どう対処する? 担任の先生ができる発達障害の子どもとの向き合い方

文部科学省が令和4年に発表した調査によると、小中学校において8.8%の児童生徒が「学習または行動面において著しい困難を示す」、所謂「発達障害」とされています。しかし、一口に「発達障害」と言っても、その症状は数多くあり全てを理解するのは難しく、教員の人手不足もあり十分な支援があるとはいえません。今回は発達障害について理解を深めるとともに、特に通常学級に在籍する障害を抱えた子どもに教育の現場に立つ担任教員としてできることを紹介していきます。

教育現場と発達障害

現在は「共生社会」への実現に向けて発達障害を抱えた子どもも学習ができる条件整備が着実に進み、学校に通いやすくなってきました。まずは制度として学校はどんな支援をしているのか、それに対しての教員の役割や現状の問題点を確認します。

増える発達障害の子どもたち

この10年で確実に発達障害の子どもは増えていると言ってよいでしょう。平成24年に実施された文部科学省の調査では「学習または行動面に著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合は6.5%でしたが、令和4年度は8.8%と一般的な30人学級で考えると、実に1クラスに約3人は発達障害を抱えた子どもがいる計算です。詳細な内訳を見てみると、小学生は10.4%、中学生は5.6%となり全国で推計すると、実に約80万人の児童生徒が「困難を示す」状況にあります。

ただし、この調査は学校や担任教員への聞き取りによるものであることに注意が必要です。病院や医師への調査ではないため、この中には医学的な見地から見ると「発達障害」ではない子どもがいる可能性も十分に考えられます。この増加は発達障害が広く認知され教員の持つ感度も高まった他、保護者の側にも普通の学校でも支援を受けられる認識が広まった結果ともいえるでしょう。

参考文献:

初等中等教育局,”通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について”.文部科学省.令和4年12月13.https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.html(参照2023-2-14)

初等中等教育局.”通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について(平成24年度)”.文部科学省.平成24年12月5日 .https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.html(参照2023-2-14)

そもそも「発達障害」とは何か

発達障害者支援法において「発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義付けされています。広く発達障害として認知されているのは他人とのコミュニケーションや対人関係が難しい自閉症スペクトラム障害やアスペルガー障害ですが、他にも集中が難しい注意欠陥多動性障害(ADHD)や、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算」の5つの能力に困難が生じる学習障害(LD)も発達障害の一種です。その他、吃音症やトゥレット症候群なども「発達障害」に含まれます。

しかし、医学的には知能検査によって確認される知的障害も発達障害も含めて更に広い範囲で「精神障害」として括られており、前者2つは知的障害を伴うこともあります。また、1人が一種類の症例だけを発症しているとは限らないので、実際の支援の場などでは様々な症例に複合的に対処することが必要になります。

参考文献:

国立障害者リハビリテーションセンター.”発達障害とは”. 国立障害者リハビリテーションセンター.http://www.rehab.go.jp/ddis/understand/whatsdd/(参照2023-02-14).

初等中等教育局.”発達障害者支援法(平成16年12月10日法律第167号)”.文部科学省.平成28年6月3日.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/1376867.html(参照2023-2-14)

厚生労働省.”知的障害者福祉法(昭和35年03月31日法律第37号)”.厚生労働省.令和4年6月22日. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=83024000&dataType=0&pageNo=1(参照2023-2-14)

学校における発達障害への対処について

現在、文部科学省では障害のある子供の学びの場について、障害者の権利に関する条約に基づく「インクルーシブ教育システム」の理念の実現に向け、障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限り共に教育を受けられるような制度改革が行われています。ここでいう障害のある子どもは発達障害だけではなく、身体的な障害なども含んでおり、広く障害を持つ子どもたちの学ぶ権利を保証するものです。

これまでは特別支援学校の設立や、一般の学校においては特別支援学級を設置するなど基本的には障害のある子どもは分けられてきましたが、一部特別な配慮が必要なものの通常の授業に参加できるのであれば通常通りの授業を受けることも可能になりました。

そのために学校において進められている事の1つが環境の改善、いわゆるバリアフリー化です。学校内にエレベータを設置したり階段の段差を小さくしたり、机を大きなものにするなど施設や道具そのものを使いやすいものに変更することが盛んに行われています。また実務面でも個々人の障害の状況に応じた「合理的配慮」という新しい概念によって、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導の提供が義務付けられました。これまでも障害を抱えた子どもの将来的な自立と社会参加を見据えて公教育は行われてきましたが、この「合理的配慮」により、更に細かく子どもたちの障害の状況に個々人の発達の段階や進路希望なども加味した、柔軟な教育が行われることが期待されています。

参考文献:

初等中等教育局.”共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要”.文部科学省.平成24年07月 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.html(参照2023-2-14)

初等中等教育局.”障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~”.文部科学省.令和3年6月https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250_00001.html(参照2023-2-14)

求められる「合理的配慮」と教員の限界

積極的に発達障害への支援を行おうとしている行政に対して、教育の最前線である教室、特に通常学級においては教員が則った通りに動くというのは非常に難しいものがあります。勿論、「合理的配慮」という概念自体が新しいものであり、学校側も教員も未だ理解が乏しいのは否定できません。

しかし、先に挙げたように一口に「発達障害」と言っても症状や程度は1人ずつ異なり、求められる支援も様々です。個別のニーズに対応すると支援には福祉や医療など教育とは全くの別分野も関わってきますので、「合理的配慮」の実施自体が、学校に在籍している一般的な教職員だけでは不可能と言わざるを得ません。実現に向けて理学療法士などの専門家を学校へ配置することも進められていますが、それでも通常の授業準備や部活動の顧問、他にも事務的な事柄など既に現状でオーバーワークが常態化している教職員に対して、これ以上の負担を強いることは非現実的でしょう。

また教員が不足している実情もあり、合理的配慮の中で障害を持たない子どもたちへのケアが疎かになるケースもあります。授業中何かしらのトラブルが起きたとき、教員は解決を図りますが、解決に至るまで関係のない子どもたちは何も出来ません。自習になる上に時間は圧迫され、満足な授業を受けられない。そうなると、子どもたちの間には不信感が募ります。総じて、現在の行政や現場での取り組みは、障害を持つ子どもたちをケアする体制は進んでいるが、そうでない子どもたちへの対応や現場負担への対処が後手に回っている非常に危険な状態であると言えます。

教室で教員ができる対処について

ここまで現状の発達障害を取り巻く教育現場の状況を確認してきましたが、今回は学校内でも「通級に通う子どもたち」に対して教員ができる対処について伝えていきます。しかし、先に述べた通り、これらの対処を行うことが教員自身の負担になったり、障害のない子どもたちへの不利益になったりしてはいけません。その点は注意が必要であることは決して忘れないようにしましょう。

まずはそれぞれの「特性」を確認することから

何をおいても発達障害を抱えた子どものことを教員自身が理解することから始めなければなりません。ここで言う理解とは、様々な症例が混合した発達障害を全て把握することではなく、単に「あれが好き」「これが嫌い」というように、子ども自身の得手不得手などを知ることです。何が出来るかが分かるだけでも、その得意なことに訴えかける授業に改めるだけで格段に伝わりやすくなるので、教員として授業の組み立てをしやすくなるはずです。多くの場合、発達障害を抱えた子どもは言語から理解することが難しいとされているので、写真やイラストを多用して視覚的に伝える、黒板への記述で説明するなどの対処も考えられるでしょう。

加えて、これらの特性を理解することは他の子どもとの軋轢を生まないためにも必要です。発達障害を抱えた子どもが合理的配慮を受けることは確かな権利ですが、何も知らない他の子どもたちの目には「先生がひいきしている」「学校が特別扱いをしている」という風に映ります。結果として子ども同士のトラブルに発展することも少なくありません。その時に、教員が症状を理解していれば他の子どもへ障害に関する理解を深めるような説明も可能になります。

参考文献:

厚生労働省.”発達障害の特性(代表例)”.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/e-learning/hattatsu/characteristic.html.(参照2023-2-14)

富山大学 西館有沙 筑波大学 徳田克己 筑波大学 水野智美.”障害理解研究(16) 小学校における発達障害理解指導の現状と課題”.日本障害理解学会.平成27年10月1日.http://bfree.no.coocan.jp/jsrikai/paper1-No16.pdf(参照2023-2-14)

家庭との連携を緊密に取ること

子どもの一番の理解者である保護者の参加なしで学校での支援を進めることはできません。2016年6月の発達障害者支援法の改正で通級や特別支援学級に通うすべての子どもへの「個別の教育支援計画」の作成が義務化されました。これは障害を抱えた子供たちに対して、本人の目標の設定、それに対する教員・学校の取り組み、そして、その結果や改善策などを本人・保護者と話し合い共有するものになります。発達障害、特にアスペルガー症候群を持つ子どもは、周囲とコミュニケーションを取ることが難しく、その難しさ故に周囲の子供たちとの軋轢を生むことも少なくありません。結果、学校だけで起きている問題というのも存在します。保護者としては、学校での様子は非常に気になるところです。学校での様子、家庭での様子をこの計画を基にして、報告し合うことで保護者の連携を取りやすくなり、子どもに対する共通理解も進みます。また、子どもの成長に合わせた最適な支援策を考えるためにも、本人・保護者との話し合いは大切です。

ここで注意したいのは、教員は問題行動の報告が目的ではないということです。勿論、トラブル報告は同様のトラブルを防止するためにも必要ですが、本旨は子どもたち自身が安心して学校生活を送れるようにするところにあります。出来なかったことよりも出来たことを褒め、発達障害を抱える子どもの学びにくさや行動の意味を一緒に考えるようにしましょう。また、合理的配慮は学校と本人と保護者の合意形成によって成立していますので、保護者からの要望を確認したり、反対に教員・学校側から家庭に対してのお願いを伝えるツールとしての活用も考えられます。

参考文献:

障がい者総合サポートセンター さぽーとぴあ.”サポートブック かけはし”. 大田区ホームページ.令和4年12月22日.https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/kodomo/hattatsu/hattatsusyougai/supportbook.html(参照2023-2-14)

初等中等教育局.”今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)参考1「個別の教育支援計画」について”.文部科学省.平成21年.htps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361230.htm(参照2023-2-14)

初等中等教育局.”特別支援教育について 資料5 個別の指導計画の様式例”.文部科学省.平成22年10月.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1298214.htm(参照2023-2-14)

笑ったり、励ましたり、緊張しない教室環境を作る

発達障害のあるなしに関係なく、子どもが安心できる教室環境を作ることは担任の責務と言ってよいでしょう。そのような環境を作る最も簡単な方法は、教室に入ったら元気な声で挨拶することです。相手からの挨拶がなかったとしても、こちらから積極的に挨拶することで歓迎ムードを演出し、子どもの緊張を和らげることができます。特に子ども同士でのコミュニケーションが難しい状態であれば尚更、教員が積極的に挨拶をしにいくことが重要です。この時は、話し方も聞き取りやすい声でゆっくり話すようにすると、更に子どもの安心感が増します。

また、とにかく話をしてみるということも重要です。相手との関係を構築するためには会話が欠かせません。基本的には一般的な当たり障りのない話題でも構いませんが、先に保護者と家庭での様子や本人の興味関心を惹くことが確認できているならば、そのあたりの話題から入ってみるというのも一つの手段です。ただし、状況によってはコミュニケーションをしたくない、一人でいる方が落ち着く場合もあるので、そのあたりは子ども本人の希望に合わせるのが望ましいでしょう。無理にコミュニケーションを取ろうとすると、却って子どもに「コミュニケーションを取らなければ」「会話しなければ」というプレッシャーを与えてしまい、逆効果になってしまいます。特に、大勢で話しかけることは誰と話せば良いのか分からず、パニックになりやすいので避けた方が賢明です。

分かりやすく明確なルールの設定を忘れない

発達障害を抱えた子どもが苦手にしていることの一つに、いわゆる「暗黙の了解」というものがあります。「適当」など曖昧な表現に対しては、発達障害を抱えた子どもたちは思いつく限りの可能性を考えてしまい、瞬時に何をするかの判断が出来ず他から出遅れることになります。また醸成された「暗黙の了解」が分からないために言葉を額面通りに受け取ってしまい、特に子ども同士の間では「空気が読めない」ことになり、後に大きなトラブルに発展することも、決して少なくありません。

このような事態を避けるためも、ルールの明文化は有効な手段です。行動や発言についての軸を定めておくと、子どもも「何をすればよいのか」が分かり動きやすくなります。教室の中、学校の中では音声では理解しにくいことを考慮して、絵やイラストなども活用した掲示物を作成しルールを徹底する、また先ほどの「個別指導計画」を活用すれば子どもが守るべきルールを保護者とも共有できます。また、実際の授業においても、説明の際には曖昧な表現をせず、ストレートで分かりやすい表現に改めることも必要です。

ルーティーンを作れるとかかる時間を減らせる

教員がルーティーンで動くことは発達障害を抱えた子どもにとっては、ルールの明文化と同じように彼らの中に軸を作ることに繋がります。

例えば、授業が始まったと同時に提出物を回収すると決めて教員が行動していると、子どもも開始時点で提出物を用意する習慣付けがなされやすく、何をしたらよいのかで悩む時間も回数も減らせるでしょう。また変化がないこと自体が自宅のような安心感を与えることにもなります。パニックになることも減り、子どもたちもリラックスして授業を受けることができるでしょう。

また、ルーティーンを作ることは教員にとっても非常に重要です。発達障害を抱えた子どもたち、それぞれに個別の対応が求められているのは承知していますが、やはり30人も子どもたちがいれば万全に対応するのは困難でしょう。そこでルーティーンが利いてきます。習慣化が出来れば子どもたちは教員が指示することなく自主的に動いてくれるので、提出物の回収やプリントの配布などの事務的な物事にかける時間を減らすことができ、授業や生徒・保護者対応に時間を回すことが出来るようになります。

教員一人での対処は不可能だと知っておく

現在、発達障害とされる子どもが増えていく中で、比例するように教員の休職数が増加している状況があります。休職には複合的な理由が存在するとは思いますが、ただでさえ教員個人への負担が莫大な中で、更に学校や保護者から合理的配慮まで求められて立ちいかなくなってしまった教員がいないとは私は思えません。他の教員、特にベテラン教員や校長などの手を借りる、それでも足りなければ専門家を招聘するなど、1から10まで担任一人で対処をするのではなく、発達障害には学校全体で支援を行うことが必要です。向き合い方に悩んだ時は、そのことを全体で共有し解決策を模索していきましょう。

参考文献:

井艸 恵美.”「発達障害」増加の裏で教師の休職続出が止まない | 「発達障害」は学校から生まれる”.東洋経済オンラインニュース.令和4年4月5日. https://toyokeizai.net/articles/-/578546(参照2023-2-14)

最新情報をチェックしよう!