教員免許更新制が廃止!これからの教員研修はどう変わる?

2022年、萩生田元文部科学大臣が「教員免許更新制の廃止」を検討していることがニュースになりました。廃止に向けた議論は順調に進み、同年7月には廃止が決定、2023年度からは新たな研修体制がスタートします。
「更新制廃止」に注目が集まりがちですが、これにより教員研修体制が大きく変化することも忘れてはいけません。学校教育が過渡期となる中で、子どもたちの学びを担う教員の研修体制はどのように変わっていくのでしょうか?
この記事では「教員免許更新制はなぜ廃止されたのか」に着目して、今後求められる「新たな教師の学びの姿」と新研修体制の内容について解説しています。

※23年度から新制度スタートについては、主要なニュースでは取り上げられているものの、文部科学省の資料は未掲載。中教審の審議会まとめ資料では、早急に取り掛かるべき事案として表記されています。

2022年5月に教員免許更新制の廃止が閣議決定

2022年5月11日に、参院で教育公務員特例法と教育職員免許法の改正法が可決・成立し、同年7月以降の教員免許更新制の廃止が決定しました。
これにより10年ごとに受講が義務付けられていた、30時間以上の更新講習を行う必要がなくなり、教員負担の軽減が期待されます。
改正法の施行後に有効期限となる教員免許は、今後更新することなく永久的に利用可能です。
施行前に有効期限が切れた場合にも、都道府県の教育委員会へ再授与申請を行えば有効期限のない免許状を交付してもらえます。
また教員免許更新制の廃止に伴い、新たな研修制度を設定する方針も発表されました。
新たな研修制度では、教員個人に研修記録の作成を義務付け、教育委員会や学校管理者が適宜教員へ助言を行うよう求められています。

教員免許更新制はなぜ廃止された?

教員免許の更新制度は2009年4月に導入が開始されたものですが、今回の改正法成立で開始からわずか13年で終了という結果になりました。
では具体的にどのような理由で廃止されたのでしょうか。ここでは主に取り上げられる3つの理由を紹介します。

①講習受講に伴う教員の負担が大きかった

教員免許更新制では、教員免許に10年の有効期限が設けられ、更新に必要な講習を受講できなければ失効するという形でした。
更新に必要な講習は、期限前の2年間で30時間以上の受講が義務付けられています。
文部科学省が2021年に行った調査では、多くの教員が更新のための講座受講を負担に感じているという結果が出ました。

引用元:文部科学省「資料1-1  令和3年度『免許更新制高度化のための調査研究事業』(結果概要)」p.5

負担感が強いものとして挙げられているのは、受講費用・講習時間・受講予約です。
更新講座の受講は義務となっていますが、講座を受けるには教員自身が予約や受講料の支払いをしなければなりません。
忙しい業務の合間に更新講座が受講できる大学を調べ、大学で実施されている講座を調べ、申込みをして受講料まで払うのはかなりの負担でしょう。
ちなみに神奈川県教育委員会が設置する更新講習は30時間で3〜5万円です。
時間的にも金銭的にも教員自身の負担が大きかったことがよくわかります。

②講習内容に関して不満が噴出していた

文部科学省が行った更新制に関する調査結果を見ると、実際に行われる講習の内容についても不満が噴出している様子がうかがえます。

引用元:文部科学省「資料1-1  令和3年度『免許更新制高度化のための調査研究事業』(結果概要)」p.4

引用元:文部科学省「資料1-1  令和3年度『免許更新制高度化のための調査研究事業』(結果概要)」p.5

「受講した講習が教育現場で役立っているか」という質問では、役立っている・やや役立っていると回答したのがわずか33.4%でした。
講習を受けた7割近くの教員が、更新講習を役立つものだったと感じていないというのは大きな問題でしょう。
講習内容が役立っていないと感じる理由については、現実と乖離している・実践的な内容が出ないとの回答が半分以上となっています。
教員免許の更新制は「教員の資質能力の保持」と「最新の知識技能を身につける」のが目的でしたが、実際の教員にとっては負担でしかなかったようです。

③「新たな教師の学びの姿」に合っていなかった

教員免許更新制について議論を行っていた中央教育審議会の『「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会』では、更新制について次のように述べられています。

教員免許更新制は、教師の学びの機会の拡大など、一定の成果は上がってきたものの、

・ 更新しなければ職務上の地位の喪失を招きかねず、自律的かつ主体的に学ぶ姿勢は発揮されにくい。

・ 10年に1度の講習は、常に最新の知識技能を学び続けていくことと整合的でない。

・ 個別最適な学びが求められる中で、共通に求められる内容を中心とする更新制とは方向性が異なっている。

・ 「現場の経験」を重視した学びは更新制の客観的な要件として位置付けることが困難である。

・ 免許状更新講習の受講は、本質的に個人的なものとならざるを得ず、組織的なものとする上で限界がある。

引用元:中央教育審議会「【参考資料2-1】 審議まとめ(「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて

この審議会では、「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現(令和の日本型学校教育)」にはどんな教員養成・採用・研修等が必要かが議論されてきました。
その審議のまとめとして出されたのが、今後求められる教員研修の姿は現行の更新制では実現することが難しいという結論です。

これから求められる「新たな教師の学びの姿」を実現するために、教員免許更新制は「発展的な解消」という形で廃止されることとなりました。

今後求められる「新たな教師の学びの姿」とは?

では、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」で提言された「新たな教師の学びの姿」とはどのようなものでしょうか。
審議まとめでは、6つの姿が挙げられています。

・学び続ける教師
・教師の継続的な学びを支える主体的な姿勢
・個別最適な教師の学び、協働的な教師の学び
・適切な目標設定・現状把握、積極的な「対話」
・質の高い有意義な学習コンテンツ
・学びの成果の可視化と組織的共有

引用元:中央教育審議会「【参考資料2-1】 審議まとめ(「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて

「新たな教師の学びの姿」で強調されている視点は、大きく2つです。

  • 教員自身が主体的に学び専門性を伸ばすこと
  • 学校(組織)全体で協働・対話しながら学びを深めること

これまでの教員が個人で講習を受けて終了する研修制度ではなく、個人での学びと学校全体での学びを一つのサイクルとして連携させる制度にしたいねらいがあります。

引用元:文部科学省「資料2-3 新たな教師の学びの姿 に関する体制整備について」p.1図より抜粋

この研修制度を実現させるには、教員個人が主体的に学ぶことやそのための環境整備を行うことはもちろん、個人の頑張りを学校全体で拾い上げる取り組みが必要となるでしょう。

「新たな教師の学びの姿」を実現するための新研修制度

ここでは「新たな教師の学びの姿」実現に向けた研修制度の内容を3つ紹介します。

現職教員の方も今後教員を目指す方も、新研修制度はぜひチェックしてくださいね。

  • 学校全体で教員の学びを推進する仕組みづくり
  • 外部機関と協働した学習コンテンツの充実
  • 研修記録システムを設置・活用して学びを可視化

学校全体で教員の学びを推進する仕組みづくり

今回の新研修制度の柱は、「教員・学校管理者・教育委員会が連携して教員の学びを推進する環境を作ること」です。
これまでのように教員の資質能力の向上を個人任せにするのではなく、組織的に取り組んで全体的な能力向上を目指そうという姿勢がうかがえます。
教員の学び推進のための仕組みとして検討されているのは、以下の2つです。

  • 各任命権者が教師の研修履歴等を記録及び管理し、これを活用しながら教師に資質向上のための研修の受講を奨励することを義務づける
  • 期待する水準の研修を受けていると到底認められない教師には、職務命令に基づき研修を受講させる等の対応を行うガイドラインを作成する

研修記録作成の義務化については議論が起こっていますが、記録作成の目的はこれを活用して教員との対話を行うためです。
義務化まで行う必要があるかは疑問が残るものの、学校全体で研修を推進する体制を作るためには重要なことではないかと考えられます。

外部機関と協働した学習コンテンツの充実

教員の主体的な学びを手厚くサポートするための取り組みが、学習コンテンツの充実です。
文部科学省の構想では、外部機関と協働してさまざまな形の学習コンテンツを作成する方針となっています。

  • NITS(独立行政法人教職員支援機構)のオンライン講座・研修・セミナー
  • 大学・教職大学院が行ってきた講習の内容を活用して共同コンテンツを作成
  • 民間・教育関係団体のノウハウを活かして共同コンテンツを作成

今あるNITSのオンライン講座をさらに拡充させ、いつでもどこでも研修できる体制づくりを行っていくようです。
また従来の対面・宿泊型の研修と視聴のみのオンデマンド型、対話可能なオンライン型の研修を組み合わせて、より効率的で効果的な研修方法を模索していくとも述べています。

研修記録システムを設置・活用して学びを可視化

教員の自主的で多様な学びを可視化して活用するには、研修記録の一元管理を行うことが重要です。
そこで文部科学省では、「研修受講履歴管理システム(仮称)」の開発・導入が検討されています。
これは教員の研修受講履歴や研修の内容、学びで得た気づきなどを受講後に入力することで、研修に関する情報をまとめて管理するシステムです。
研修受講履歴管理システムを活用すれば、学校管理者と教員が行う研修状況の振り返りの効率化も期待できます。
研修内容を簡単に振り返れるので、教員自身が研修内容を決めるときにも大いに多いに役立つはずです。

校内外で協働しながら教員の資質向上を目指そう

教員免許更新制が廃止される背景には、時代に合わせて教員研修体制を転換していきたいという教育関係者の想いがありました。
学校全体で教員の学びを推進していく体制ができることは理想的です。
しかし現実には、教員の長時間労働や教員不足問題などさまざまな問題が立ちはだかっています。
新たな教師の学びの姿実現に向けて、文部科学省や教育委員会の今後の動向が気になるところです。

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