著作権とICT教育 学校教育における著作権について知っておこう!

近年のGIGAスクール構想の推進により、学校では一人一台端末を利用するのが当たり前になってきました。便利になった一方、インターネット上の著作権に関するトラブルも増加しています。

実は、著作権のトラブルは子どもだけでなく、教員が起こしてしまうこともあります。つい、先日もオンラインのイラストを著作権フリーのものと勘違いして利用し、著作者から訴えられてしまい、十数万円を支払ったという報道もありました。

このような問題は全国で起きており、ネット上の著作物を利用する際には特に注意を払う必要があります。

今回は、インターネット、特に学校で利用が進む「クラウド」を利用する際の著作権に特化して解説していきます。

ライター

emikyon

・元公立学校教員

・教育委員会にて勤務

・eduloライター歴2年

学校で著作物を使用できる条件とは?

補助教材の使い方や選定方法とは?オンライン授業での使用上の注意点を解説!では、補助教材を使用する際に気をつける著作権について詳しく解説しています。こちらも合わせてご覧ください。

著作権法には例外規定があり、「学校その他の教育機関における複製に関する例外(35条)」に定められています。ここでは、

①授業の教材として使う 

かつ

②営利を目的としない教育機関であること

③授業を担当する教員やその授業を受ける児童生徒がコピーすること

④本人(教員または、児童生徒)の授業で使用すること

⑤既に公表された著作物であること

⑥その著作物の種類や用途から判断して、著作権者の利益を不当に害しないこと

と記されています。

教科書やその他の教材にも著作権はあります。さらに、テストやドリルなどの学校用教材には、教材出版社や問題作成者、図の制作者などの著作権や編集著作権等のさまざまな権利が含まれていることを知っておきましょう。

紙とデジタルではルールが違う

紙にコピーすることとパソコン内にコピーして保存すること、どちらも「コピー」という言葉を使っていますが、著作権でみると全く異なることを知っておく必要があります。

学校で言えば、「コピー可」と示された教材やドリルは、紙に印刷することは可能ですが、スキャンしてデジタルデータ(電子化)として補完するコピーは認められていません電子化にする場合、発行元への確認と承認が必要になります。

他にも「教育・授業での利用目的であれば複製可」と書かれているものでも、紙で印刷して子どもに配ることは想定していますが、電子化(デジタルデータ)して児童に配付することは想定されてはいません。紙と印刷で同じコピーという言葉でも配布することに関しては意味が違うことを理解しておきましょう。

電子化と何が違うのか

紙で印刷して配布する、電子化として児童生徒や保護者に配付する、この2つの大きな違いは「配布の範囲」です。紙で印刷して配布をする場合、基本的には受け取った人しか見ることができません。しかし、デジタルデータの場合、配布をすると二次利用され、多くの人が閲覧する可能性があります。仮に、登録者しか見ることができない設定になっていたとしても「インターネット上に公開された=不特定多数に見られる可能性」があると解釈されます。

また、クラウドコンピューティング(クラウド)と呼ばれているデータをインターネット上に保管することをした際にも、インターネット上に公開したことと同じ扱いとされる可能性があることも知っておきましょう。

つまり、複製物に「教育・授業での利用目的であれば複製可」と書いてあってもインターネット上にアップしてしまうと「教育・授業」という範囲を逸脱する可能性が出てきてしまうということです。

よく聞く事例としては、試験問題で使われる国語の文章や新聞記事です。国語の文章や新聞記事をテスト問題に使うことは問題ありません。しかし、試験問題をホームページに公開する場合は、文章や新聞記事の著作権問題が起きるため、許諾が必要になります。

そのため、ネット上に公開されている試験問題では国語の文章、社会の図表などは見れなくなっていることがよくあります。

電子化した文書の私的利用が問題に

GIGAスクール構想が進み、校務でもDX化が進められています。紙の資料を電子化して、同僚と共有している人も多いのではないでしょうか。実はこれにも注意が必要です。

教科書をオンライン授業で使ったり、教科書内の図表をまとめてプレゼンソフトで利用できたりすることも学校や自治体が「授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」にお金を払っているため、利用することができています。

教科書に掲載されていない資料や作品、業者が販売している教材ドリルや資料集は、教科書の範囲からは、逸脱しているため「SARTRAS」のお金を払っていたとしても、それぞれの出版社に問い合わせて「許諾」を取る必要があります。

 

データの共有がクラウドベースになり、ほとんどの自治体でクラウドのデータは、自分たちの関係職員と児童生徒しかアクセスすることができないようになっています。そのため、「閉ざされた空間のクラウドにデータをあげて共有するだけなら大丈夫」「外部からアクセスできないから問題ない」と考える人も多いかもしれません。しかしながら、閉ざされたクラウドの空間であっても厳密に言えば、インターネットを利用して送信していることと同じになるため注意が必要です。

紙よりもデジタルの方がルールが厳しい

著作権に関するルールは年々、厳しさを増しています。紙ベースで配布していたときには問題にならなかったことが、インターネットという全世界に配信されるサービスを利用することになったことで問題が起きてしまうからです。

前述の生徒への配布物で起きたトラブル以外にも著作権がらみで起きたトラブルを紹介します。

【実際にあった事例1】運動会を保護者向けにライブ配信したところ、競技中に流れていた音楽の著作権に触れて配信停止となった。

【実際にあった事例2】卒業式をライブ配信したところ、入場時の音楽が著作権に引っかかり配信停止となった。

【実際にあった事例3】教員がアニメキャラクターを用いたイラストを背面黒板に使っていたところ、背面黒板を生徒が学校ウェブページにアップし訴えられてしまった。

これらのトラブルは実際に学校現場で起きているものです。

授業のライブ配信や児童生徒による学校ウェブページの更新は、GIGAスクール構想が始まった中で生まれた活動の1つです。教員が子どもたちのために、子どもたちが主体的な活動としてやっていることがルール違反に当たることを自覚せずにやってしまっている実情があります。

こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、インターネットに関わる著作権について自分自身でしっかり理解をして、子どもたちにも教えておきましょう。

訴えられてしまうと個人で賠償責任を負う可能性もある

著作権違反の場合、最悪の場合は、賠償金を支払うことになります。賠償金に対する判断は、個々の事例によって異なりますが、事例として取り上げたオンラインのイラストフリー素材を間違えて配信した事例では、最終的に個人(作成した教員)が賠償金を支払ったケースもありました。

学校からの配布物は、校内で起案を回し学校長の決裁を受けてから配布することが一般的ですが、もしも、教員一人の勝手な判断でのトラブルになると前述のような個人賠償になる可能性がある危険性を知っておきましょう。学校としても、個人に責任が全ていかないようにするため、配布物のチェックだけでなく、配布方法も合わせて確認することが大切です。

教育目的であっても許されない事例があることを知っておこう

著作権に関しては「教育目的であればある程度許される」という考えが教員の中にあったのは事実です。しかし、これは「教育目的」で「利用者が限定されている」というのが前提です。インターネットやクラウドを利用するのは、例え利用者が限定されていたとしても紙で配布するのとは意味合いが違うことを教員も管理職も知っておかなければいけません

参考文献:朝日新聞デジタル,https://www.asahi.com/articles/ASQCY7SMXQCYPTLC00B.html,(参照 2024-12-6)

参考文献:学校における教育活動と著作権,文化庁

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93874501_01.pdf,(参照 2024-12-6)

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