文部科学省は、2021年4〜5月に公立小中学校・高等学校・特別支援学校の教員不足について、初めて全国規模での実態調査を行いました。
この記事では「どれくらい不足しているのか」「なぜ不足しているのか」「どのような対策をしているのか」の3点からわかりやすく解説します。
調査の要点を簡潔にまとめているので、学校教員・教員を目指す学生はぜひ参考にしてみてください。
始業日に全国2000人以上の教員が不足
文部科学省が2021年に行った「教師不足」に関する実態調査で、4月時点で全国2558人、5月時点で2056人の教員不足が明らかになりました。この数は、国や自治体が定めた教員数のおよそ0.3%です。
0.3%という割合だけ見ると低くも感じますが、学校種別・地域別のデータを見れば、これは決して低い数字ではないとわかります。
学校種別に見ると中学校の教員不足率が高い
学校種別のデータを見ると、とくに中学校・特別支援学校での教員不足が深刻です。中学校では、4月時点で全国の7%が教員不足となっています。これは小学校・高等学校を上回る割合です。2021年の実態調査の結果は、中学校のおよそ15校に1校が教員不足であり、全国各地に義務教育を適切に行えない状況があることを表しています。
4月(始業日)時点 | ||||
不足数 | 割合 | 教員不足がある学校数 | 割合 | |
小学校 | 1,218 | 0.32% | 937 | 4.9% |
中学校 | 868 | 0.4% | 649 | 7.0% |
高等学校 | 217 | 0.14% | 169 | 4.8% |
特別支援学校 | 255 | 0.32% | 142 | 13.1% |
5月時点 | ||||
不足数 | 割合 | 教員不足がある学校数 | 割合 | |
小学校 | 979 | 0.26% | 794 | 4.2% |
中学校 | 722 | 0.33% | 556 | 6.0% |
高等学校 | 159 | 0.1% | 121 | 3.5% |
特別支援学校 | 205 | 0.26% | 120 | 11.0% |
地域別に見ると全国7割以上が教員不足
地域別データを見ると、教員不足がある学校が0の地域もあれば、地域内の20%以上の学校が教員不足という地域もあります。
なかでも一番教員不足の学校が多いのは福岡市です。
なんと市内40%以上の学校で教員が足りていません。
不足数 | 不足学校数 | 不足数 | 不足学校数 | ||
東京都 | 0 | 0 | 福岡市 | 38人(1.62%) | 28校(40.6%) |
大阪市 | 0 | 0 | 埼玉県 | 87人(0.95%) | 76校(21.2%) |
秋田県 | 0 | 0 | 茨城県 | 59人(1.07%) | 56校(24.9%) |
表には挙げていないものの、神奈川県・福岡県・熊本県・長崎県も教員不足の学校が20%以上という深刻な状況にあります。
さらに4月時点で1人以上の教員不足がある地域を見ると、68地域中52地域、つまり75%以上の地域で教員が不足しています。年度の変わり目で教員や講師を集めやすい4月でも、全国で教員不足が起こっていることがわかります。
教員不足の原因4つ
では、ここまで深刻な教員不足はなぜ起こってしまったのでしょうか。ここでは4つ理由を挙げて解説していきます。
- 1校あたりに必要な教員数が増加
- 講師のなり手が減少
- 産休・育休を取る教員が増加
- 休職・退職する教員が全国5000人以上
①1校あたりに必要な教員数が増加
必要な教員数が増加した主な要因は、特別支援学級数の増加です。
文部科学省の発表によると、2017年時点で小中学校の特別支援学級に通う児童は約30万人、通級による指導が必要な児童は約13.5万人です。2010年ごろと比較するとこの数は約2倍に増加しています。
そして通常学級が35〜40人につき1人の教員配置に対し、特別支援学級や通級は8〜13人につき1人で、より多くの教員が必要です。つまり現在は、特別支援学級などの影響で10年前より1校あたりに必要な教員数が増加しています。
②講師のなり手が減少
2020年度の教員採用試験の倍率は、小学校・中学校・高等学校・全体の4項目すべてにおいて前年度より低下しています。
この倍率低下は、受験者数の減少と採用数の増加が要因です。そしてこの状態が続くと、主に採用試験の不合格者が登録する講師名簿の数はどんどん少なくなります。これまで教員の代わりを担ってきた講師のなり手が減少することで、臨時の人員補充ができず教員不足が加速しているのです。
③産休・育休を取る教員が増加
各教育委員会に教員不足の原因を調査したアンケートによると、約78%が「産休・育休取得者数が見込みより増加」と回答しています。これは、教員の年齢層が全体的に若くなったことが要因です。
団塊世代の多くが引退した影響で、20〜30代の教員採用数は増加しています。若い世代の教員が増えたことで、結婚・出産・育児を行う人が相対的に増加したのでしょう。
④休職・退職する教員が全国5000人以上
各教育委員会への「教員不足の原因」アンケートでは、病休者数・退職者数の増加が多く回答されています。文部科学省の発表によると、精神疾患による病休者数は2000年代から増加して2009年に過去最高の5,458人に到達し、現在は5000人程度で高止まり状態です。以前より厳しい教員不足にもかかわらず、病休者数はほとんど変わっていません。悲しいことに、2018年には5,212人と微増しています。
教員不足解決への取り組み3つ
教員不足は、子どもたちだけでなく教員にとっても深刻な問題です。今すぐに解決すべき教員不足問題に対して、文部科学省や各自治体の教育委員会はどのような取り組みを行っているのでしょうか。ここでは3つの取り組みを紹介します。
- 人材バンクなどを活用した講師登録数の増加
- 教員採用試験の年齢制限を緩和・撤廃
- 大学と連携してインターン・特別選考を実施
①人材バンクなどを活用した講師登録数の増加
各自治体では独自に講師登録のPR活動を行って登録者数の増加を目指しています。教育委員会ごとに講師募集のwebページが作成されていて、講師登録の申し込み手続きも可能です。
また独自の人材バンクを設置し、講師を募集する学校と講師希望者をつなげるサービスを行う自治体もあります。たとえば愛知県の『教員人材銀行』や、静岡県内の『静岡県教職員人材バンク』が有名です。
こうしたシステムは教員免許を持つ人だけでなく、専門分野の知識経験が豊富な人材も利用できます。専門分野で活躍してきた人材が学校現場に入ることで、教育内容の多様化も期待できますね。
②教員採用試験の年齢制限を緩和・撤廃
近年、教員採用試験の年齢制限を緩和・撤廃する自治体が増えています。2018年度には「制限なし」が32自治体に増加し、年齢制限も一番低いのが36〜40歳で適用が9自治体のみと大幅に緩和されました。年齢制限の撤廃・緩和が進んだことで、一度教職を辞めて30代・40代になった人でもまた採用試験が受けられます。
(文科省「平成30年度公立学校教員採用選考試験の実施方法について」第8表 ―1)
年齢制限を緩和・撤廃する自治体が年々増加する一方で、民間企業からの転職ルートである特別免許状や教員資格認定試験などの制度も整備されてきています。これらを活用すれば、大学で教員免許を取得していない社会人の転職も可能です。
③大学と連携してインターン・特別選考を実施
大学では、自治体と連携して教職課程を履修している学生のインターンシップやボランティア事業を実施しています。実際に教育現場を体験して教員としてのビジョンを具体的に描いてもらうのがねらいです。
また「大学推薦特別選考」を設けているところもあります。特別選考は、次年度からその自治体の教員として働くこと・大学からの推薦を受けていることを条件に一次試験が免除になる制度です。大学と教育委員会で協力し、教員免許を取得した学生がより多く教員になるよう対策しています。
教員不足は全国各地で起きている深刻な問題
さまざまな調査内容から、教員不足が全国7割以上の地域で起こっている深刻な問題であることが明らかになりました。
教員不足の原因は、必要な教員数が増加する一方で若者の教員離れが進んでいること、過酷な職場で体調を崩して退職する教員が多いことなどが挙げられます。
こうした原因を一つひとつ解決していかなければ、今後日本の教育現場はより厳しい状況に追い込まれていくでしょう。国や各自治体にはさらなる対策の強化が求められています。