性教育と何がちがうの?「生命の安全教育」とは

注目が集まる「生命の安全教育」

「性」に対する関心は、年々高まっています。性教育やジェンダーに関する書籍が多数発売され、インターネットやSNS、メディアでも話題になることが増えました。

子どもたちにとって「性」の話題が身近になった昨今では、性教育の必要性が問われています。日々、子どもたちの指導にあたる教員も「性」に関する教育の動向をチェックし、情報をアップデートする必要があります。今回は、文部科学省と内閣府が連携し作成した「生命(いのち)の安全教育」の内容について紹介したいと思います。

「生命の安全教育」=性犯罪・性暴力から身を守るための教育

2020年、内閣府より「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」が決定されました。これをふまえ、文部科学省が提唱したのが「生命の安全教育」です。2023年には、全国の小中高で導入できるよう推進しています。この取り組みは、子どもたちを性犯罪・性暴力の加害者・被害者・傍観者にしないことを大きな目的としています。そのために、生命を大切にする姿勢や自分や相手など1人ひとりを尊重する態度を養うことが必要だとしています。対象は、就学前の幼児〜大学生までと幅広く、発達段階に応じた指導が必要です。

なぜ今、「生命の安全教育」が必要なのか

近年、子どもを狙う性犯罪・性暴力の被害が増えています。以下のグラフは、警視庁が発表した児童ポルノ事犯の推移です。

出典:「なくそう、子供の性被害。.警視庁. (https://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/statistics/)」

また、近年では、スマホの使用年齢の若年化が進んでいます。中学生や高校生はもちろんのこと、小学生でも自由にインターネットやSNSを使える子が増えてきています。SNSが起因となって起きた性犯罪数も依然として高い数値のままです。顔も知らない相手と気軽にコミュニケーションがとれる、正しい情報とそうでない情報が混在している、そんな現代社会においては、子どもたちがいつ性犯罪・性暴力と出会ってもおかしくありません。「性」についての正しい知識を理解し、自分の身を守るスキルを身につける必要があるのです。

「生命の安全教育」その学習内容は?

性暴力・性犯罪は、長期にわたり、子どもたちの心身に大きな傷を残しかねない事案です。子どもたちが被害者・加害者・傍観者のいずれにもならないためには、どのような知識やスキルを身につけていくべきなのでしょうか。ここでは学校教育における「生命の安全教育」の学習内容を、従来の保健体育科を中心に行われていた性教育との違いやそれぞれの発達段階におけるねらいをベースに見ていきましょう。

性教育とは、どうちがう?

「生命の安全教育」は、性教育の一環です。これまでの学校教育では、保健体育科の学習を中心に、思春期に起こる男性・女性の体の変化、受精や妊娠、エイズをはじめとする性感染症などの学習内容を扱ってきました。人の体の仕組みやそれにまつわる自己の健康管理に特化した内容がメインであると言えます。それに加えて実施される「生命の安全教育」は、より性犯罪・性暴力の防止に重点を置いた内容です。従来の性教育よりも、相手意識・他者意識があるのが特徴です。ケーススタディでは、嫌なことをされた時の対処方法を学んだり、良好な関係を気づくための方法を考えたりします。また、年齢が上がるにつれ、デートDVやセクシュアルハラスメント、JKビジネスなど社会的課題になっている、性に関する具体的な内容が含まれていきます。

それぞれの発達段階でのねらいは?

「生命の安全教育」は、発達段階に応じた指導が必要不可欠である。発達段階によって「性」について身近な内容・起きうるトラブルやその要因が異なるからである。文部科学省が発行している「生命の安全教育指導の手引き」では、幼児期〜高校、特別支援教育など、学習者に合わせて、以下の指導のねらいを示している。

幼児期幼児の発達段階に応じて自分と相手の体を大切にできるようになっていく。
小学校 低・中
学年
自分と相手の体を大切にする態度を身に付けることができるようにする。また、性暴力の被害に遭ったとき等に、適切に対応する力を身に付けることができるようにする。
小学校 高学年自分と相手の心と体を大切にすることを理解し、よりよい人間関係を構築する態度を身に付けることができるようにする。また、性暴力の被害に遭ったとき等に、適切に対応する力を身に付けることができるようにする。
中学校性暴力に関する正しい知識を持ち、性暴力が起きないようにするための考え方・態度を身に付けることができるようにする。また、性暴力が起きたとき等に適切に対応する力を身に付けることができるようにする。
高校性暴力に関する現状を理解し、正しい知識を持つことができるようにする。また性暴力が起きないようにするために自ら考え行動しようとする態度や、性暴力が起きたとき等に適切に対応する力を身に付けることができるようにする。
特別支援教育障害の状態や特性及び発達の状態等に応じて、個別指導を受けた被害・加害児童生徒等が、性暴力について正しく理解し、適切に対応する力を身に付けることができるようにする。

このように、初期の段階は、自分の体について知り、その命の尊さを知ることで、他者も大切にできる心を養うことから始まります。年齢が上がるにつれ、より性被害・性暴力に対処できるよう具体的なねらいが設定されています。また、小学校高学年からはSNSの利用についてなどの指導も含まれており、現在の子どもたちの実態に即した内容が盛り込まれていることも特徴です。

参考文献:文部科学省,生命の安全教育指導の手引き,(参照2022−12−16)

子どもが被害にあった時には?

子どもを狙う性犯罪・性暴力の被害が増えている昨今。自分が関わる児童生徒が被害者になる可能性も大いにあります。教員として、子ども・保護者とどう接すればよいのでしょうか。また、どのような対応が適切でしょうか。心に傷を負った子どものケアには、教員の適切な初期対応と専門機関との連携がカギとなります。

まずは寄り添う姿勢を

大切な教え子に性犯罪・性暴力の被害について相談をされた場合、ついつい詳細に話を聞こうと、あれこれ聞き出したり、その時の状況を整理しがちです。性犯罪・性暴力などの心に深い傷を負ったような事案では、聞き取りの仕方にも注意が必要です。教師の聞き方1つで、事件のことを強く想起してしまったり、何度も話さなければならないことに苦痛を感じたりして、トラウマが深まってしまう可能性もあるのです。聞き取りの際には、場所にも配慮し、周囲の目が気にならない落ち着いて話せる場所を選びましょう。詳細を無理に聞き出そうとしないことや相手が威圧的に感じてしまうことがないように言葉を選ぶことが大切です。

組織としての対応が必要

子どもたちにとって身近な存在と言えば、担任が浮かびますが、性別・年齢の違いによって、「性」に関する相談をしづらい印象を抱く場合もあります。被害を受けた児童生徒が信頼でき、話しやすい教員が聞き取りや対応にあたるのが適切です。また、スクールカウンセラーと連携し複数で対応にあたることで、より専門的な視点で児童の心のケアができるようにしましょう。また、管理職にも、保護者対応や外部機関とのやりとりについて報告・相談をすることが必要です。保護者対応では、学校としての対応の姿勢・在り方が問われます。保護者が何を​​求めているか、子どもの心のケアには何が必要なのか、双方で綿密に連絡を取り合い、情報を共有することが重要です。

相談機関をチェック

専門機関と連携する際には、まず被害を受けた本人や保護者に、どこまで情報を開示してよいか確認をしましょう。専門機関には、警察や性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター、児童相談所などがあります。他にも、女性の人権ホットライン、法テラスなど被害状況に応じて相談・活用できる機関もあります。内閣府男女共同参画局ウェブサイトでは、ケースに応じた相談窓口一覧を紹介しています。子どもたちの発達段階・家庭状況・性に対する悩みの種別に応じて適切な専門機関を選び、早期解決・心のケアを図れるようにしましょう。

「生命の安全教育」の内容をチェックしてみましょう

今回は、文部科学省が主体となって推進している「生命の安全教育」について紹介しました。「性」についての考え方は、時代と共に変化しつつあります。多様化・複雑化する子どもたちを取り巻く性被害・トラブル。未然に防ぐためには、子どもたち自身が自分の身をしっかりと守れるよう、正しい知識・スキルを身につけることが必要です。「生命の安全教育」のホームページでは、指導に必要な資料や手引きダウンロードできます。一度目を通してみてはいかがでしょうか?

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