家族である高齢者や障がい者の介護や、幼い兄弟の世話を日常的にする子どもを「ヤングケアラー」と呼びます。
厚生労働省が令和3年に実施した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」によると、割合は中学校2年生で5%前後と言われており、通信制の高校生に限ると10%近くがヤングケアラーに該当する報告があります。
ヤングケアラーへの支援
ヤングケアラーは、子ども・若者育成支援推進法において、国・地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象と定められています。
ヤングケアラーの家庭での負担は大きく、多くのストレスを抱えているため、学校や教員によるヤングケアラーへの理解と支援も不可欠です。
ライター
emikyon
・元公立学校教員
・教育委員会にて勤務
・eduloライター歴2年
参考文献:ヤングケアラーの実態に関する調査研究について,厚生労働省,https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000767891.pdf(参照2024-08-20)
国や自治体の今後の方針と現状
ヤングケアラーへの支援の方針として決まっているのは次の3点です。
①早期発見・把握
②支援策の推進
③社会的認知度の向上
これを見て非常にあいまいな方針だなと思った人もいるのではないでしょうか。このような表現になっている理由は、ヤングケアラー支援に関する法制上の位置付けがないことが大きいです。しかも、ヤングケアラーであるか、ないかという明確な位置付けもできていません。
法律の条文においても、ヤングケアラーは『家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者』と書かれており、1日に何時間以上家族の介護や世話をしたらヤングケアラーになるのか、どんな生活水準の人を対象とするのかはっきりとしていません。実態の実態把握も甘く、どれくらいヤングケアラーに該当する世帯があるのか正確に分からないのが現状です。
行政としても「子育て支援」策として待機児童の解消や子育て支援金、児童手当の給付など、乳幼児の子育て支援策は充実させていますが、ヤングケアラーにあたる小学生から高校生の子どもに対する支援策は十分ではないと言える状況です。
参考文献:子ども・若者育成支援推進法,https://laws.e-gov.go.jp/law/421AC0000000071(参照2024-08-20)
学校や教員ができることは何か
ヤングケアラーの支援には早期発見が求められますが、毎日顔を合わせる担当教員であってもその生徒がヤングケアラーかどうか判断するのは非常に難しいといえます。
例えば
・家で弟や妹の面倒を見ている
・家族の代わりに食事を作っている
これだけの情報では、お手伝いなのかヤングケアラーなのか分かりません。
学校でヤングケアラーに関する調査が実施しても、子ども自身が「日常の当たり前」「お手伝い」という意識でやっている子が多く、自分自身でもヤングケアラーであると気づいていないというケースも多くなっています。さらに、ヤングケアラーは家庭内の問題であるため外部の学校が入っていくのはプライバシーの面からも問題になりやすいという難点があります。
ヤングケアラーの子どもを見つけたら?
学校や教員は、ヤングケアラーが疑われる子どもを発見した場合には、「学校での日常生活に影響が出ていないか」を確認しましょう。
・家のことが忙しくて毎日遅刻をする、授業中に寝てしまうようなことがある
・宿題をすることや部活動に参加することができない
このような他の児童生徒ができることが、家庭の事情によってできない場合は要注意です。
個別の面談や毎日の生活記録でも、本人の負担になるような家庭での手伝い、介護をしているような状況であれば注意しましょう。
国民の三大義務の1つに「教育の義務」があります。子女に教育を受けさせるのは保護者の責務であり、それが家庭の仕事や介護で守られていない状況になっていればヤングケアラーと考えてよいです。
連絡を絶やさず見守り 必要があれば支援先へつなぐ
ヤングケアラーを発見した際には、保護者への連絡は慎重になりましょう。先にも述べたように家庭の問題であり、学校側が入り込みすぎるとプライバシーの侵害にもなりかねません。子ども自身が無理やり強制されているのではなく、「家族のために・みんなのために」と思ってやっているのであれば尊重しなければいけない部分もあります。
学校や教員は、その子の考えを尊重しつつ、連絡をこまめにとって伴走する意識をもちましょう。
そしてもう1つ、なぜヤングケアラー状態になっているのか冷静に見ることも大切です。
①家庭の金銭的問題のため
⇒金銭問題を解決するため就学支援や子育て支援の関係機関に連絡を取る
②介護を必要とする家族がいるため
⇒介護サービスを提供する福祉課へコンタクトを取る
ヤングケアラー状態になっている家庭の中には、公的な支援策や周囲から提供してもらうことができるサービスがあることを知らないケースもあります。こうした情報を提供して、ヤングケアラー状態になっている家庭ごと支援する方法もあります。ただし、この方法は行政を横に串刺すことになり、学校単独で行うのは大変です。そこで、各自治体にはスクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラー(SC)といった行政の壁を越えて活動している人に子どもの置かれている現状を話し、周囲からサポートする方法がないかを模索するきっかけづくりをするのも学校の役割になります。
教員ができることをやろう
ヤングケアラーの数は、全国で4万人を超えていると言われています。30万人近い不登校の児童生徒数に比べれば少ないですが、はっきりと教員の眼に見えてこないのがヤングケアラーの怖いところです。そして、本来であれば子どものもっている力を出すことができるのに、環境のせいで発揮できないのは悲しい話ですよね。
教員ができることはきっかけを発見したり、外部へつないだりということぐらいですが、早く発見すれば子どもの可能性を潰す前に輝かせることができます。普段から「困っている様子はないかな」、「疲れやストレスを抱えていないかな」、そんな目で子どもを見ていると、些細なことに気づくことができる教員になることができます。