指導者として教育実習生を受け持つと様々な悩みを聞きます。その中で、指導者として答えを伝えることが難しいものの1つに「子どもとの距離感」があります。
教育実習生は「実習生として教育を学びに学校へ行く」自覚をもっていきますが、子どもから見れば「教員」であることに変わりはありません。担任の教員よりも若く、「お兄さん・お姉さん的な立場でみられやすい」実習生は子どもが近寄ってくるケースもあるし、逆に警戒感をもたれてなかなかコミュニケーションをとることができないというケースもあります。
子どもとの距離の取り方を最初に失敗してしまうとその後の実習も辛くなってしまいます。そこでまずは、「適切な距離感」を実習生と子どもの間で作ることが大切になるのですが、経験がないと何が正しいのかわからない、実感しにくいものです。
本記事を読むことで、子どもと「友達」にならずに「信頼される教員」になるための具体的な距離感の作り方を知ることができます。また、距離感を誤ることで生じる学級崩壊や不適切な関係などのリスクも事前に学べるため、教育実習での人間関係の悩みを防ぎ、自信をもって子どもたちと接するためのヒントが得られますよ。
実習生や教員は子どもにとって「友達」ではない距離
実習生にしてみれば、短い教育実習の期間、子どもと一緒に遊び、学んでいくためにも距離を「近くしていきたい」という思いがある人が大半でしょう。子どもと共通の話題になる話をしたり、話をよく聞いたりしていれば、自然と距離感は近くなってきます。
一方、近くなるほど「教員と子ども」の関係ではなく「友達」という関係になってしまいがちです。教育実習生であっても立場は「教員」に近い立場になります。両者が近くなってしまうのは、あまりよくない関係です。特定の子どもと距離が近くなれば「ひいき」と周囲から見られてもおかしくないですし、子どもを平等に評価する視点で見ても主観が入りやすくなります。教員と子どもの距離感が、平等に子どもを見ていく観点からずれてしまっても意味がありません。
「好かれる」から「信頼される」に思考を変える
距離感で悩んだ学生の話を聞いていると、1つの特徴として子どもに「近づこう」として、うまくいかず距離を置かれてしまったという失敗談がよくあります。実習生自身が積極的に動いた結果、人間関係作りが上手くいかなかったときのショックが大きいのも分かります。
では、なぜうまくいかなかったのでしょうか。筆者が実習生の話を聞いていると、自分がやっている行動が「子どもから好かれる教員になろう」としているのではと思うことがあります。例えば、子どもと面白い話をする、子どもと一緒の話題で盛り上がる。確かに一時的に人は寄ってくるかもしれませんが、長続きはしにくいものです。実は、子どもが自然と寄ってくる教員に共通しているのは「好かれる」ではなく「信頼されている」であるという点です。
距離感の取り方の上手い教員をよく観察しよう
では、どうやったら「信頼されている教員」になることができるのでしょうか。一般的に信頼関係は長い時間をかけて作り上げていくものなので、短期間しかいない教育実習生には難しい課題です。
そこで教育実習の時に、距離感の取り方が上手い教員をよく観察してみましょう。
特に観察するポイントは
・休み時間に子どもとどのように接しているのか(会話の頻度・話をする相手など)
・子どもと接するときの話し方はどんな話し方か(状況に応じた話し方・言葉遣いなど)
・話をするときの場はどうしているか(個別に話す、プライバシーの考慮など)
教員の行動や言葉がけをよく見ていると同じ子どもであっても話し方や雰囲気、目つきなどが状況に応じて変わっています。この状況に応じた話し方が、教員と子どもとの距離感の作り方に大きく影響をしているのです。
上手な教員は「親しみやすさ」「毅然」「平等」の3つを使い分ける
筆者は様々な教員とこれまで接してきました。その中でも子どもとの距離感の取り方が上手いと思う人もたくさんいました。この人たちに共通しているポイントは「親しみやすさ」「毅然」「平等」の3つだと感じています。
まず、「親しみやすさ」のある教員は子どもとの距離感の詰め方、開き方を知っています。子どもが困っている、悩んでいる場面では積極的に詰めていき、自分で考えているときにはあえて距離を離しています。常に一定の距離感ではなく、上手に距離を縮めたり、広げたりできるのが親しみやすさを生み出している感じがします。
2つ目の「毅然」は、場に応じて話し方を変えることができるという意味です。子どもと何気ない雑談をするとき、指示をするとき、指導をするとき、全て同じように話すのではなく、状況や内容に応じて変えるのがポイントです。これで子ども側も、教員の話し方や様子によってどんな距離感を取ればよいのか考えることができます。
3つ目の「平等」は、全ての子どもに対して同じように声掛けをしている点です。1日が終わったときに子どもとも同じ量ぐらいしゃべっているという「平等性」があることがポイントになります。
距離感の崩壊はクラスや人間関係の崩壊につながる
教育実習のような短い期間であれば、距離感をうまくつかむことができなくても実習は終わります。しかし、クラス担任となるとそうはいきません。1年間は子どもと教員という関係で繋がっていくので、距離感が崩壊するとクラス崩壊や子どもたち同士の人間関係の崩壊にも繋がります。
子どもたちと一緒に楽しそうにしゃべっていた1学期、2学期が過ぎたころから一部の子どもと教員だけが親しく話すようになったことで「えこひいき」と感じた他の子どもが授業を妨害、そのまま授業が成立しなくなるというのはよくある話です。子どもは教員同士、教員と子どもがどんな会話をしているのかということをよく見ています。教員として働く前に、「人と人の距離感のつくり方」を様々な経験を通して知っておくとよいかもしれません。
【要注意】教員の不適切な指導、わいせつ行為への入り口に
よく話題になる教員と子どもとの不適切な関係から始まる「わいせつ事案」「不適切な指導」、この事案に共通しているのも特定の子どもと個別のやり取り、特別な関係が入り口になります。子どもは特別扱いをされるとうれしくなりますし、教員も「信頼されている」「好かれている」と勘違いしがちになります。
特定の子どもと個人的な連絡を取ることは「平等」という観点から見ても逸脱をしています。当然、こうしたつながりを持っていることを周囲に知られれば、周りから良い目で見られるわけもありません。わいせつ事案の多くが「個別のやりとり」「個人的に会う」こうしたことからスタートしていることを意識しましょう。「別室指導」「個別指導」といったことも聞こえはよいですが、周りから見ていると危険な行為の一歩手前にいることを自覚したほうが良いです。
信頼されている教員はコミュニケーション能力(距離感)が絶妙!
教員と子どもの距離感は現職教員でも悩ましい問題です。学級経営が上手くいかない、授業が上手くいかない、そんな相談を受けていると、教員がやっていることよりも子どもたちとの関係性に問題があると指摘することも多くあります。
コミュニケーション能力というと話をする能力と思われがちですが、距離感のつくり方もコミュニケーション能力の1つと言えます。授業名人、学級経営が上手いと言われている教員は、絶妙な距離感を作りながら信頼関係を構築していきます。まずは「好かれる教員」ではなく「信頼される教員」を目指して、人間関係を構築していくと考えれば、上手な距離感を作り出すことができるでしょう。
参考文献:『教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針』(令和4年),文部科学省,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/mext_00001.html ,(参照 2026-7-19)