あなたの子ども時代、毎年4月に学級目標を決めていた記憶がありませんか。当たり前に決めていた学級目標ですが、実は学級運営に影響を与える大切なものです。学級目標を決める意義を理解して取り組めば、子どもの向いている方向をそろえられるため、学級開きがスムーズになり、話し合いや発言がしやすいクラスとしてスタートできるでしょう。
そこで本記事では、学級目標の決め方を具体的に紹介するとともに、学級目標を形だけのものにせず、子どもと共有可能にするためのポイントもお伝えします。
そもそも学級目標とは?
学級目標とは、学校の教育目標や学習指導要領にもとづいて設定され、教員と子どもがめざすべき方向を共有するためのものです。内容や取り扱いについては、学習指導要領で明確にルールが規定されているわけではありませんが、以下のような記述が見られます。
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説「特別活動編」より(※1)
学級活動の内容(3)一人一人のキャリア形成と自己実現 の ア 現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度の形成 において「児童の思いや保護者の願い,教師の思いを盛り込んだ学級目標の実現を目指し,児童一人一人がこれからの学習への取り組み方や生活の仕方などについて意思決定をする内容も考えられる。」と記述されている。
中学校学習指導要領(平成29年告示)解説「特別活動編」より(※2)
学級活動の内容(1)学級や学校における生活づくりへの参画 において「生徒が話し合って決めた学級の目標を踏まえ,それを実現するために必要な組織づくりや,(中略)各活動の振り返りや改善についての話合いなどの充実が考えられる。」と記述されている。
以上のような記述から、自己実現や生活集団での成長のためには、学級目標を決めて活用することが役立つとわかります。
また公的な意味だけではなく、生徒指導やホームルームで使うことで、学級運営でも役立てられるのが学級目標の良い点です。
学級目標を振り返ることで、子どもたちも基本に立ち返り、課題を認識することができます。筆者はクラスで問題が起きた際、学級会議で学級目標の振り返りを行います。子どもたちは、どのような気持ちでこのクラスをスタートさせたか立ち返ることができ、行動が改善されました。学級目標があることにより必要なときに子どもの気持ちを引き締めることが可能です。
※1 文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」
「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説「特別活動編」 p.60
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/13/1387017_014.pdf
※2 文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」
「中学校学習指導要領(平成29年告示)「特別活動編」p.48 中略は筆者による
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_013.pdf
学級目標の3つの決め方とメリット・デメリット
学級目標の決め方は、自治体や私立によって異なりますが、次の3つの決め方が考えられます。
- 教員が決めるケース
- 子どもだけで決めるケース
- 教員が途中で介入するケース
この3つのケースはいずれも間違った決め方ではありませんが、メリット・デメリットを理解して選ぶことが大切です。それぞれ見ていきましょう。
教員が決めるケース
教員があらかじめ学級目標を決めておき、4月に子どもと共有するケースです。筆者の経験上、強いリーダーシップをもつ教員が担任となった場合、よく見かける決め方でした。また、学年の会議で方向性を統一し、同じような目標にそろえようとするケースもあります。この場合の進め方は、大きなテーマ(キーワード)は学年で決まっており、細かい文言や副題を子どもで考えていくかたちです。
メリットとして、早い段階でクラス全員が同じ方向を向くことができます。共通の学級目標をもつことで、子どもたちの意識を統一しやすくなり、チームワークの向上が期待できるでしょう。また、目標が早く決められるため、目標達成にむけた計画を丁寧に立てることが可能です。目標は教員が決め、達成までの計画をそれぞれの子どもが考える流れは、主体性を高めることにもつながります。
デメリットは、子どもの個性が抑圧されてしまう可能性があることです。学級目標があらかじめ決まっているので、その目標に合わせて行動することが求められます。その結果、子どもたちは自分の関心がある言葉を盛り込めず、目標に対する意識が低下するかもしれません。
子どもだけで決めるケース
教員が介入せず、意見出しからまとめまで、全てを子どもだけで決めていくケースもあります。筆者の経験上、学級経営を得意とするベテラン教員が多く採用していたように思います。
メリットは、子どもの主体性を育むことができる点です。学級目標を子どもが全て決めることで、子どもたちは本当に達成したい目標を設定し、その目標に向かって主体的に学びを進めることができます。目標達成に向けた計画を立てるときも、自分たちのための目標であるため、意欲的に考えられるでしょう。また、教員への信頼につながる点もメリットと言えます。子どもは自分たちの意見を尊重してもらえたことで、教員に対してプラスの印象をもつ可能性が高いため、信頼構築の第一歩となります。
デメリットは、意見が割れてしまい、収拾がつかない状態になってしまう危険性があります。また主張が強い子どもの意見に周りが流されてしまった場合、結果的に一部の子どもだけが考えた目標となりかねません。ベテランの教員がこの方法を採用できるのは、このような意見が割れる事態に陥っても、丸く収めるスキルがあるからでしょう。
教員が途中で介入するケース
もっとも多い決め方が、途中まで子どもたちに考えさせ、まとめは教員が行うケースです。筆者自身も、この決め方で学級目標を決めてきました。
メリットは、子どもの主体性を生かしながら、決められた時間の中で決定まで終わらせられる点です。4月のこどもはこれからの学級生活に期待を抱いている子が多く、前向きに目標を考えようとしてくれます。その主体性を生かすことで、1年間の学級の雰囲気をよいものにできるでしょう。
デメリットとしては、時間がなくなってきた場合、目標決定まで教員が強引に引っ張ってしまう可能性があります。筆者自身、学級目標の決定を先延ばしにできず、強引に決めてしまって後味がよくないことがありました。あらかじめ合意形成のプロセスをイメージしておき、時間内で決定できるよう準備しておくことが重要です。
小・中学校の学級目標の作り方と例6つ
ここでは、小学校低学年から中学校まで使える学級目標の作り方を、難易度が低い順に6つ紹介します。これまで学級目標を決めた経験がない教員や初任の先生にとっては、4月のスタートでいきなり「学級目標を決めてください」と言われても、どのように進めれば良いか不安になるでしょう。さらに年度初めは忙しいため、急にはよいアイディアも浮かばないかもしれません。そのような時は、以下の例を参考にして決めてみてください。時間の節約になるとともに、子どもの主体性を育てるきっかけとなることが期待できます。
例1:教員やクラスの名前で作る
教員やクラスの名前を語呂合わせのように使い、学級目標を決める方法です。担任の名前がひらがなで8文字であれば、子どもを8グループに分けて考えさせる方法が考えられます。クラス名であれば、例えば「いちねんにくみ」の7文字で考えることが可能です。
担任の名前が「ゆうじ」であれば、
小学校低学年〜の例:
- ゆ:ゆうきをもってやってみよう
- う:うんと元気にあいさつしよう
- じ:じかんをしっかりまもろう
小学校高学年〜中学生の例:
- ゆ:友情を深めよう
- う:運動に励もう
- じ:自主的に動こう
このように教員の名前やクラス名を使えば、取り上げる文字を考える必要がないため、すぐに目標決めに取りかかることができます。
例2:漢字一字で作る
学級が目指す姿を漢字一字に集約し、学級目標とする方法です。毎年、年末に今年の漢字が発表されるため、子どもたちも決め方をイメージしやすいでしょう。
小学校低学年〜の例と意図:
- 力:自分の力を精一杯出し切ろう
- 和:互いに協力しあえるクラスを作ろう
- 伝:自分の考えを伝え合い、コミュニケーションを大切にしよう
- 学:学ぶ姿勢を大切にしよう
- 信:互いを信頼し、信念をもとう
- 意:目的意識をもち、努力しよう
小学校高学年〜中学生の例:
- 志:高い志をもち、夢や目標に向かって飛躍しよう
- 進:目標に向かって前進し、成長し続けよう
- 絆:絆を強め、支え合って一緒に学びあおう
- 努:目標達成のために努力を続けよう
- 誠:誠実で真摯な態度をもち、自分を成長させよう
以上のような案を各グループで考え、プレゼンを行った後に、投票で決める方法が考えられます。
例3:四字熟語やことわざから作る
小学校中学年以上になると四字熟語やことわざを学習するため、その知識を使って学級目標を作る方法もあるでしょう。以下に例を示します。
- 十人十色:他者の意見を尊重しよう
- 一石二鳥:あなたの努力がクラスの成長につながる
- 一期一会:人との出会いを大切にしよう
- 疾風迅雷:誰よりも早く動き、積極的に行動しよう
- 自己改革:自分の弱点を認め、改善していこう
- 山高ければ谷深し:高い目標をもち、苦難を乗り越えよう
- 人生は山あり谷あり:逆境に立ち向かい、失敗や苦しみも乗り越えよう
- 花より団子:本当に大切なものを見つけ、磨いていこう
- 七転び八起き:失敗を恐れずに挑戦し続けよう
例4:故事成語で作る
故事成語とは、中国の古いお話から生まれた格言で、小学校高学年で学習します。現代にも通じる教訓が含まれており、学級目標にすることが可能です。
- 風林火山:個性を生かした強いクラスを作ろう
- 万事大吉:何事にもチャレンジを続けよう
- 石の上にも三年:失敗しても諦めず、努力を続けよう
- 笑う門には福来る:笑顔と感謝の気もちを大切にし、幸せな学校生活を送ろう
- 塵も積もれば山となる:小さなことの積み重ねを大切にしよう
- 鶏口となるも牛後となるなかれ:小さな成功を積み上げていこう
例5:四字熟語を自作する
漢字一字で作るパターンの発展として、自分たちが思いを込める字をもち寄り、四字熟語を作る方法もあります。小学校高学年以上になれば、440字以上の漢字を学習済みなため、四字熟語を自作して学級目標にできるでしょう。以下に例を挙げます。
- 万事考動:何事もしっかり考えて行動しよう
- 一生向上:自分を向上させ続けよう
- 自己超越:自分自身の限界を超え、自分自身を成長させよう
- 毎日挑戦:日々新しいことに挑戦し続けよう
- 純真純心:何事にも嘘をつかず、正直な心で向き合おう
- 感動感謝:周りの人々に感動し、感謝の気もちを忘れずにいよう
例6:英語で作る
小学校高学年から英語学習がはじまっていますので、高学年以降は英語を取り入れてみてはいかがでしょうか。いくつか例を挙げます。
- Dream:夢をもち、夢の実現に向かって進もう
- Respect :相手の意見や感情を尊重し、礼儀正しく接しよう
- Responsibility:自分の行動や言動に対して責任をもとう
- Collaboration:お互いに協力し合い、チームワークを大切にしよう
- Yes, we can:オバマ大統領の言葉。何事にも挑戦してみよう
Dreamについては、キング牧師のエピソードを授業で学んだのち、キング牧師の有名な言葉である「I have a dream」を学級目標にしているクラスも見かけました。単語を組み合わせる方法や、短いフレーズで作る方法がおすすめです。
小・中学校で学級目標を作るときの注意点3つ
学級目標は、4月に時間をかけて作ったにもかかわらず、形骸化してしまうケースがあります。誰かひとりの意見をそのまま多数決で決めてしまった場合や、多くの意見を取り入れようと複雑なものになってしまうと、形骸化してしまう可能性が高いでしょう。そのような形だけの目標にしないために、以下の3つの点に気をつけてみましょう。いずれも子どもと一緒に労力をかけず取り組めますので、ぜひ意識してみてください。
1:シンプルで覚えやすくする
シンプルな学級目標は、さりげなく担任の講話に入れて使うこともできるため、子どもの印象に残りやすいです。筆者は学級目標が短い単語になった場合、学級通信の題名に使うことで、子どもや保護者の目に触れる機会を増やしていました。
2:具体的な行動目標に落とす
学級目標を立てたら、達成するために必要な行動を考えて、一人ひとりの行動目標まで落とし込むとよいでしょう。例えば「一期一会」という学級目標であれば「1日1回、クラスメイトに『ありがとう』を言う」という具体的な行動に落とします。
抽象的な言葉だけでは具体的にどうすればいいかわからないため、形だけの目標になってしまうことが多いでしょう。
3:振り返りの計画を立てる
2で考えた行動目標について、少なくとも月に1度は振り返りの機会を設けます。筆者は月末のホームルームの15分ほどを使い、目標に対する振り返りを習慣として行っていました。その月にどのような行動をとれたか、翌月に向けて改善したほうがよいことはあるか、などを思い出すことで、学級目標を意味あるものにしていました。
学級目標は形骸化させない工夫が大切です
学級目標は、学級運営がスタートする4月において、子どもの意識を同じ方向に向けるチャンスです。それぞれの個性を生かしながら集団として同じ方向に向かって進めば、行事などを通じて、個人では成し得ない大きな達成感を得られるかもしれません。そのはじめの一歩として、学級目標作りをいかしていきましょう。
本記事では学級目標の例を挙げました。子どもの柔軟な思考と発想力を活用しながら意見を募ることで、よりクラスの現状にあった素敵な目標が作れるでしょう。子どもたちは、大人では考えつかない素晴らしい発想をすることが可能です。彼らの力を借り、一年間胸の内に残り続けるような、意味のある学級目標が立てられることを願っています。