いじめ防止対策推進法等の成立や、生徒指導の課題が深刻化していることから、令和4年12月に「生徒指導提要」を大幅に見直した改訂版が発表されました。
改訂されたポイントを把握していなければ生徒指導が教員によって差が出てしまう恐れがあります。しかし、全部で300ページにもなる生徒指導提要を全て読み込んで理解するのは大変難しいです。そのため、今回は現役教員が深掘りし、詳しく解説していきます。
本年度の教員採用試験で出題される可能性も高い内容なので、現職だけでなく、教職を目指す学生もぜひ読んで、ポイントを理解してください。
重要なのは未然防止
今回の生徒指導提要において大きく変わったのが「未然防止」に指導の主体が移ったことです。これまでの生徒指導提要においても未然防止について触れられていましたが、どちらかというと「課題対応」、つまり、トラブルが起きてからの対応策を重視していました。それがトラブルが起きないように事前に指導していく「未然防止」が生徒指導では重要であるとされたのです。しかも未然防止策を講じる対象(児童生徒)も分けて対策を講じるように示されています。
参考文献:生徒指導提要(改訂版),https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm,(参照2023-6-20)
対象者によって変わる未然防止指導
生徒指導は、全ての児童生徒に同じ指導をすればよいわけではありません。これは、実際に現場で働いている先生であれば実感していると思います。
・子どもの置かれている状況
・トラブルを抱えている相手との立場
・子どものこれまでの成育歴 など
様々な要因で対応策が変わってきます。そこで子どもたちを4つの層に分けて、教員がどんな子をターゲットにして指導をするのか明確にすることが大切であるとされました。
そのため、今回の生徒指導提要の改訂で、教員は4つの層(対象)を意識した生徒指導をしなければならないとされています。
つまりは、子どもたちを4つの層に分けて、教員がどのような子どもをターゲットにして指導をするのか明確にすることが大切であるとされました。
4つの層とは、下記の通りです。
「発達支持的生徒指導」
「課題未然防止教育」
「課題予防的生徒指導(課題早期発見対応)」「困難課題対応的生徒指導」
この4つの中で土台になるのが「発達支持的生徒指導」「課題未然防止教育」です。その上に「課題予防的生徒指導」一番上に「困難課題対応的生徒指導」がきます。
4つの層を意識した生徒指導と言っても、新しいことが入ってくるわけではありません。例えば、土台になる「発達支持的生徒指導」「課題未然防止教育」は、指導対象が全ての子どもたち、保護者や地域の人などに向けた指導です。具体的な例としては
① 朝礼などで長期休みの生活について話をする
② 避難訓練で命を守る行動について考えさせる
③ 学年の子ども全員を対象として情報モラル教室を開催する
④ 保護者向けにSNSの利用に関する講演会をする
このうちの子どもが主体的に考える①と②が「発達支持的生徒指導」、特定の課題について指導を受ける③と④が「課題未然防止教育」になります。①~④のどれも特別なものではなく、学校で行われていることではないでしょうか。
強調することは「意味づけ」
トラブルが起きそうな状況、特定の子どもがトラブルに巻き込まれそうな事態が想定されるのであれば、全体ではなく個別に未然防止策を講じます。これが「課題予防的生徒指導(課題早期発見対応)」です。既に巻き込まれている場合にも深刻化していかないように予防線を張っていきます。大切なのは、子どもに指導の意図を「理解させる(意味づけさせる)こと」です。失敗しやすいのは個別に伝えなければいけないのに、全体に話をしてしまい、一番理解しなければいけない子どもに伝わっていないケースです。これは一番よくありません。なぜ、指導をしているのか、子どもが理解して、教員と一緒になってこれからについて考えることが大切です。
「困難課題対応的生徒指導」の状態になるとまずい状態です。学校だけでは対応することができず、保護者やスクールカウンセラー、弁護士といったような外部の力と協力して対応を考える段階になります。
年間計画が重要になる
こうした未然防止の生徒指導を効果的に行うためには「年間計画」が重要になります。学校行事や学年行事などを見ながら、子どもの発達段階に合わせて先手を打ちましょう。
「発達支持的生徒指導」と「課題未然防止教育」は日常的に、タイムリーに行うことで未然防止をすることができます。SNSの研修会であれば、スマホの利用が増えてくる小学校高学年から中学生にかけて行うことで効果を上げることができるでしょう。
他にも人権週間や交通安全運動、挨拶運動などに合わせてタイムリーな指導をします。こうした生徒指導も特別なものではなく、どの学校でも行われているのではないでしょうか。あとは行動をする子どもたちに「指導する意味づけ」をすることを忘れないようにしましょう。意味づけが「未然防止」につながります。
学校や教員を守ることになる攻めの生徒指導
生徒指導提要で「未然防止」が重視されることになって何が変わるのでしょうか。1つの変化として、これまではトラブルが起きてから対応するという「受け身」の姿勢だったものが、未然防止策を講じるという攻めの生徒指導に変わります。一方で、公に示されたからこそ教員側も気を付けることがあります。
提要を保護者の武器にさせない
生徒指導提要では、学校側や対策を講じることを前提に公表されています。つまり、ここで公表されていることを教員は守ることが前提です。
例えば、P.105には次のような記載があります。
〔不適切な指導と考えられ得る例〕
• 大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
• 児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
• 組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
• 殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
• 児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
• 他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
• 指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。
これは教員が生徒指導をする際にやってはいけないことです。1文目の「大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動」のような生徒指導をしている教員はいないでしょうか。こうした生徒指導をすると保護者は、生徒指導提要を根拠に保護者からのクレームが入る場合があります。生徒指導提要を保護者の武器として利用されないように、教員は内容をよく理解して、日頃の指導に当たりましょう。
事前にやってある事実は大きい
学校における事前指導は「予防線」を張る上で非常に大切です。例えば、SNSのトラブルが起こり、裁判になります。すると学校側が事前に指導をしていた事実があるのか、ないのかで責任の所在が大きく変わることになります。予防線を張るというと逃げているような印象を与えるかもしれませんが、「対策を講じたのにトラブルが起きた」と「対策を講じずにトラブルが起きた」では、意味が全然違います。トラブルの深刻さも大きく変わるので、「日頃から」「適切な時期」に未然防止指導を行うことを意識しましょう。
事が起こってからでは遅い
これまで新しく改訂された「生徒指導提要」のポイントである未然防止的指導について解説をしてきました。児童生徒間のトラブルは学校現場において「起きること」が前提です。しかし、事前に指導をしているのかどうかで、トラブルの深刻さや解決までの時間、責任の所在が変わってきます。日頃子どもたちに指導をしていくときには、未然指導することを意識し、指導された子どもが意味を理解できるようにしていくことが大切です。