12年ぶりの大改訂 生徒指導提要のポイントは?

令和4年12月、生徒指導に関する基本書である「生徒指導提要」が12年ぶりに改訂されました。今回の記事では、注目すべきポイントを紹介していきます。

生徒指導提要とは? 改訂版は何が違う?

生徒指導要領とは、生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について、時代の変化に即して網羅的にまとめた学校・教職員向けの基本書で、平成22年に初めて作られました。

改訂版は何が変わった?

今回が初めての改訂で、全13章で構成されています。生徒指導に対する基本的な考え方を示しているほか、現代の子どもたちに関わる様々な課題の現状や、それぞれの課題の未然防止・早期対応に向けた基本的な考え方について、旧版以上に細かく示されています。

それでは、今回大きく改訂された課題の一部を詳しく見ていきましょう。

校則(第3章より)

近年は「ブラック校則」と叫ばれることも多くなり、世の中が注目している課題の一つと言えるでしょう。校則の意義や位置付けについては、改定前から「児童生徒が健全な学校生活を送り、よりよく成長・発達していくために設けられるもの」「 各学校が教育目標を実現していく過程において、児童生徒の発達段階や学校、地域の状況、時代の変化等を踏まえて、校長により制定されるもの」とされてきました。

これを踏まえ、改訂版では「校則を守らせることばかりにこだわることなく、何のために設けたきまりであるのか、教職員がその背景や理由についても理解しつつ、児童生徒が自分事としてその意味を理解して自主的に校則を守るように指導していくことが重要」と指摘しています。

いじめ(第4章より)

改訂版は、旧版の完成後にできた「いじめ防止対策推進法(平成25年施行)」や、それに基づく「いじめの防止等のための基本的な方針(同年施行、平成29年改定)」を反映した内容となっています。いじめ問題が発生した際に学校が取るべき対応を説明しています。

「公平性・中立性をもった丁寧な調査を行うこと」「教職員間の情報共有を徹底すること」「自殺や不登校などの重大事態発生時は確実に教育委員会に報告すること」「児童生徒への未然防止教育を行うこと」「地域の各種機関や保護者らと連携し、社会総がかりで防止に努めること」といった、いじめに対する方針を示しています。

インターネット(第11章より)

SNSの利用が一般的になる中、飲食店等での迷惑行為を撮影した動画が出回るなど、若者のネットリテラシーが問題となっています。こうした問題を防ぐためには、学校での生徒指導により一層力を入れなくてはなりません。

改訂版では、インターネット問題の指導・啓発における留意点として、「匿名での誹謗中傷」「情報が一気に出回る拡散性」「一度発信された情報を削除できない、いわゆる『デジタルタトゥー』」などが挙げられています。このようなインターネット特有の危険性について教育する必要性が示されています。

性的マイノリティ(第12章より)

性に関する課題としてはこれまで、性犯罪・性暴力などの性的被害や、性行動による性感染症の罹患などについては挙げられてきましたが、LGBT等の「性的マイノリティ」への対応については今回の改訂によって、初めて触れられています。

教員自身が性的マイノリティの当事者への理解を深めることはもちろん、児童生徒たちに「性的指向などを理由とした差別が不当である」という人権意識を、日々の教育活動を通じて醸成することが求められています。当事者が秘匿しておきたい場合があることも踏まえつつ、服装や髪型、更衣室利用、呼称などの配慮することが大切です。

生徒指導の新しい実践モデル 「重層的支援構造」

上記のような個別課題に対応していくためには、生徒指導に対する共通認識を教員間で形成し、組織的かつ計画的に指導を実践しなければなりません。

改訂版では新たに、生徒指導の新しい実践モデルである、「重層的支援構造」についても盛り込まれています。生徒指導の構造を視覚的に捉えやすいことから、生徒指導に対する教員間の共通認識を形成し、組織的かつ計画的な指導を実現させることが期待されています。

真ん中の4層構造については、上部ほど課題性が高い(喫緊の課題)ということを表しています。生徒指導の内容はそれぞれ、以下の通りです。

  • 困難課題対応的生徒指導・・・特定の児童生徒に対して、学校だけでなく関係機関などが協力をして行う指導。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、警察機関などが関わる指導が位置する。
  • 課題予防的生徒指導(課題早期発見対応)・・・生徒指導上の課題の予兆が見られた児童生徒に対して行う指導。教育相談や教育相談アンケート、保護者会などが位置する。
  • 課題予防的生徒指導(課題未然防止教育)・・・全ての児童生徒を対象として生徒指導上の課題に対して未然防止を狙った教育の実施。道徳教育、情報モラル教育、性教育などが位置する。
  • 発達支持的生徒指導・・・全ての児童生徒を対象にして行われる生徒指導で学校の指導方針を示すもの。基本的な校則や学校ルールを守らせる指導がこれに位置します。

また上記4つの指導は、課題に対応するタイミング(時間軸)によって以下の2つの軸に分類されます。

  • プロアクティブ生徒指導・・・積極的な先手型の指導。(発達支持的生徒指導や、未然防止教育が該当)
  • リアクティブ生徒指導・・・課題の予兆や発生を受けて行う、事後対応型の指導。(課題早期発見型対応と、困難課題対応的生徒指導が該当)

生徒指導はチームで対応

今回改訂された生徒指導提要を実現していくために欠かせないことは、教員が“ワンチーム”となって課題に対応することです。先ほど重層的支援構造について説明したように、生徒指導に対する共通認識を教員間で形成しておかなくてはなりません。

また、学級内トラブルが発生した際に、担任が一人で抱え込まず、管理職や同僚に相談することも大切です。ちょっとした異変であっても周囲の教員に「報告・連絡・相談」ができる職場環境を、管理職側から積極的に作っていく必要があります。

また、生徒指導における中心的な役職の教員(生徒指導主任、いじめ対策主任など)は、課題の未然防止に向けた校内研修を実施したり、日頃からスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーといった外部の人材と連携しておいたりすることが大切です。

生徒指導上の課題は、年々低年齢化し、より複雑なものになっています。表面化せずアンダーグランドでトラブルが進行しているケースもあります。特に若手教員は、学級の些細な異変を独断で放置せず、情報共有を心がけましょう。

時代ごとに変わる生徒指導

今回の改訂では、「いじめ」「ブラック校則」「ネットリテラシー」「ジェンダー」といった、現代社会ならではの課題について細かく指摘しています。

生徒指導は時代の流れによって変わっていきます。教員が変わらなければ、今の時代の子どもたちに正しい指導をすることはできません。教員も今回の改定を踏まえ、新しい生徒指導を行えるよう意識しましょう。

参考文献:www.mext.go.jp/content/20230220-mxt_jidou01-000024699-201-1.pdf,(令和4年12月),文部科学省,(参照2024-11-20)

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