「生徒指導」と聞くと、問題行動への対応を真っ先に思い浮かべるのではないでしょうか。実は、生徒指導についての指針である「生徒指導提要」(令和4年改訂)には、
「生徒指導とは、学校教育の目的である、『児童生徒が、社会の中で自分らしくいきることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える意図でなされる教職員の働きかけ』の総称」(改訂「生徒指導提要」令和4年12月)と書かれています。
私たち教員は、この定義をどのように解釈し、日々子どもたちへどのようにアプローチすればよいのでしょうか。
今回は、前編・後編に分けて、生徒指導の4つの機能(「自己存在感の享受」「共感的な人間関係の育成」「自己決定の場の提供」「安心・安全な風土の育成」)を軸に、生徒理解と教育相談の適切なあり方を考えながら、本物の生徒指導力を高めていくポイントについて考えていきます。
令和4年12月の「文部科学省 生徒指導提要」が改訂により、「生徒指導の3機能」は「生徒指導の4つのポイント」へ変更となりました。
<生徒指導の4つのポイント>
①自己存在感の感受
②共感的な人間関係の育成
③自己決定の場の提供
④ 安全・安心な風土の醸成
ライター
安部慎也先生
・青森県公立中学校に19年勤務
・指導主事を経て、現在は学校現場に復帰
・「独立総合教育政策研究所」の所長を務める
生徒指導はいつ行う?
生徒指導は、どこでするか決まっている訳ではなく、すべての教育活動を通じて行います。例えば、廊下を走る子どもを見かけた教員は「廊下を走ってはいけません」と注意をすることでしょう。
この時にポイントとなるのが、生徒指導の目的です。
「生徒指導は、児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支えることを目的とする。」
と生徒指導提要に記されている通り、自分で自己の思いや状態に気づき「何をしたいのか」「どうすべきか」自分に働きかけられるように支えることが生徒指導であり、教員の役割です。
それでは、子どもたちが主体的に問題や課題を見つけ、目標を選択・設定し、達成するためには何をすれば良いのでしょうか。
まずは教育相談の名人になろう
生徒指導には、一人一人の子どもへの理解が欠かせません。そこで、私たち教員に必要なことは、子どもたちの話をしっかり受け止め、まずは寄り添うことです。
教育相談を行う際、カウンセリングやコーチングなど様々な技法がありますが、このどれにも共通することは、子どもが本音を語れることを目的としていることです。これを実現するためには、教員自らの自己開示が必要不可欠となります。教員自らが自分のことを語ることで、生徒も自己開示しやすくなります。
それだけでなく傾聴の姿勢を続け、ひたすら聴き続けることも重要です。教員が途中で意見や考えを差し挟んだり、生徒の意見を否定したり修正することは、教育相談においてはNGとなります。
安部先生からのワンポイントアドバイス
子どもが話を一通り終えたら、「5W1H」を用いて主訴を端的に要約して確認をしましょう!
例えば、生徒「AとBで悩んでいます。」教員「そうなんだ、それはいつ(when)からかな?」、「そう思ったきっかけは、どこ(where)の場面だったと思う?」というような流れで双方向の対話にもっていくことが、教育相談の鉄則です。
実は、「相談」と言われるもののほぼ7割は、すでに相談前から自分の中に内在した「答え」をもっていると言われています。教員は、その考えに自信を付加してあげることが相談者たる役目になることでしょう。教育相談とは、個々の内面の変容を見取っていくという一面もあります。また、複数の教職員による多角的な視点での観察も必要となります。
そうは言っても、子どもや保護者が教員に対して信頼感を抱けていないと深い理解は難しくなります。上手な関係づくりが鍵です。教員から子どもに自己開示をしたり保護者に日々の様子を伝えたりすることによって安心と信頼による関係性が生まれます。
相手を理解することは、まず自分を知ってもらうことから始まります。そして、まずは生徒を無条件に信じることから教育相談は有効に機能していくことでしょう。
授業における生徒指導の誤解
授業における生徒指導の内容として次のようなことを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
・背筋を伸ばして姿勢良く話を聞けるように指導する。
・挙手をするときは、肘を伸ばしてまっすぐ挙げる。
いわゆる授業規律(学習規律)です。果たしてこのようなルールを守ることによって規律が整った学級の子どもたちはみんな自己指導能力が高いと言えるのでしょうか。規則・決まりを守るよう、他社から指導されるのではなく、自ら問題を発見し、解決に向かうための行動を実践できる力が自己指導能力です。
このように自分の行動を自分で決める場面が授業の中であるでしょうか。選択、決定する場面としては次のような場面が考えられます。
・話し合う相手を選択する
・取り組む場面を選択する
・取り組む課題を選択する
自身の授業中または指導案を振り返ってみると、教員の提示・指示・発問によって、逆に子どもの自己決定の機会が失われていることに気づくことでしょう。
自己指導能力を身に付けさせるためには?
自己指導能力を身につけるには、子どもたちが主体的に問題や課題を見つけ、目標を選択・設定し、達成するために行動する経験の積み重ねが必要です。
あなたは子どもたちに気づく前に注意や声掛けをしてしまってはいませんか。
日々の教育活動の中で、自分で気づき自分で決定する場面をどれほど持つことができるでしょうか。「やらされる」「やらなければならない」と感じている子どもは多くいます。そこを自分で気づき自分で行動する力を高めるためには、自分で行動を決定し、信頼されているという実感が必要になります。
自己存在感を抱かせるためには?
学校生活のあらゆる場面で「自分は大切にされている存在」だと感じられることが大切です。また、当番活動や係活動などで行ったことを認め合う活動も「他者のために役立った」「他者を喜ばせることができた」という自己有用感が培われることにつながります。掲示物にコメントを付記してみたり、雑に貼られていないか確認したり、授業中の板書の中に発言した生徒のネームマグネットを貼ることも、自分の意見が反映されていることを示す技術の1つです。
後編は、3/10 20:00公開
今回は、生活指導を行うタイミングや自己指導力を身につけさせるためのポイントをご紹介しました。次回も引き続き、生徒指導の4つの機能を軸に生徒指導力向上のためのアドバイスをしていきます。後編でまたお会いしましょう。