若手教員必見!生徒指導力向上のためのポイント(後編)

後編の今回は、前回に引き続き、生徒指導の4つの機能(「自己存在感の享受」「共感的な人間関係の育成」「自己決定の場の提供」「安心・安全な風土の育成」)を軸に、生徒理解と教育相談の適切なあり方を考えながら、本物の生徒指導力を高めていくポイントについて考えていきます。

ライター

安部慎也先生

・青森県公立中学校に19年勤務

・指導主事を経て、現在は学校現場に復帰

・「独立総合教育政策研究所」の所長を務める

問題行動の裏面に隠れているものとは?

そもそも、子どもたちはなぜ問題行動を起こしてしまうのでしょうか。問題行動を起こす背景には、自分の存在が認められていない、自分の頑張りが他者に認められていないという思いがあると考えられています。

生徒自身が善行を行ったと思っても、それが教員や周囲の大人、級友たちに汲み取ってもらえないとき、つまりは、生徒の承認の欲求が満たされない状態です。この状態が継続すると、きまり、規則を守ることに意味を見いだせなくなり、問題行動に繋がってしまうこともあります。

自己決定をさせるコツとテクニック

生徒指導の課題の一つである自己指導能力を育んでいくためには、自己決定の経験の積み重ねが最も大切と言っても過言ではありません。

例えば、ある生徒が素行不良行為をしたとします。その生徒に対し、教員はアプローチ(指導)をすることになるでしょう。この時、ありがちな開口一番は「悪い行為だと思わないのか」「どうしてそんなことをしたんだ」と詰め寄る指導です。先述したように、問題行動の表れは承認欲求の不足が大きな原因の1つです。生徒は自分の不良行為について「悪いこと」「社会的に悪いこと」という認識は、少なからず持っています。このような指導の場面で最も大切なのは、この後自身がどうするかを自己決定させることです。ここまでは教員も心得ているのでしょうが、多くの場合、教員の指導の価値観に誘導するように自己決定を促す場面が観られます。あくまでも、その行為をしてしまった生徒が自分でどう反省すべきか、自分の気持ちをいつ、だれに、どんな手段で伝えるか、自分で決定させ自分で行動に移させることをサポートすることが生徒指導の役目と言えるでしょう。

学級担任はプロデューサーの意識を持とう

近頃では、不登校の生徒の原因の半数を占める無気力・無関心が問題になっています。無気力・無関心も同様に承認欲求の欠如が理由の1つです。運動会では毎年運動能力が高く足が早い生徒、合唱コンクールでは、歌がうまい生徒や声量がある生徒、授業では学力の高い生徒というように、学級で活躍できスポットライトが当たる生徒がいます。

しかしながら、年間を通して学校生活の中でスポットライトを浴びない生徒はいないでしょうか。「どうせ自分の出番なんてない」「自分には活躍の場がない」という思いが、無気力・無関心を引き起こすものです。教員とくに学級担任は、生徒全員が一人一人にスポットライトを浴びる場面を用意することで、生徒をプロデュースするという意識を計画的に持つことが大切ではないでしょうか。つまり、みんなが主役であり、だれもが「アカレンジャー」になれる場面を創り出してあげることです。

共感的人間関係づくりのコツとテクニック

人間は、自分の考えを否定されない関係性がないと、自分で行動を決定することができません。それはなぜかというと、自分の考えに自信を持つことができないからです。自信を持って自己決定するためには、否定されず、間違いを周囲から笑われない雰囲気が大切になります。まずは、教員が挑戦する姿、失敗する姿も見せることがおすすめです。そして、挑戦している人を認める声かけをたくさんしていきましょう。行動することのよさを認める雰囲気を広げることができるはずです。

生徒指導の内容は多岐に渡りますが、学校生活のきまりを守っていることを「当たり前」として捉えないことが大切です。例えば、時間の厳守、挨拶の励行、身だしなみへの気配りなど、教員サイドからはまさに「当たり前」の事でも、これらを継続的に遵守しようとしている生徒の姿を学級・学年で互いに認め合うことができ、互いに賞賛し合うことで共感的理解を深めることへとつながっていくことでしょう。

学級の安全・安心な風土の醸成のためのコツとテクニック

「こんなこと言ってもいいのだろうか」と不安な気持ちを抱えたままでは、教員や他の子どもから受けいれられそうなことしか言えなくなってしまいます。

このような状況で「自分が何をしたいのか」「自分はどうすべきか」気づいて自分に働きかけることができるでしょうか。自分が思ってことを発言しても否定されないという安心感があるからこそ「自分が何をしたいのか」「自分がどうすべきか」考えたことを行動にうつすことができます。「教育相談の名人」を目指すためのアドバイスとして挙げた、まずは教員から自己開示することが有効です。

個性や多様性を認め合うような子どもたちにするには

学級集団において、自分が大切な存在であることが実感できているからこそ、他者の個性や多様性を認めることができるものです。自分が大切にされている実感なくして他者を大切にできるでしょうか。自分の好きなものや得意なこと、苦手なことなどを受け入れてもらえるからこそ他者の個性も認め合うことができます。まずは、教員が一人ひとりの良さや得意なこと、苦手なことを理解して関わることが大切です。そして、生徒一人一人を大切にすることが集団を育てることにつながります。子ども自身が互いを理解し信頼した上で、集団としての目標に共に取り組むことが集団としての成長です。

指導することから生徒の発達段階に合った支援へ

生徒指導の4つのポイントを抑えることで、上述した「発達支援的生徒指導」が上手く機能します。何はともあれ子どもとの信頼関係の構築がしっかりしていれば問題行動をさせない抑止力となり、それが自己指導能力として機能していくのではないでしょうか。

生徒指導の考え方の基本は、「支える」ことです。前述した廊下を走ることへの注意ももちろん子どもに対して安全な行動をしてほしい、気づいてほしいという願いを持ってのことでしょう。しかし、相手の行動を無理やり変えるのではなく、自分で問題に気づき、自分自身に働きかける力を高めていくためにどう支えたらよいのかという視点が大切です。そして、「何度も言っているのに」という思いに駆られることもあるかとは思いますが、「自分が大事にされているからこそ自分を高めようと思える」という感情を育むことこそ子どもの発達を支える教員の役割なのではないでしょうか。

参考文献:生徒指導提要(令和4年12月改訂)

参考文献:「教室の心理的安全性」をつくるのは、ルールとリレーション諸富祥彦『教育研究』2022年4月号

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