ICT活用は「主体的な学び」を引き出せるの?(前編)

「最近の子どもたちは主体性がない」「もっと主体的に行動するべき」と多くの教員が口にしますが、この主体性とはいったいどのようなものなのでしょうか。

新しい学習指導要領では、これまで以上に、ICTが大きな役割を果たすと期待されています。授業におけるICTの活用は、子どもの主体性にどのように影響するのでしょうか。

今回は、前編・後編に分けて、Next GIGAへ向け主体性の育成とGIGAについて考えていきたいと思います。

ライター

安部慎也先生

・青森県公立中学校に19年勤務

・指導主事を経て、現在は学校現場に復帰

・「独立総合教育政策研究所」の所長を務める

なぜ「主体性」という言葉がクローズアップ?

近年、主体性という言葉が学校や教育本でクローズアップされるようになった背景として次の2つの点が挙げられるでしょう。

1つ目の理由には、コロナ禍でさらに拡がりをみせたネット依存が関係しています。インターネットやスマートフォンは、便利なツールではありますが、コロナ禍での利用時間の増加が問題視されています。スマートフォンを開けば、たくさんの情報が簡単に得ることができ、次々と新しい情報が更新されています。さらに、SNSでは著名人だけではなく、一般の人も自分で作った動画や記事を匿名で世の中に発信できるようになったため、たくさんの情報が氾濫し、その情報が嘘か誠か、見極める力が必要と言われています。教育とは、「未来の自分自身づくり」であるからこそ、目標や目的をもって、自分自身に問いかけながら自分で行動する力「主体性」が求められています。つまり、現代社会では、予想だにできない目まぐるしい変化が起こっていることが理由として挙げられるわけです。

2つ目の理由は、学習指導要領に「主体的に学習に取り組む態度」が評価観点として設定されたことです。これは「関心・意欲・態度」という観点と、どこが違うのでしょうか。現行の観点で重視されているキーワードは、「自己調整」と「粘り強さ」です。いわゆる課題や宿題の提出回数や授業中の挙手の回数ではないということがポイントとなります。これらのポイントに沿って、以下「主体性×ICT」について考えていきましょう。

あなたが気づいていないだけ?「主体性」を見過ごしていませんか?

今、目の前にいる1人の子どもを思い浮かべてみてください。その子が主体的になっている姿とは一体どのような姿でしょうか。授業中積極的に発言している様子でしょうか。掃除を一生懸命している様子でしょうか。どちらも主体性の一部の姿と言えるのではないでしょうか。

では、逆に主体性が見られない姿はどのような姿でしょうか。授業中の話し合いで発言をしない様子でしょうか。授業に関係のないことをやっている様子でしょうか。これらに近いことを思い浮かべた際に気を付けなければならないのは、その姿が本当に主体性ではないと言えるのかという点です。

一見自分勝手に行っていることでも、自ら学ぼうという姿であったり、一瞬の気の緩み程度のことかもしれません。人が集中できる時間は限られています。生きている時間全て積極的に行動していることが主体性であるとは言えないでしょう。発言しない子どもは、発言するというハードルが高いだけで、授業の問いに対して一生懸命考えている可能性もあります。タブレットで今の授業に関係のないことをやっている子どもは、検索結果で調べていることのほかに別の情報が入ってきて、ついでに調べたのかもしれません。

学校や学級の約束、きまりは大切な部分もありますが、それだけを意識してしまうと、子ども達の行動の本質が見えなくなることもあります。約束やきまりでがちがちに子どもたちを指導するよりも、その子が主体性を発揮しているところを見取り、認めてみてほしいのです。きっと認めたその瞬間から、その子と先生との信頼関係が生まれ、約束やきまりでひっきりなしに指導しなくても、お互いに安心できるような関係から指導の頻度が減少し、少し声掛けをするくらいで十分になっていくことでしょう。

子どもたちに自由試行させ、自由思考もさせないICT活用に喝を!

ガチガチに指導してしまいがちだと、ICTの授業活用でも同じようなことが起こります。「タブレットは先生が指示するまで使ってはいけない」、「アプリケーションは授業者が許可したものしか使ってはいけない」、「その授業や探究活動には、このアプリケーションしか使ってはいけない」そのような考えやきまりを設けることが授業づくりに取り入れられていないでしょうか。

アプリケーションなどは、日々アップデートされ、以前のものからどんどん変わっていきます。新しいアプリケーションが出る一方で、廃版になるものもあるのです。そもそもそれらを全て掌握して大人が選択し、指導することはこれからの世の中では不可能でしょう。子ども達は大人よりも簡単にICT機器に順応しています。

思考のツールというものが教育現場で平成30年から令和3年頃をピークに流行しました。もちろん思考のツールを用いれば思考が促されるところもあるでしょう。しかし、現場で起こったのは、思考のツールさえ使えば実践の成果が生まれるという考えに陥ってしまったことです。思考のツールを与え、そのように思考させる授業となれば、本当に思考力は育つのでしょうか。思考のツールをどう使うのかを学び、日常生活で役立つのでしょうか。それよりも「何のために思考のツールを使うのか」が大切でしょう。さらに言えば、目的に合わなければ使う必要があるのか自己判断し、思考のツールを捨て去ることも大切なことでしょう。つまり、思考のツールをICT機器と捉えると見えてくるところがあるのです。使う、使わない、何を、どのように…決定権を子どもたちに委ねなければ、本来目指している学びとはならないでしょう。授業づくりで大切なのはと問われたら、「子どもにいかに気付かせるか」「自己決定の場面を設けるか」、この2つをまず答えます。ご自身の授業で、子どもたちは自分自身に問いかけながら進む主体性をICTを活用する場面で発揮できているといえるでしょうか。

「使わなかったらどんな展開になるのか」を想像しよう

皆さんは、調べたいものがあったときにどのように調べますか。おそらく、スマホで検索して、知りたい情報を調べると思います。恐らく自然に行っていることでしょうが、もしスマホがないという状況であればどうしていたか想像してください。図書館まで行って、本を借りて調べますか。それとも、知っていそうな人に電話をして聞くでしょうか。かなり不便な行動をする必要があります。

他にも、行きたい場所までの道がわからないとき、きっとスマホのマップやナビで調べるでしょう。しかしこれも、この機能・手段がないとなると、近くの交番まで、道を聞きながら行先までたどり着かないといけないかもしれません。「使いたいと思ったときに、使うことができない」というのは、このように不便さを感じることでしょう。逆に考えると、使いたいと思ったときにいつでも、自然に使える、ということが、ICT活用では大切です。授業に置き換えて考えてみると、授業者は常に「この場面で一人一台端末を使い、子どもたちの意見を集約しなかったら、本時の授業のねらいの達成に、どう影響するであろう。」と自問自答してみることが必要ではないでしょうか。授業構想の段階でICT端末をどの場面で、どのように使うことで、子どもにとって学習問題や学習課題の解決に最も効果的かを常に熟考する必要があります。つまり、換言すれば、ICTの活用が逆に子どもを混乱に陥らせていないかどうか、教室に向かう途中、歩きながらでも点検してみてはいかがでしょうか。子どもたちが「使いたい」「使うことによってどのような便利さがあるか」という必要性を自覚し、認知してICT端末を使うからこそ、学習効果を高めてくれる文房具となりうるのです。

実は子どもたちみんなが持ってる「主体性」

上述したように、私たちは調べたいものがあったときに、日常生活で自然にICTを活用をしています。そしてこれは、誰かに何かを課されて、仕方なく使っているわけではないことです。自分で切実に調べてみたいことが内在するからこそ、主体的に使っていると言えるでしょう。大人も子どもも、誰でも皆、主体性をもっています。ただその主体性を発揮する場面やタイミングは、年齢は同じでも子どもたちによって様々なはず。主体性はすべての子どもたちのこころの引き出しの中に潜んでいることでしょう。この目に見えない能力(非認知能力)を引き出しから出してあげること、できれば子ども自身が引き出しを開け、課題解決に向かっていくことが、授業の肝と言えるでしょう。「授業がうまくいかない」「なんとなく自分の授業に活気がない」と嘆いている先生方は、子どものもっている主体性のベクトルが、授業者の意図する方向に向いていない場合が往々にしてあります。授業の成功の鍵は、子どもたちの主体性を「ふと、不意に」授業者の意図へ振り向かせることです。

安部先生のご経歴と主な活動

青森県において、公立中学校で理科教員として19年勤務。その後、教育委員会事務局指導課で指導主事を経て、現在は青森市公立中学校の学校現場に復帰。同時に、昨年全国の先生方及び文部科学省、自治体教委の教育長様はじめ、教育有識者の皆様のお力添えを賜り、任意団体として独立総合教育政策研究所を設立しました。全国の教育関係有識者の方による最新の教育動向や若い先生の教育実践などの講演・発表を通した、ディスカッションを週末に行う「学校・教育UPDATE Group」(1月20日時点811名)を企画・運営しております。また、機関誌「学びと教育」を毎月発刊し、最近の教育トピックや教育施策及び諸学力等の調査結果について、所員で分析し、提言を行っております。若い先生方や教育実習へ行かれる先生方が書き込みながら、授業づくりや児童生徒理解に役立つ「せんせいのためのワークシート」を近日頒布予定です。

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