カンニング対策とその後の対応を現役教員が徹底解説!

毎年のように大学入試ではカンニングが発覚しています。文部科学省を始め、各校も不正行為の防止には心を砕いていますが、それでも不正行為は後を絶ちません。そして、カンニングは大学入試に限った話ではなく、中高生の定期テストでも起こりえます。大型連休の直後には中間テストが実施される学校も多いのではないでしょうか。今回は、テストの不正行為の防止策と実際に子どもが不正行為をしてしまった際の対応について解説していきます。

参考文献:三浦淳.”相次ぐ大学入試不正 共通テストはイヤホン禁止に 文科省も対策通知”朝日新聞デジタル.2022年6月8日.https://www.asahi.com/articles/ASQ685VHWQ68UTIL012.html(閲覧日2023年3月28日)

テストの不正行為は教員として見過ごしてはいけない

テストは、現時点での子どもたちの学力を測ることは勿論ですが、その結果を目に見える形として出力し、今後の改善点などを判断するための材料の一つです。そこでカンニングを見逃してしまうと、正確に成績を確認することができなくなります。試験の適切な実施のためにも不正行為は見逃してはなりません。

参考文献:小原擁.”人はなぜ悪いことをしてしまうのか”.日経ビジネス.2022年6月17日https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01139/(閲覧日2022年4月8日)

子どもは「成長」よりも「目先」に目が行く

私は子どもとテストの不正行為は切り離せないと考えています。例えば、テストの最中「あと1点で合格できるのにどうしても最後の1問が分からない」という経験は皆さんもあるのではないでしょうか。そんな極度のプレッシャーがかかる中で、ふと周りを見れば答えがあるとなれば子どもが不正行為に走ってしまうのも理解できます。

子どもたちは、テストの目的を理解していても得られるかどうか分からない将来的な成長よりも、お小遣いなどの魅力的な褒賞が絡んでいる目先のテストで得点することの方がより重要です。褒賞がなくとも単純な「良い点を取りたい」というのも、全ての子供が持つ不正行為に繋がる動機と言えます。だからこそ、子どもは不正行為をする可能性があることを教員は意識しなければなりません。

カンニングのやり方は高度化している

2022年の大学入試共通テストでは、受験者がスマホを利用して試験中に問題を外部へ流出させ解答を得るなど、年々テストにおける不正行為は高度になっているのが実情です。中高生でも1人1台スマホを持っているのが普通になり、今後もスマホなどの電子機器を活用した不正行為が増える可能性は十分に考えられます。共通テストではイヤホンは禁止になりましたが、対策する側とされる側のいたちごっこは今後も続くでしょう。

カンニングのテクニックが高度化する中で、従来のようなカンニングペーパー他人の答案を盗み見るなどのローテクな不正行為も引き続き横行しています。私も試験監督をする中で、筆記用具のあちこちに答えを隠していた子どもを何度か見つけました。これらの不正行為は電子機器を利用することに比べると証拠が残りにくく、会場内への持ち込みも警戒されにくいという利点があります。子どもからすると手軽にできる不正行為と言えるでしょう。

参考文献:朝日新聞デジタル.”共通テストの問題流出、19歳少女が香川県警に出頭”.2022年1月27日.https://www.asahi.com/articles/ASQ1W53LSQ1WUTIL025.html(閲覧日2023年3月28日)

カンニングが発見できないと教員の「公平感」が失われる

テストが子どもたちの実力を測るものである以上、その実施には厳正さや公平さが必要になります。勿論、子どもたちに得手不得手がある以上、結果まで公平にはなりませんが、その差は子どもたちの努力の差です。この差を手軽な方法で埋めることは、他の子供たちの努力を無視することに他なりません。真面目に努力している子どもにとって、不正行為で高得点を取ったクラスメイトは非常に許しがたいものです。結果として、いじめなどに繋がる可能性もあり、子どもたちの間に分断を生む火種にもなります。

一度でも不正行為を見逃してしまうと、それは子どもの間で不正行為を正当化する十分な理由となり、徐々に他の子どもも不正行為を行うハードルが下がってしまいます。テストに対する公平感が失われることは、正確な効果測定にならないだけでなく、子どもが教員への信頼をなくす十分な理由です。

不正行為への有効な対策 5選

不正行為への有効な対策は、総じて子どもがカンニング行為をしにくい環境を作ることにあります。普段からの子どもへの働きかけは当然ですが、テスト準備を行う教員の行動も不正行為を防ぐ有効な手段です。場面ごとに不正行為をしにくい環境を作りましょう。

普段から 不正行為に対する対処を見せておく

まずは普段から子どもに対して、不正行為に対する教員、学校側の姿勢を見せることから始めます。実際に不正行為を行った場合にどのような処分が下されるのかを明確に子どもたちに伝えることで学校全体で不正行為の防止に取り組んでいることをアピールし、子どもの不正行為への心理的なハードルを上げることが目的です。また、学校では定期テストだけではなく、日常的に小テストも実施されているでしょう。不正防止には例外を作らないことも大切なポイントです。小テストであっても不正行為を見逃さず、厳正に実施されるように取り計らいます。

このように不正に対する厳格さを見せる一方で、同時に子どもたちへの信頼を示すことも必要です。人は誰しも疑われることに対しては不快感を持ちますが、反対に期待に応えようとすると強いモチベーションを生みます。教員から「正々堂々、不正なく試験を受けよう」というメッセージを発信し続ければ、子どもの側にも「フェアに受けよう」という意識が芽生えるでしょう。

テスト準備中 会場内を隈なく確認することから

テスト前には会場となる教室の清掃と整理整頓を行います。会場内の整理整頓は、不正が行える教員の死角を潰すことが目的です。監視が行き届いている状況では人は不正をしにくくなるため会場の入念な準備は、突発的な行為も入念な準備の上で行われる場合も、どちらにも対応できる単純で有効な手段と言えます。また、他の子供の陰に隠れて行われる場合も多いので、例えば、背の高い子は教室後方の座席に配置するなどの子どもの座る場所にも注意が必要です。机の中や下側など、教室の中には教員の死角になる場所が多数あります。準備が終わった後は、教室を隈なく見渡して全体に目が行き届くか確認しましょう。その他にも掲示物を撤去しテストのヒントになるものを残さない、机の上の落書きなどは消す、座席の間に十分な距離を取るなど、不正行為に繋がる要素を事前に教員で摘んでおくことが重要です。子どもの側にもテストに関係ないものは持ち込ませないことを徹底させましょう。

テスト実施中 やはり不正防止の基本は机間巡視

教員の監視と関心が緩んだ一瞬を狙って、子どもはカンニングをします。テスト中に別の業務をしてしまう教員もいますが、子どもがカンニングをする機会をなくすためにも試験中の机間巡視は欠かせません。

教室の隅々まで目を光らせ、子どもたちに「見られている」プレッシャーをかけましょう。また机間巡視の際には、教室内を不定期、かつ様々な順番で周回することが重要です。一方向から定期的に巡視するのでは、継続的に完全に教員の死角に入る子どもが出てきてしまいます。カメラのように定点から見るのではなく不規則な動きで死角を潰し、不正行為をする機会を失わせましょう。カンニングを行う子どもを見つけること自体は、さほど難しくありません。例えば、教員の監視が緩む機会を窺っている場合、不思議と子どもとは目が合います。周囲とは異なる動きをしている子どもは要注意です。

テスト終了時 状況に応じた回収の方法を検討する

カンニング防止のためには、テストが終了後に全ての答案を回収するまで気を抜いてはいけません。回収の際は、誰もが気を緩めるので、この瞬間を狙って回収中の答案を見るというような不正行為の方法も存在します。このような事態を防ぐためには、子どもに集めさせるのではなく、試験監督が会場内を動いて回収するのも一つの有効な手段です。受験者数や会場の大きさなどに応じた不正行為をしにくい回収方法の検討をしましょう。

また、不正行為が疑われるような子どもがいる場合、回収のときが最も注意すべきポイントと言えます。基本的に不正行為を確認するためにはカンニングペーパー等の証拠が必要です。当然、これらを試験終了後まで持っているはずがありません。証拠の隠滅を画策するなら回収の際の喧騒はうってつけと言えます。最後まで絶対に子どもから目線を切らず、緊張感を持ったままテストを終えることが重要です。

Webテストでの不正行為を防ぐには?

今回のコロナ禍で一部の高校では、オンライン試験を導入しました。オンラインで自宅で試験を受ける場合、上記のような試験監督を行うことは非常に困難と言えます。更に言えば、子どもたちからすると、ネットに繋がっているのだから、検索すれば答えをコピーアンドペーストすることも容易です。実施から採点まで監視用のAIを導入するなど対策は確かに存在しますが、少なくとも中学・高校の定期テストで導入するにはコストが大きいため、基本的にWebテストにおいて不正行為を十分に防止する方法がなく、結局のところ、受験者を信頼して実施するという性善説になってしまいます。

どうしても不正行為への対策が万全にならないならば、開き直って不正行為を前提にテストを作成するというのも1つの手段です。基本的に学校の定期テストは知識を前提とした語句や選択問題が多数を占めています。しかし、それでは事前に答えを書き込んだメモを持ち込むなど不正行為も容易に行えます。そこで、インターネットの利用や文献調査などを前提として知識を有効に活用できるかを測る記述形式への変更です。知識の質を測る試験へと転換すれば、考えられる不正行為は全て意味をなしません。2020年の教育改革における柱の1つでもある「思考力・判断力・表現力」も同時に養える有効な一手と言えるでしょう。

参考文献:ダイヤモンド社教育情報 森上教育研究所.”「開成」はなぜ定期試験をオンラインで行うことができたのか”.ダイヤモンドオンライン.2020.11.25.https://diamond.jp/articles/-/255263(閲覧日2023年4月8日)

参考文献:パーソルワークス.”オンライン試験でカンニングや不正行為は防止できる? 監視方法や対策を徹底解説”2023.01.25.https://www.persol-wd.co.jp/column/online-exam-cheat/(閲覧日2023年4月1日)

不正行為が発覚したときにすべき教員の対応

どれだけ厳正に実施しても不正行為が行われる可能性は十分に考えられます。もし、子どもが不正行為をしてしまったときはどう対処すれば良いのでしょうか。ここからは実際に不正行為が行われてしまった場合の対応について解説します。

もし不正行為や疑わしい行為を見つけたら

実際にカンニングの証拠を押さえでもしない限り、不正行為を100%実証することは教員側には不可能です。それでも試験中の不審な動きや成績の上下、普段の成績状況などから、不正行為が疑われる子どもがいます。そのような場合、最初に子どもに対して、試験中の行動が疑わしい状況を作り出している事について指導が必要です。個別の指導だけでも、もし実際に不正しているならば強烈な牽制になります。ここで重要なのは、教員はしていないと信じている姿勢での指導です。「するな」の一言で終わらせるのではなく、「することで君が疑われるのが悔しい」と伝えることで、不正行為をしていなかった場合でも信頼を無くすことなく指導を終えられます。

また、実際に試験中に不正行為を発見してしまった場合は、その場で失格を言い渡したり、退席を命じたりはしません。下手に騒ぎ立てると子ども自身の名誉を傷つけるばかりでなく、他の子どもへの監視の目が行き届かなくなってしまいます。静かに不正の証拠を回収し、後ほど面談を行うことを伝えて何事もなかったかのように、試験終了まで振るまいましょう。

最初の誤ちだけで済ませるために

子どもが不正行為をする理由は、誰しもが持っている小さな承認欲求です。しかし、どんな理由があっても不正行為が行われた場合は、宣言した通り厳正な処分を下します。ここで処分を軽くしてしまうと教員やテストの公平性が確保できなくなるため、絶対に甘い顔はしません。学校ごとに処分に関する取り決めは異なるかと思いますが、私の勤め先では「該当試験のみ」「該当期間の試験全て」「該当学期内の試験全て」「該当学年全て」の4段階で試験の失格対象が広がる処分になっていました。

実際に処分を下す場合、保護者の立ち会いが望ましいです。処分の正当性を明確にするためにも、本人だけではなく、家庭とも処分に至る経緯や、試験に関係するルールを共有します。また、大人から糾弾されることに対して、特に明らかな非が子ども側にありますので、子どもだけでは耐えきれません。保護者を入れることで、家庭内でのフォローをお願いしましょう。

カンニングは事前の防止策が最も重要

「褒められたい」「認められたい」という子どもの純粋な気持ちが悪い方向へ現れた結果がカンニングです。テスト自体に他との比較という性質がある以上、子どもにカンニングする動機は常に付いて回るため、不正行為を防止するには徹底的にその機会を潰すことが重要になります。子どもを信じることは大切ですが、公平で厳格にテストを実施するためにも試験のときには、日頃よりも強い関心と監視を子どもたちに向けましょう。

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