力をつける宿題の出し方とは?夏休み前に要チェック!

多くの学校では7月下旬から夏休みに入ります。今から夏休みの過ごし方を計画している方も多いと思いますが、夏休みの課題も忘れてはいけません。今回は夏休みが始まる前に、教員が計画すべき夏休みの宿題の内容や出し方について解説します。

夏休みの間の過ごし方が2学期からの成績を変える

「夏は受験の天王山」と耳にしたことはありませんか。夏の苦しい時期に努力した者だけが合格できるという受験生へのメッセージです。しかし、夏休みの過ごし方で成績が大きく変わるのは受験生だけではありません。受験生でなくとも長期の休みを有効に活用できれば、2学期からの成績も大きく変化します。

宿題は学習習慣を途絶えさせないために必要なもの

普段の子どもたちの生活は、朝起きて学校に行き、夕方帰ってから宿題をして、というのが大枠の形です。これに追加される要素はそれぞれ異なりますが、学校での授業を中心とした生活を送っています。しかし、授業という要素がなくなると朝起きる必要もなくなるため、夜更かしや二度寝など生活リズムが大きく崩れることになります。勉強も大切ですが、成長期を健康に過ごしてもらうことは更に重要です。宿題を授業の代わりとすることで、子どもたちに夏休みの間も普段通りの生活を送ってもらうことができます

子どもたちの学習習慣は、普段であれば授業と宿題という一種の強制力がある存在によって保たれています。しかし、1ヶ月以上もの間授業が止まる夏休みに「とりあえず勉強をしなさい」と指示しても、子どもたちは「何をすれば良いのか」分かりません。何をすれば良いのか分からない中で、魅力的なことが多々ある夏休みに勉強を頑張ろうというのは、目的と目標が明確な受験生だけです。教員の側から「何をすべきか」を提示するためにも夏の課題が必要です。

まとまった時間は探究活動に使える

探究活動は、子どもたちにとって未知の領域へと進む機会であると同時に、教員にとっては普段の授業では決して見られない子どもたちの能力を高めるまたとない機会です。例えば、読書感想文は多くの子どもにとって「面倒な宿題」の1つでしょう。しかし、「本を読み感想を書いて相手に伝える」ことは、新指導要綱にも盛り込まれている「実社会で役立つ知識や技能」であり、子どもたちの「表現力」を養うことにつながります。ただ、指導要綱に含まれても実際の授業で作文を書くタイミングは1年に何度もあるものではありません。まとまった時間が取れる夏休みは、普段の授業ではできないことをする絶好のタイミングです。

ただし、探求型の宿題を課すときには、ある程度の制限が必要です。子どもが「自分自身」で興味関心のある物事に問を立て調べていくのが、探求型の課題の本来の流れですが、全てを自由にしてしまうと子どもたちは「そもそも問はどのように立てるのか」も分かっていないため、突拍子もないことをし始めるか、あるいは何から始めれば良いのか分からないため、全く動けないことになります。このような事態を防ぐためにも、教員側が事前にテーマを選定し、見本となる課題の結果と明確な評価ポイントを提示しましょう。

参考文献:平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介,https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm,平成29年3月,文部科学省初等中等教育局教育課程課, (参照2023-06-08)

参考文献:国語編 小学校指導要綱(平成29年告示),https://www.mext.go.jp/content/,平成29年7月,文部科学省初等中等教育局教育課程課,(参照2023-06-09)

参考文献:読書感想文コンクール公式サイト感想文Q&A ,https://dokusyokansoubun.jp/qa.html,公益社団法人全日本学校図書館審議会,(参照2023-06-09)

2学期からの子どものためになる!夏休みの宿題の出し方のポイント

ここからは実際に宿題を出すときに注意したいポイントを紹介します。単に宿題を出して終わりにするのではなく、2学期以降の子どもたちの成長を見据えて宿題を出すようにしましょう。

その1 夏季休暇中の課題は復習をメインに据える

夏休みの宿題は復習を中心にすると子どもにとって効果的です。特に、算数・数学は1学期で基本的な数の概念や計算方法などを学習し、2学期以降はそれらを踏まえた上で実際に活用した文章題などの単元へ進んでいきます。基本となる計算が疎かなままでは、どの単元でも答えを導くことができず、授業が分からないまま先へ先へと進んでいき、気が付いた時には「どこからできていないのか」が子ども本人も分からない状態となってしまいます。算数・数学に限らず、勉強は前学年・前学期からの積み重ねが重要です。子どもに「自分が分からない」箇所を発見してもらうためにも、授業が長期間ストップする夏休みの復習は効果的な勉強と言えます。

また、復習をメインにすることは教員の負担を減らす意味でも効果的です。復習ということは「すでに1度授業を行った単元」になるので、教員が解説する時間を取らなくて済みます。もし説明が必要になったとしても授業準備をしていれば、それを活用した解説でも十分に対応できるため、新しく準備する手間を省くことができます。

その2 教員同士で事前に課題量のバランスを取ること

夏休みは春休みや冬休みとは異なり、1か月以上の日数があります。この豊富な時間を利用すれば普段はできない家庭科や美術などの実技科目の宿題を課すことも可能です。しかし、5教科に加えて実技科目まで課すと子どもの負担は一気に増大します。特に、運動部は日中は部活動で普段よりも長時間の部活をすることが多くなるため、教員の想像以上に課題に充てられる時間は多くありません。無理な量の課題を出して終わらないまま2学期を迎えてしまえば、子どもたちには「宿題が終わらなかった」という挫折感を味わうことになり、勉強へのやる気を著しく損ないます。あれもこれもと課題としたい教員の気持ちは理解できますが、物理的に終わらない量を課して苦労するのは、結局、子どもと保護者です。課題の全体量は各科目を担当する教員で事前に話し合い、子どもが一人の力だけで、期間内に十分に完結できる量に留めておきましょう

また、科目同士の量のバランス調整も重要です。極端な例を挙げれば、国語のワークは100ページ程度あるのに、数学は1ページしかないというのは復習をメインに据える夏休みの課題として、勉強する科目のバランスが悪く子どもの成績にとって効果的とは言えません。「とにかく課題を出す」のではなく、事前に模試やテストの結果などから学年全体の弱点を探り、重点的にケアすべきところ、多少後回しでも良いところなどを見極めた上で、課題量のバランスを取りましょう。

その3 解答は事前配布がおすすめ

答え合わせがされていないワークを回収して、教員が丸付けをして返却することはひとクラスの人数を考えると、あまり現実的でない上に、子どもにとって適切な方法とは言えません。あくまでも夏休みの宿題の目的は、暗記や反復練習により1学期までの内容を定着させて、2学期以降の勉強のための素地をつくることです。2学期が始まってからワークを回収し、教員が採点して返却というプロセスをたどると、子どもたちは授業が始まっても自分が「できている」かどうかの判断もできず、不安を抱えたまま過ごすことになります。子どもたち自身が「自分のできない」を宿題をしたタイミングで発見できるように、解答は事前にワークと一緒の配布がおすすめです。

ただし、「解答」だけしかない解答では意味がありません。子どもが間違えても「どこで、なぜ間違えたのか」が分からなければ、結局、テストでも勘や「なんとなく」で答えて、当たったり間違えたりを繰り返し、安定した成績を取ることができません。解答と併せて解き方や考え方などの解説が掲載されたものを用意しましょう。

その4 アウトプットする機会を必ず用意する

成績を上げるためには、単に単語や語句を「覚えているだけ」ではなく、覚えたことを紙の上へスムーズにアウトプットできなければなりません。更に高い点数を取るためには、書き出すだけではなく覚えている知識の活用も求められます。普段であれば、日々の授業の中で子どもたちの宿題の出来栄えを確認し、理解度の確認を取っていることでしょう。しかし、限られた授業時間を全て復習に費やすのは現実的ではありません。1ヶ月間の課題内容をアウトプットするためにも、2学期の始まりにはテストを実施します。子どもの知識や技能を客観的に判断できる材料があれば、2学期の指導方針や授業の組み立ても変わってくるはずです。

また、テストの実施は子どもたちが宿題を乱雑に終わらせることを防ぐことも目的のひとつです。事前に解答を配布すれば、おそらく一部の子どもは解答を書き写して終わらせてくることは容易に想像できます。しかし、宿題の目的は知識を身に付け、その知識の活用法を体得することです。宿題を乱雑に終わらせたのでは、この目的が果たせません。「前学期までの内容の定着」という宿題の目的を正しく発信するためにも、テストの実施は必須と言えます。

その5 探求型の課題は無理をさせないこと

夏休みの宿題の定番ともいえる読書感想文や自由研究は、多くの宿題の中でも子どもが圧倒的に苦戦する課題と言えるでしょう。普段ならば子どもも分からないことを教員に質問して解決できますが、夏休みは教員を頼れないため専ら保護者のサポートが必要です。結果として、探究課題は子どもだけではなく、保護者にとっても負担になります。特に、ICTを活用する課題は家庭内の状況に左右されやすく、一律に宿題を課すと完成はおろか実施さえ覚束ない子どもがいる可能性は否定できません。「たかが」夏休みの宿題のためにパソコンなどの購入を強制するのは非現実的なため、子どもの力ではどうしようもない不平等を避けるためにも、割り切ってこれらの課題を出さないということも教員が取るべき選択肢の1つです。

もし、探求型の課題を課すのであれば、全員が実施できる内容や方法であること、子どもが自分だけで完結できること、事前に評価基準を明確にしておくことの3つが必要になります。「すべてが自由」というのは聞こえは良いですが、子どもからすると目的も指針もなく放り出されるため、「何をすればよいのか」の判断ができず不安で仕方がありません。ある程度、教員の側で規則を設けておくことで子どもの側も筋道を立てられるので、目的に向かった行動を取りやすくなります。また、夏休み明けの評価の際には、どのような成果物であったとしても、子どもが自分の力でやり切った努力を教員はまず認めてあげましょう。点数を付けるのはその後です。

参考文献:令和4年度青少年のインターネット利用環境実態調査,https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_torikumi/tyousa/r04/net-jittai/pdf-index.html,令和5年3月,内閣府,(参照2023-06-15)

宿題1つで子どもの成績は夏から劇的に上がる

昨今、教員の働き方改革や子どもの教育方針の転換などから、一部の学校では夏休みの宿題を廃止する動きも出ています。確かに勉強よりも体験活動や子どもたちの好きなことをやらせる方が、子どもたちのためになるという論調は理解できます。しかし、宿題の本当の目的は「分からない」を発見することです。分からないことを放置して次へと進んでも、先にはより分からないことが待ち構えています。長い休みは普段よりも復習に充てられる時間が多くなります。この時間を利用して2学期以降の「次」につながる宿題を課しましょう。

参考文献:みんなが忘れている「学校の宿題」の本当の目的,https://president.jp/articles/-/29905,令和1年9月18日,プレジデントオンライン,(参照2023-06-11)

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