企業や大学などでも導入が進んでいる生成AI。生成AIを活用することにより、誰でも簡単に動画編集や文章作成をすることができますが、情報の安全性が確保できないことや生成AIを利用すると簡単に答えを出せてしまえることから、学校現場での活用について二の足を踏んでいる学校もあります。
今回は、ぜひ知っておいてほしい教員の業務効率化のための生成AIの活用法やその注意点をお教えします。
文部科学省も「リーディングDX事業」として生成AIを活用するパイロット校を後押ししており、学校現場も「生成AIを利用する波」は確実に訪れています。学校教育における生成AIの活用について詳しく知りたい方や利用することを不安に思う方はこちらの記事を参考にしてください。
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
国として生成AIを学校教育で活かすためのガイドラインが策定されました
生成AIを授業で使用する際によく下記を心配されることがあります。
・自ら考えるチカラの低下
例えば、課題やレポートを生成AIを用いて作成する
・情報の安全性
例えば、生成AIの作成したものが正しいものだと思い、真偽の判断を誤る
そのため、文部科学省も生成AIの利用に関して「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を策定しました。この中で、生成AIを使うメリットとデメリット、また、学校現場において活用をすることができる場面や、活用をしにくい場面などが紹介されています。
国としても「GIGAスクール構想」に伴って一人一台端末の活用が進み、生成AIが身近な存在であること、活用をすることで子どもの資質能力を向上させることは理解しています。ガイドラインでは、活用例などが示され、ガイドラインを受けて先進導入校を中心に生成AIの活用方法の研究が進められています。
参考文献:初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン,文部科学省,https://www.mext.go.jp/content/20230710-mxt_shuukyo02-000030823_003.pdf,(参照2024-10-06)
教育現場における生成AIの利活用
学校現場ではどのように生成AIが活用しているのでしょうか?「リーディングDX事業の推進校」の取り組みなどを紹介していきます。
生成AIパイロット校を選出し、効果的な授業実践の創出
文部科学省では「リーディングDXスクールプロジェクト」の中で、生成AIを活用した授業実践校に対して補助金を出し、研究を進めています。生成AIのパイロット校は全国にあり、どの学校で実践が行われているのかはリーディングDXスクールのwebサイトで公表されています。興味のある方は、リーディングDXスクール一覧を見てみてください。
生成AIの活用に関しては未知なる部分が多く、学校現場の職員だけでは何をしてよいか分からないところがありますが、大学教授を招いて指導助言をいただいたり、同じ生成AIの研究校同士で学習会を行ったりするなど、授業実践の創出に国や自治体もバックアップをしています。
児童生徒が活用する事例を紹介
生成AIを利用すると、質問に対する回答がすぐに出てしまうため、子どもたちの「自ら考えるチカラの低下」が心配されています。そのため、問題に回答するために生成AIを活用するのではなく、「学びの道具」として生成AIを盛り込む方法がおすすめです。
例えば、国語の授業において「聞き手に分かりやすい話し方を考える」というテーマの学習があります。従来は、一人で考えているとなかなか問題解決することができないので、児童生徒同士で話し合いをして解決策を考えるというのが従来の方法でしたが、生成AIを活用することで一人でも課題に取り組むことができます。
生成AIが出した答えをそのまま使っては意味がありません。
①自分自身(児童生徒)が自分なりの解決策をもつ
②他の解決策がないか生成AIを利用して情報を得る
③自分で考えたことと生成AIを利用して得た情報を合わせて最終的な判断をする
このような流れで授業に取り入れることがおすすめです。
従来の「グループ学習」や「ペア学習」の中に「生成AI」という選択肢が増えたイメージです。メリットとして生成AIが入ってきたことにより「個別最適化された学習」をすることができるようになりました。グループ学習やペア学習は協働的な学びですが、どうしてもついていくことが出来なかったり、自分のペースでやりたいのにやれなかったりする児童生徒が出てきます。生成AIが入ってきたことで、1つの授業の中で、「自分で学んでいる子」「グループで学んでいる子」という複線化された授業を同時展開することができます。
ほかにも生成AIが作成した回答を批判的に見る(クリティカルシンキング)ことで学びを深めたり、体育でAIの回答を実践して上手くいくのかどうか試しながら自分たちの思考力を高めていく授業実践などが行われています。
参考文献:文部科学省,リーディングDX事業,https://leadingdxschool.mext.go.jp/,(参照2024-10-06)
教職員が生成AIを活用する事例を紹介
授業で生成AIを作る以外にも教員の負担軽減策として生成AIを利用することができないかという研究も進められています。
例えば
・テスト問題の「たたき台」を生成AIに作成させる
・児童生徒の答案採点を生成AIが行う
こういったことがすでに行われています。
テストやプリントのたたき台のようなものを作ってもらうことができるだけでも教員にとっては大きな負担軽減となりますし、時間のかかる採点時間を大幅に短縮できる効果はとても大きいです。今後はさらに、生成AIを利用して子どもの評価をしたり、個々の学習状況を把握して、個別に最適化された演習問題を出題できたりすることが研究されています。
生成AIを利用する際の注意点
生成AIは業務量が多い教員の助けとなっていますが、利用するにあたり注意すべき点もいくつかあります。まず、教員も児童生徒も共通して気を付けなければいけないのが、生成AIの作成している回答はすべて正しい訳ではないと知っておかなければいけないということです。
実際に生成AIを利用したことのある方の中には、生成AIの回答に違和感を感じたことがある方もいるのではないでしょうか。私自身も生成AIを利用してみましたが、明らかにおかしい回答がいくつかありました。大人であれば経験や知識からその誤りに気づくことができますが、知識の少ない子どもでは間違っているのかどうかを判断することもできません。したがって生成AIによる回答は完璧ではないこと、そして回答を確かめ、最終的に判断する力が求められます。プリントや課題作成、テスト作成においても「たたき台」という考え方を持つことが大切です。
生成AIを利用していく流れは自然 どのように活用し、活用させていくのかが今後の教員に求められる
教育現場での生成AIの活用はどんどん進んでいきます。教員もいかに活用するかという点で考えることが必要です。これまでのような1つの答えを求めるような授業ではAIが簡単に答えを出してしまいます。プロセスを考えるような発問をし、子どもが生成AIを問題解決の1つの手立てとできるように授業の展開を工夫していくことが教員には求められています。
また、生成AIはデータを分析することに非常に長けています。そこで膨大なデータから児童生徒の弱点を指摘して、指摘されたことを元にさらにステップアップできるような指導方法を考えていきましょう。