教員免許取得のために行う介護等体験を実りあるものにするためには?

小学校および中学校の教員免許取得の際には、7日間の介護等体験が必須となっています。介護等体験は、特別支援学校および社会福祉施設で行われます。多くの現職教員は、介護等体験での学びが、子どもの指導や子どもたちとの会話の場面で生きていたと感じていると聞きます。今回は、介護等体験の意義と、7日間という短い期間にどうすれば一生モノの学びを得られるのかをご紹介いたします。

介護等体験の目的

介護等体験の目的は、文部科学省ホームページに「教員が個人の尊厳及び社会連帯の理念に関する認識を深めることの重要性にかんがみ教員の資質向上及び学校教育の一層の充実を図るため、小学校及び中学校の教諭の普通免許状取得希望者に介護等体験が義務付けられています。」とあることから、「普段接することの少ない障がい者や高齢者などの生活に触れ、関わることで教員としての視野を広げる」ことだと考えられます。

教員として勤務すると、当然様々な特性や事情をもつ保護者や子どもたちと関わる機会があります。人によって情報理解の仕方が異なるため、同じ内容を伝えたとしても、一方は納得してくれたことが、他方は納得してくれないこともあるでしょう。子ども一人ひとりの特性や生育環境などが大きく関わってきます。そのような様々な子どもたちとより良く関わるため、教員になる前の介護等体験で多様な人々と関わり、視野を広げることが大切です。

参考文献:介護等体験一般に関するQ&A”,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/mext_00110.html,文部科学省ホームページ(参照2022.11.29)

採用試験合格後、特別支援学校へ配属される可能性も

自治体により異なりますが、特別支援教諭の免許状を持っていなくても、採用試験合格後特別支援学校に配属されることもあります。例えば、神奈川県の中学体育で採用された人は、特別支援学校中等部に配属になり、初任の5年間勤務しました。言うまでもなく、普通学校と特別支援学校は大きく異なります。普通校での教育実習で培った経験が全く役に立たないという声も聞きます。特別支援学校での体験は2日間と非常に短い期間ですが、もし自分が特別支援学校の教員になったら?という視点で教員を観察することが大切です。

特別支援学校の授業で注目すべきポイント

子どもへの説明の仕方

小学生、中学生の子どもに対して簡単な言葉で説明するのは普通校でも当たり前のことですが、特別支援学校ではそれがさらに求められると感じます。特別支援学校の教員はできる限り短い言葉で、「1つ目は〜、2つ目は〜」と情報を区切ってわかりやすく説明していました。また、適宜話の途中で情報を整理して伝えるなど、子どもの理解度を確認しながら話す工夫がされています。これらのテクニックをよく観察し、教員になってからの自分の授業に取り入れるのが良いでしょう。

授業の構成

基本的に、特別支援学校の子どもは普通校の子どもたちと比べて教員の話を集中して聞くのが苦手な傾向があります。そのため、教員は授業に飽きさせない工夫、理解度を高める工夫が求められます。例えば、授業の最初に今回の授業の目標を提示し、授業の最後でその目標に再度触れて振り返りを行ったり、説明を聞く時間や読む時間など1つひとつの時間が長くなりすぎないように授業を構造化したりするなど様々な工夫がされています。このように、いかにして教員が子どもの興味を惹いているのかに注目しましょう。

子ども一人一人に対しての声かけの方法

子どもたちの中には、授業の内容を一つひとつ順序立てて説明してほしい子もいれば、長い話を聞くのが苦手で、結論から先に説明してもらいたい子などがいて、物事の理解の方法は様々です。特別支援学校の1クラスの子どもの人数が少ないため、一度の説明で全員に理解してもらうことを目指すというよりは、机間指導の際に、一人ひとりの理解度を確認して複数の教員で子どもたちをサポートしていることでしょう。個性の異なる子どもそれぞれにどのようなアプローチをしているのか、可能であれば隣まで近づかせてもらい、観察するといいです。

 教材の工夫、教室環境

基本的には教材の全てにルビが振られている上、絵や図を用いてパワーポイントで説明したり、一目見て情報が理解しやすいようにプリントが工夫されたりしています。自分ならどのように作成するのかを考えながら、真似できそうなことをメモしましょう。

また、教室環境についてもよく観察しましょう。私が体験を行った学校では、「フロントゼロ」といって、黒板や黒板の上のスペースに掲示物を貼らないことにより、余計な情報をなくす工夫がされていました。余計な情報が前にありすぎると板書の内容理解が困難になるためです。このように、教室の掲示物やレイアウトを見ると、学習環境を整える工夫を感じられます。

社会福祉施設での体験の際気をつけること

社会福祉施設とは、障害者自立支援施設、老人福祉施設など施設の形態が異なりますが、基本的には以下のことに留意して体験を行いましょう。

待つことが必要不可欠

利用者の方々は、行動がゆっくりな場合が多いです。こちらがつい急かしてなんでもやってあげようとしてしまいがちですが、利用者の方々はそれぞれのペースで、自分でできることは自分でやろうと努力しています。これは、子どもに対しても同じです。教員は限られた時間の中で子どもが作業を終わらせることに集中してしまいがちですが、「自分でできた」という達成感を得て、自己肯定感を高めることが大切です。必要に応じてサポートしながら、気長に待つ態度で接しましょう。

一緒に楽しむ

それぞれの施設では、レクリエーションの一貫でダンスや茶道、折り紙などを行うところが多いです。上手くできなくても良いので思いっきり楽しむことが大切です。教員になってからも体育祭や文化祭などで教員参加の種目や、出し物などがある場合もあります。このような場面で思いきり楽しむ教員の姿を見て、子どもは安心し、信頼します。遊びも勉強も一生懸命とは子どもたちによく言うセリフですが、教員に対してもまさに同じことが言えるでしょう。

利用者さんと大人同士の関係を意識する

支援する側、される側の立場から、つい子どもに接するような態度になってしまいがちですが、それは絶対に避けましょう。あくまで、対等な大人同士の関係です。利用者の方々へのリスペクトの心を忘れず、丁寧な言葉遣い、語りかけを意識しましょう。教員になってからもつい指導の際などに強く時には少し汚い言葉を使ってしまいそうになりますが、同様に一人ひとりの人間として子どもを尊重し、人権を守るような行動を取りましょう。一昔前までは、熱血で強い教員が多い傾向がありましたが、現在では冷静に、子どもを一人の人間として尊重しながら話を聴ける教員が望まれます。

受容の態度で接する

利用者の方の中には、自分の話をたくさん聞いてほしい人がいます。その際に途中でさえぎるのではなく、「うんうん」とまずは受容の態度で話を聞きましょう。実際に教員として子どもと接する際も、年齢を問わず、ただ話を聞いてほしいという子どもは多いです。どのようにして相手の話を引き出し、気持ちよくコミュニケーションを取れるのかを考えながら接する工夫をしましょう。

介護等体験で一生モノの学びを

介護等体験は7日間ととても短い期間ですが、自分が教員になってからの姿、特別支援学校で実際に働く姿を想像しながら行うことにより非常に実りあるものとなります。もちろん、教員一人ひとりによって子ども指導の考え方も様々ですので、疑問に思うことがあれば積極的に質問し、指導の意図を聞いてみると良いでしょう。子どもとの接し方に正解はありませんが、実習を通して、自分の思い描く理想の教員像に近づけると良いですね。

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