授業が「分かる」カギはここにある! 宿題の出し方で注意するポイントを徹底解説!

宿題に対してあまり良いイメージをもっていない子どもも多いのが現実です。しかし、宿題を上手に出せば後に繋がる授業が分かりやすくなり、成績アップにも繋がります。今回は宿題の出し方について注意するポイントを現役教員が詳しく解説していきます。

そもそも宿題は何のために出すのか?

宿題が好きでたまらないという子どもはあまりいません。私自身も学生時代は教員から出される宿題はしたくない気持ちでいっぱいでしたが、それでも毎日のように宿題が課されます。なぜ、教員は子どもたちに宿題を課すのでしょうか。まずは宿題の目的についてお教えします。

勉強は授業だけでは完結しない

宿題を出す目的はいくつか存在しますが、教員側から考える宿題の目的の一つは子どもたちの授業に関する理解度の確認です。宿題を課すことで教員が目に見える形で、全ての子どもの理解度を確認することができます。さらには、子どもに学習内容の定着させる効果も期待できます。エビングハウスの忘却曲線が示す通り、子どもたちが自宅に帰るころには授業で扱った100のうちの30しか覚えていません。この「忘れること」を防止するためには復習が必要になりますが、その家庭での復習の役割を果たすのが宿題です。子どもからすると授業は教科内容をインプットしていく時間、宿題はアウトプットするための時間になります。正確にアウトプットできるようになればテストの問題も自然と解けるようになります。

参考文献:CiNii 図書 – 記憶について : 実験心理学への貢献,ヘルマン・エビングハウス著,宇津木保訳,望月衛閲,誠信書房, 1978.6

参考文献:「1日で66%忘れる」は本当か?「エビングハウスの忘却曲線」の論文『記憶について』を読んでみた | ヒヒでもわかるオンライン講座 (shikaku-benkyou.com)

成績向上のカギは家庭学習が握っている

英単語をたくさん覚えている子どもとそうでない子どもを比べたとき、英文をスラスラと読めるのは間違いなく前者です。また、数学の問題を繰り返し解いた子どもとそうでない子どもを比較しても、計算が速いのは前者です。このように成績向上につながる勉強を突き詰めていくと暗記と思考訓練の2つに集約されます。勉強は日々の積み重ねで成り立っているため、日々勉強の中でこの2つを繰り返す必要があります。

しかし、現実的な問題として、授業の中で盛り込むのは厳しいものがあります。指導要領改定のあった2018年時点での授業時間は、小学校6年間で5855時間ありますが、2003年時点の改定では5645時間と授業時間そのものは1割も増えていません。また中学校は2018年と2003年の改定での総授業時間数は、どちらも3015時間と時間は全く増えていません。その中で授業内容自体は高度化・複雑化していますから、授業時間の面から考えても1時間程度ではどれだけまとまった暗記や演習時間を確保できるか分かりませんし、内容次第では全く時間を確保できないこともありえます。そうなると必然的に、演習や暗記の時間は家庭学習に担ってもらうことになります。宿題という形で家庭での暗記や演習の時間を確保することで子どもに勉強することを習慣にさせ、日々の積み重ねを作ることも目的の一つです。

参考文献:平成29年3月,学校教育法施行規則の一部を改正する省令の制定並びに幼稚園教育要領の全部を改正する告示,小学校学習指導要領の全部を改正する告示及び中学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について(通知) (mext.go.jp)

参考文献:平成20年6月,小学校学習指導要領解説総則編 (mext.go.jp)

参考文献:平成20年7月,中学校学習指導要領解説総則編 (mext.go.jp)

宿題を「罰」として出すのは無意味

宿題を出したときに30人ほどのクラスで誰一人として宿題忘れがないということがありえるでしょうか。やってこない子、適当にやる子も決して少なくはないはずです。すると、真面目な教員ほどクラスの子どもたち全員が宿題をしてきていることを前提の上で授業の構成を組み立てていますので、宿題を忘れた子はその後の授業についていけなくなる可能性があります。これではクラス全体の学力の向上にはつながりません。

真面目な教員は自分自身が宿題を忘れた経験がなく、傍で忘れたクラスメイトが教員に怒られている場面を見て、どうしても頭の中には「宿題を忘れる=悪」という図式があり、忘れた子どもをたびたび叱ることになります。しかし、子どもは元々宿題自体にネガティブなイメージを持っています。面倒で自分の楽しい時間を奪うものですから、当然のことと言えるでしょう。それに更に懲罰の目的を加えてしまうと、一層、子どものやる気を奪う結果になってしまいます。

成績を上げる「上手な」宿題の出し方

一時期、宿題不要論というのが盛んに叫ばれました。宿題は子どもたちから勉強に対してのやる気を奪い結果的に成績を下げることに繋がるというのが理由です。しかし、それは成績向上に全く繋がらない宿題を出しているからに他なりません。事実、宿題と言えばとにかく書き続けさせるだけのものだったり、簡単すぎたり難しすぎたりして解くこと自体に意味のないものだったりと、子どもたちの学力向上に逆効果しかないものが大半です。ここからは実際に子どもの成績に効果がある宿題の出し方をお伝えしていきます。

参考文献:デュークスタディ:宿題は、あまり多くない限り、生徒が学校で成功するのに役立ちますデューク・トゥデイ (duke.edu)

宿題は目的を明確にしておくことが大切

宿題を出す際には単に宿題をさせることが目的ではないということを忘れてはいけません。確かに宿題には提出の期日が存在し、その提出状況や出来栄えによって成績がつけられるというのはよくある事です。しかし、宿題を出す目的は子どもたちが家庭で勉強できる内容を作り、復習や予習をすることで学力の定着を図ることにあります。このことを無視して子どもたちの身の丈に合わない宿題を課したり、提出されていないことを責めたりはしないようにしましょう。

宿題を出す際は、教員から「授業内容の復習のため」「次回のための準備・予習のため」などの明確な目的が必要になります。口に出す必要はありませんが、子どもたちに「この宿題はこのような理由があるので必要だ」ということが伝わらなければ、子どもの中で義務感が強くなり宿題が単なる作業となってしまいます。このことが伝わっていれば、提出がなされていないことは学力の定着に繋がらないと子ども自身も分かるようになり、自然と提出が進みます。

「自由にやりなさい」は全員が困る

例えば、私達が「結婚式」に「服装自由」と言われたとしても、自由な格好で参列する人は少ないでしょう。なぜなら目的や季節柄、一緒に参加する人などで服装は決まりますし、もしかけ離れた格好をしようとしているならば誰かが止めるはずです。しかし、宿題で「自由で」としてしまうと、関わる全員が困惑することになってしまいます。

実際のところ、子どもたちの多くは「自分は何が分かっていないのかが分かっていない」「その分かっていないを解消するために何をすべきかも分からない」という状況です。その状況で「自由にやりなさい」と子どもに宿題を投げたとしても、ゴールも指針も何もありません。結局何をすれば良いのかも分からず、もしかすると全く意味のない勉強をする子どもが現れる可能性もあります。家庭で子どもの宿題を見ている保護者も同様です。何をすれば良いのか分からないから「○○をすべき」というアドバイスもできません。そして、宿題の出来不出来を判定する教員も困惑します。本来、この種の宿題の判定は「個々に合った適切な量と内容か」が基準になりますが、子どもの自主性を重んじた以上、それは「子どもが自分で不足していると思ったから」した内容になるため、教員の思う内容から外れていても指摘が難しくなってしまいます。「自由にさせる」のは、行動指針やゴールが明確になっている受験生などには有効な手段ですが、それ以外の子どもには相応しくありません。

子どもの実力に合った内容を考える

多くの教員が勘違いしていますが宿題の内容を難しくしても、子どもの成績向上にはつながりません。例えば、中学生に対してその道のスペシャリストが何年もかけて考えているような難問奇問の宿題を用意するとします。興味のある数人の子どもにとっては面白いかもしれませんが、それ以外の子どもたちにとっては興味もなく、成績向上にも全く意味がないものです。この例は極端なものですが、難しい宿題を課しても子どもたちの心には「難しい」「終わらない」という悪い印象しか残らず、結果的に子どものやる気をなくすことになってしまいます。

宿題の目的は授業内容の復習を行い定着させることにあります。難しい問題を出しても、子ども一人で完結させることができなければ実力は付きません。標準よりもやや下がるレベルの子どもが授業中のノートや教科書などを見返す程度で十分に子どもが解き切ることができる程度に宿題のレベルは調整しておきましょう。反対に簡単すぎる問題も「つまらない」となってしまい、こちらもやる気をなくすことになるので、レベルの下げすぎにも注意が必要です。

子どもが全力を出さなくても完了できる量がベスト

実は教員が思っている以上に子どもが家庭で勉強に費やせる時間というのは多くありません。登校が午前8時で授業終了が午後3時くらいだとすれば一日のうち7時間は学校で過ごしている計算です。そこから帰宅して食事や入浴を済ませてきちんとした睡眠時間を確保するならば午後11時には就寝することになります。そうすると、子どもが自由に使える時間は1日7時間程度しかありません。勿論、これには習い事や部活などの時間を全く含んでいませんので、これらが加わると一層勉強に使える時間自体が少なくなります。

これを知らずに大量の宿題を出すと、子どもたちを苦しめることになります。大量の宿題を終わらせるために子どもたちが時間を削るのは大抵の場合、余暇時間と睡眠時間です。余暇時間はまだしも睡眠時間を削るのは子どもの成長を妨げ、心身や健康に悪影響しか及ぼしません。何とか徹夜して終わらせても授業中に寝てしまったり、集中できない状態でいるようでは本末転倒です。このような事態を避けるためにも、宿題は質を重視して「これだけ問題が解ければ十分」という厳選した量の問題を課すようにしましょう。

子どもが自主的に勉強するようになるために

理想の宿題の形は、子どもたちそれぞれの実力や状況に応じた適切な質と量を備えたものを出すことです。つまり、成績上位の子どもには量が少なくても徹底的に考え抜く必要がある良問を、反対に成績が芳しくない子どもにはレベルを下げて反復するための問題をというような具合です。極論を言えば子どもがサポートを必要もせず勉強が授業で完結してしまっているならば、宿題を出す必要性はありません。しかし、教育の現場では30人いる子どもたち全員に最適な宿題を課すというのは中々に難しいものがあります。

その解消方法の一つの考え方として、多くの学習塾では宿題をなくしています。その代わりにレベルを上げたい生徒にだけプリントを配布しています。これも確かに宿題ですが、今までの「しかたなくやるもの」から「自分から進んでやるもの」と子どものマインドが180度変化しています。必要なことは子どもが「前向きに取り組めるようにする」ことではないでしょうか。

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