未来を担う若手教員の育成 その現状と注意点とは?

近年は教員の退職者が増加傾向にあり、毎年多くの新人教員が入ってきています。さらに、精神疾患などを理由に休職・退職に追い込まれる若手教員も増えており、特に20代での離職率が年々高くなっているのは大きな課題です。

採用1年目に「初任者研修」はあるものの、研修は月に1、2回しかなく、新人や若手教員を育成するのは、現場で働いている教員が担っています。

今回は、若手の教員を指導・育成する際に気を付けなければいけないことや意識しておきたいことをご紹介します。

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

若手教員の離職理由

はじめに若手教員の離職の現状についてお話しします。

教職経験が浅い教員が離職する理由について、令和4年度の「学校教育統計調査」によるとトップの「自己都合」に次いで「病気」が並びます。病気の中でも増加傾向にあるのが「精神疾患」です。うつ病などによって休職に追い込まれ、そのまま復帰することができず退職になるというケースが増えています。

離職率は他の業種と大きな差はないものの、調査をするたびに増え続けており、毎年過去最高を更新し続けています。自治体も初任者研修でメンタルヘルスの講座を実施したり、教員の相談会などを設けたりしていますが、なかなか減らないのが現実です。

ストレスの原因①困ったことを相談できない

私たちベテラン教員は、「困ったことがあれば聞いてほしい」と思い、気軽に言ってはいますが、若手(経験の浅い)教員からすると先輩に話を聞くというだけでもハードルは高くなってしまいます。特に先輩が忙しい状態だと話しかけることにも気を遣うでしょう。特に立場が違う校長や教頭といった人たちになれば余計に話しにくくなります。

対策① 話しかけやすい雰囲気を作ろう

周囲や学年に若い先生がいる場合は、話しかけやすい雰囲気を作るように意識しましょう。何気ない日常会話でもよいですし、1日が終わったときに雑談の声掛けでもよいです。先輩の方から何気なく声をかけて、たわいもない会話ができる雰囲気を作ることができるとよいです。学年主任や教務主任クラスの人であれば、「何気ない雑談ができる職員室づくり」というのも大切かもしれません。

ストレスの原因② 話についていけない

4月当初は、職員会議に学年会議と会議のオンパレードになります。新任として赴任したばかりの教員から見ると「知らない教育用語」がいっぱい飛び交い、新学期が始まる前にすでに疲弊しているというケースもよくある話です。

実はこうした会議で気を付けたい言葉が前年通りというフレーズです。会議では説明を省くために「去年と同じやり方で」という意味の言葉をさらっと使ってしまうことが多いのですが、この言葉、新任や転任者からすると「何のことか分からない」一番のフレーズです。何年も教員をしていたり、その学校に長くいたりする人は分かる用語でも、経験の浅い人からすると何を言っているのか分からず、できないと先輩から指導を受けるような職場はよくありません。「前年通り」というのはある意味責任を投げている言葉で、使う側も気を付けなければいけないのです。

対策② さりげなくフォローしよう

前からいる(経験のある)教員しか分からないような話題や専門用語が出たときには、周囲のさりげないフォローが大切です。新学期スタートしたときには先輩自身も忙しいとは思いますが、会議終了後、分からないことはないか、困ったことはないか話しかけてあげてください。

雰囲気を作り出すのは先輩の技量次第

現場で教務主任をしていたときに「いい先輩だな」「後輩をうまく育ててくれるな」と感じる教員はたくさんいます。一方で、「もう少し周りを見てほしいな」「今、声をかけてほしいな」と思う教員もいます。正直なところ、先輩の技量次第と思うのですが、何が違うのでしょうか。

大きく感じるのは、後輩に慕われる教員は学校全体から頼りにされている教員であるという点です。後輩育ての上手な教員は広く周りを見ています。そのため、学級経営も上手であれば、学校組織の一員として重要な仕事(学年主任や生徒指導主任など)を任されていることが多く、上司からも信頼を得ています。つまり、それだけ「余裕がある教員」とも言い換えることができます。また、仕事をするときにも年齢や経験年数ではなく、役割や立場を考えて仕事をすることができます。

そして、指導をするときにも感情論で指導をするのではなく、法律やきまりといったみんなが納得できるルールに従って指導をしているのです。だから先輩から指導を受けたとしても論理的に整合性があるので、指導された側も納得して受け入れることができます。

逆に育成が上手くないと思う教員は、思い付きで話したり、曖昧な返答をしたりしがちです。指導を受けた側は「なぜ、そのような指導をうけたのか」納得することができず、また自分で納得解を探さなければいけません。これは経験の浅い人にとっては非常に大変ですし、見つけた答えが正しいか、また聞かなければいけません。

人材育成をするのには、どの業界でも時間がかかります。業界の慣例や今まで通りだからといったような指示をしていると言われた方は理解ができずモヤモヤがたまっていきます。よい組織を作り上げるには、人育てをする人に方法論をしっかりと伝え、実行してもらうことが縦のつながりの強い組織を作ることになります。

いきなり担任から始まるという異様な世界

教員をしている人は、大学から社会人を経験することなく、採用試験を受けている人が多いと思います。そしていきなり4月から担任をもつというのも「当たり前」という風に感じているかもしれませんが、これは一般社会ではあまりないことです。プロ野球の世界でいえば、ドラフト新人が翌年の開幕スタメンで試合に出ることと同じようなレアなことが多くの学校で起きています。

一般的な企業では即戦力であっても研修期間があります。さまざまな部署を見たり、体験したりという機会をもってから、配属先が決定していきます。教員は、研修期間なくいきなり担任をもって4月からスタートするという特殊な状況であることを理解しておきましょう。

人材育成は学校現場の大切なお仕事

若手教員や新人教員の育成は、先輩教員や学校にとってとても大切なことです。しかし、現実にはなかなか先輩に聞きにくい雰囲気があり、初任者が追い詰められてメンタルを壊し、休職するというのもよく耳にします。

学校は、人材育成をすることがとても大切な仕事であると思う一方で、今までのような「何かあれば聞いてくれ」というスタンスではなく、「何でも言いやすい」環境を作り上げることが大切です。人材育成は校長を含めた学校組織全体が意識して取り組むことが大切です。

参考文献:学校教員統計調査(令和4年度),文部科学省

https://www.mext.go.jp/content/20240321-mxt_chousa01-000030586_1.pdf,(参照2024-10-15)

参考文献:教職員のメンタルヘルスの現状等,文部科学省,

https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/03/29/1332655_04.pdf,(参照2024-10-15)

最新情報をチェックしよう!