメリット

部活動を地域移行することで、教員や生徒たちに以下のようなメリットをもたらすことが期待されています。

教員側のメリット
  • 地域人材を起用することで、教員の休日出勤を減らすことができる
  • 専門知識のない教員が部活動に関わらずに済む

現行の部活動では、教員たちは休日も練習や大会のために出勤せざるを得ない状況にあります。また、自分の経験や専門性とは関係のない部活動指導を任される教員は多く、大きな負担となっています。地域人材などの外部指導者を起用することで、教員の休養日を確保できるようになるほか、望まない部活動の顧問を任されず授業準備や学級経営に専念できるようになります。

参照:運動部活動の地域移行に関する検討会議提言. スポーツ庁. R4年6月

生徒側のメリット
  • 専門知識のある人材から高度な指導を受けられる
  • 競技の選択肢が増える

専門知識のない教員が半ば強制的に顧問を任されることがなくなる代わりに、地域部活動では、専門知識を持つ人材が外部指導者として部活動に携わることになります。また、学校によっては指導教員や部員数が足りないために廃部となってしまう部活動もありますが、今後は生徒がクラブチームに通ったり、合同チームに参加したりすることで、幅広い競技に触れる機会を得られるようになります。

残された課題

教員にも生徒にもメリットの大きい地域部活動ですが、まだまだ課題は山積みです。

指導者・受け皿の確保

教員に代わって生徒たちを指導するとなると、競技への専門知識だけでなく教育者としての資質も必要ですが、これに適した人材が集まっていないのが現状です。また、学校と地域のスポーツ団体との連携がまだまだ不十分であり、生徒の受け皿となる団体の数も足りていません。

部活動の地域移行後は、休日の部活動指導が教員の業務から外れることになります。今後、教員が休日に部活動指導を行うことは副業にあたるため、各教育委員会から「兼業・兼職」の許可を得なくてはなりません。外部指導者が足りていない現在、引き続き部活動に携わる教員がいなくては地域部活動は成り立たないため、部活動指導のために教員が副業できる体制づくりが急がれます。

保護者の費用負担

学校主体の部活動で事故や怪我などが起こった場合、学校管理下のアクシデントとして医療費などが特別に支給されていました。しかし、部活動を外部に委託する場合には別途保険に加入する必要があり、責任の所在も決めておかなくてはなりません。

また、これまでの部活動指導は教員たちが低賃金で請け負っていましたが、外部指導者を確保するためにはある程度の報酬が必要で、保護者も一部を負担しなくてはなりません。経済的な事情から部活動に参加できなくなる生徒が増えることも懸念されています。

いよいよ始まる地域部活動

令和5年度から段階的に導入が始まる地域部活動。地域によって生徒の数や、指導者や受け皿団体の確保状況などが異なるため、各自治体はルール作りに奔走しています。生徒、教員、保護者、そして地域全体にとってより良い制度が実現することを願います。

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