【校長インタビュー#15】昭和女子大学附属昭和中学校高等学校の真下峯子校長へインタビュー!

今回は、昭和女子大学附属昭和中学校高等学校校長の真下峯子先生にお話を伺いました。教員に必要なマインドや、教員力をどう身につけていくかなど、教員を目指す方だけでなく現職の方にとっても非常に勉強になるお話を伺うことができました。

真下先生は、奈良女子大学理学部生物学科を卒業後、埼玉県立中学・高校の教員、県立総合教育センター主席指導主事、県立高校校長、私立女子中高校長などを歴任され、2020年4月より昭和女子中高の校長をされています。

「教員こそが自分のやりたいことをやれる選択肢だった」
自分の好きを職業に

ー教員を目指したきっかけを教えてください。

真下先生(以下敬称略):高校で学んだ生物の発生の仕組みが面白くて仕方がなくて、大学の生物学科へ進学して勉強しました。学生時代は自身のキャリアについてあまり考えていなかったんですが、とにかく生物が好きでした。この「自分の好き」は変わらないわけなので、その変わらないものを職業にしようと思ったら、学校教員という職業の選択肢だったのです。
自分の興味関心を維持するとともに、その気持ちを生徒に伝えたいと思い教員になりました。

「教員に必要な力は自分で身につけていくしかない」
存在感のある先生になるために

ー真下先生は元々公立の教員をされていて、大学院派遣研修や教育委員会に行かれるなど学校内に留まらず活動してこられたとのことですが、元々いろんな事に積極的に取り組まれるタイプだったんでしょうか。

真下先生:そうですね、私自身が県立の女子校の出身なんですが、そこで「何でもやりなさい、自分たちが思ったらどんどんいきなさい」と、先生方が自立を迫る環境で育ってきたんですね。ですから教員になってからも、「自分これではまだ足りない」と思うものを常に追ってきました。

教員をしていた時は、生徒にとって存在感のある先生になりたいと思っていました。「ああいう先生もいたな」くらいじゃだめで、「あの先生強烈だったね」ってところまでハイパフォーマーにならないとダメだと思っていました。じゃあ、そのためには何が必要なのかと考えて振り返ってもみると、自分の足りないところっていっぱいあるじゃないですか。それに対して県が提供してくれている研修を受けたりしましたが、でも与えられた研修の中に自分が求めているものが常にあるわけではないので、そういう時は自分で探して掘っていっていましたね。

ー具体的にどんなことをされたんですか。

真下先生:様々な事をしましたが、生物の教員としては、他の学校の生物の先生との研究会が一番効果があったなと思います。いろんな学校の生物の教員が集まって、ある題材についてどう授業するか相談して、それを自分の学校に持って帰ってやってみて、また集まって相談するんです。東京大の駒場に佐藤八十八先生がいらして、1か月に1回東京都の生物研究会の先生方と、埼玉県の生物研究会の先生方が集まって勉強会をやっていました。佐藤先生もそれに付き合ってくださって、濃厚な時間でした。

結局勤務している学校の中にいるだけじゃ、情報が足りないことがあるんですよね。外に出て、同じような思いの人たちと繋がったり、他の人たちが何をやっているのかキャッチしたりすることで進化するものがあるんです。

ー組織内ではどうにもできなかったこともあると。

真下先生:組織内でももちろん、「この先生すごい」と思う方に沢山出会いました。
教員力の形成って、教育に対する信念があって、それに「この人すごいな」って思うような人たちの考えをくっつけていって、一つになるって私は思っているんです。すごいと思う人のスキルやノウハウをくっつけていって、自分を形作っていければいいと思っているんですね。校内にもすごい人もいたけれど、でも私はそれだけじゃ足りなかったんです。

例えば最初は商業高校にいて、次に進学校に転勤しました。商業高校にいた私が、進学校に行った時に全く通用しないのは悔しいじゃないですか。商業高校から来たから通用しないんだって言われたくないわけですよ。ですから商業高校にいても大学の先生のところに通って、いろんな力や指導力を自分でつけて行くんです。それでその次は生徒指導の大変な学校に行くとしますよね、今度は進学校にいたから生徒指導できないでしょって言われるのが悔しいわけですよ。

ー今いる自分と、目標にしている自分との乖離を埋めないといられない…という感覚ですか。

真下先生:そうです、埋めたらまた次に行くんです。自分が教員として一生仕事していくとしたら、どんな力がないといけないのか。教科指導とか生徒指導とかクラス運営とか、本当にたくさんありますよね。だから「自分これじゃ足りない」って思い続けている感じなんです。そしてその力は、自分で行動して、自分で身につけて行くしかないじゃないですか。

「生徒が意思決定するために、自分がどれだけの情報を渡せるかが重要」
教員に必要な責任感と覚悟

ーそういった思いで生徒を指導する中で、印象に残っているエピソードはありますか。

真下先生:もう何十年も前の事ですが、今でも覚えている事があります。
男子校に転勤してすぐに高校3年生の生物の授業を持ったんですね。そのクラスは理系のクラスでしたが、文転している子がいたんです。文転して文系学部に行くと決めていたようですが、高3になって生物の授業と数学の授業を受けて、やっぱり医者になると考えを変えたと聞きました。高校の3年生の生物って最先端の話ですから、とっても面白いんです。おしべが何本あるとかそんなレベルではなくて、今、生命科学の最前線でどういうことが起こっているかを学べるので、もともと関心を持っていた人は更に興味が出てくるじゃないですか。

その生徒が浪人した時は「この生徒の人生、変えてしまったかもしれない」と本当に心配しました。でも、彼はへこたれなかったんです。浪人しても挑戦を続けて、医学部に入り、ちゃんと目標を達成しました。

ー「この生徒の人生、変えてしまったかもしれない」って、相当な責任感を持って生徒に対峙しているんですね。

真下先生:生徒の人生に責任を持てるだけの力がないと、教員なんてやっていちゃいけないじゃないですか。責任感と覚悟がなきゃ。結局は生徒の人生は生徒自身が決めるわけですが、生徒が意思決定するために、自分が教員としてどれだけの情報を渡せるかって、とっても重要なことですよね。

人の人生に関わるって怖いとは思うけれど、でもこうして生徒が自分の授業を聞いて興味を持って、将来に活かしてくれる。それって教員の醍醐味でしょう。こういったことを先生たちに味わって欲しいと思いますね。

「理系に進みたい女の子たちにどうやって対応していくのかが勝負」
昭和女子中高の取り組み

ー真下先生は理工系のキャリア形成、中でも「工学部を女子生徒の選択肢に入れる」という事に力をいれていらっしゃるそうですね。

真下先生:はい。まず、子どもたちがさまざまな事に好奇心を持ち、視野や選択肢を広げていくためには、科学的視点が必要だと思っています。それから社会においても、データを活用して社会課題を解決できる女性の高度人材が必要ですよね。

今、中学一年生の生徒2人ずつと面談をしていますですが、今日来た生徒たちの、1人はプログラミングをやりたい、もう1人はボーカロイドの音楽をやりたいと言っていました。
生徒たちはもう、大人たちが思っているようなレベルを思考してないんです。今は生成AIとメタバースに関心を持つ女子生徒がとても増えているので、学校や教員集団がこの「理系に進みたい女の子たち」に、どうやって対応していくのかが勝負だと思っています。

ー理系の中でも、工学部へ進学する女子生徒は未だに少ないと聞きます。

真下先生:そもそも、工学部に建設や土木といった間違ったイメージを持っている教員や保護者が、まだまだ多いんです。でも、工学って研究を実装していく学問で、非常にバリエーションに富んでかつ重要なものなんですよね。でも、それをまず大人である、多くの教員と保護者が知らないのが現状です。
ですから、子どもたちの理工系の進学を進めていくためには、生徒本人はもちろん、まず教員と保護者のマインドセットをしていかなくてはいけないと思います。

先生たちには、今あるものを変えるとかではなく、もう全く違う時代が来ている。先生たちがついていけないと子どもたちに追い抜かれちゃうよ。そして更に、追い抜かれた時に自分達が生徒たちに何を提供できるのかを考えることが必要だよ。という話をして意識改革を図っています。

ー実際に昭和女子中高では、どんな取り組みをされているんですか。

真下先生:中学入学時から6年一貫のスーパーサイエンスコースを作るなど、さまざまな取り組みをしています。またこのコース以外にも、理系文系問わず全ての生徒が数学I・A、II・Bまで学び、データサイエンスやプログラミングの授業に取り組んでもらうカリキュラムを用意しています。

例えば、小学校でプログラミングが必修になりましたが、中学校では、情報に関する教科がないんですね。高校になると情報の授業があるんですが。そこで、ここに着任した年、小学校で身につけたプログラミングの意欲や力を、中学校で落とさずに高校の「情報」につなぐためのカリキュラムを作ったんです。それを去年から実装しています。
先ほど話した面談に来た生徒も、プログラマーになりたくて、昭和にはそのカリキュラムがあるから受験したと言っていました。

また去年の夏休みにはデータサイエンスの特別授業を実施しました。
「学内に素敵な場所を作りましょう。これをデータに基づいて提案してください。良いアイディアをきちんとデータで証明すれば、校長が実現を検討します。」という課題だったんですが、この授業では株式会社Rejouiの菅さんをお招きして、データの作り方やグラフの見方、数をどう扱うかということを指導していただきました。

このように、探求の仕方や研究手法を学ぶために、様々な大学や企業にサポートしていただく仕組みも作っています。

ー昭和女子中高はどんどん新たな取り組みをはじめているのですね。

真下先生:私が赴任する前から、「SHOWA NEXT」という名前を掲げて、「グローバル留学コース」や「スーパーサイエンスコース」を開設するなど、新たなカリキュラムをスタートさせていたんですが、特に前校長の金子先生が「どんどんチャレンジしなさい」というメッセージを発信していたんですね。

実は私が赴任したばかりの時、生徒会の生徒が私のところに来て「前の校長先生はチャレンジしなさいって言ったけど、真下先生はチャレンジさせてくれるんですか。」と質問してきました。もちろん「当たり前よ、どんどんやればいいです。」と答えましたが、そこで改めて、生徒たちはもっと伸び伸びとチャレンジしたいと思っているんだなと感じましたね。

ー生徒たちは学校の変化をちゃんと見て、体感していたんですね。

真下先生:そうなんです。実際に教育現場には、女の子には無理をさせないとか、女の子にはサポート役が合っているとか、という雰囲気が未だにあるんです。女の子だからこの程度でいいよ、とかね。でも、当の生徒たちはものすごく元気です。元気すぎるくらい元気。自分のやりたいことを持っていて、考えていて、いろんな事に挑戦するマインドを持った子たちが入ってきています。

この国や世界が、女の子をスポイルしないような文化を持っていればいいのですが、まだまだ難しい。ミシェル・オバマも言っていますが、インポスター症候群で自分が意思決定の場に立ってはいけないんじゃないかと、当の女の子が思い込んでいたりもします。でも本当は、女の子が持っている力を発揮できる社会にならないとダメですよね。ですから、もっと社会が成熟してそれを打破できるまでは、女子中高の存在ってとっても大切ですし、学校もどんどん変わっていく必要があると思っています。

女の子たちが活躍できる場をもっと広げてあげることと、女の子たちに、自分の能力を信じて進む力をつけてもらうことが私の大きな目標なので、学校教育を通して彼女たちに自信を持ってもらえるよう、これからもどんどん進めていきます。

「自分のことを客観的に評価できることと、自分の指導力を自分で上げようというマインドをもっていることが大切」
昭和女子中高が求める人材

ー昭和女子中高が求める先生は、どんな先生ですか。

真下先生:私たち教員の仕事って、子どもたちが何かをやるためのチャンスを用意して与えていくことだと思うんですね。それに食いついてくるかどうかは生徒次第なんですが。
だから授業の中で、「こんな面白いことがあるよ。これすごいでしょ。学問やるとこうだよ。」と、自分の教科に対する思い入れが語れるような先生が欲しいなと思います。ですから先生たちと面談をする時や採用の面接をする時には、そもそも教員になったのはなぜか、その教科の教員になったのはどうしてか、その教科の一番好きなところは何なのかを聞きます。
仕事だからもちろんお金を稼ぐためもあるんですが、でもお金だけじゃなくて、自分がすごいと思っていることを子どもたちに伝えて、子どもたちが成長していくのを見ることが嬉しいと思う人だったら教員になってね、と思いますね。

それから特に私学の教員には、自分のスキルや指導力を自分であげようというマインドを持っていて欲しいと思います。「もっともっと自分がレベルの高い先生になりたい」と。

ー真下先生のように熱意を持ち続けていく事は簡単な事じゃないと思うのですが、どんなことを意識していけば良いのでしょうか。

真下先生:結局生徒と同じで、先生も自己肯定感が上がればいいと思うんですよね。
私は周りをあまり気にしないのです。自分の自己肯定感は自分で上げて、自分で「できた」「できない」って判断しているんですが、周りにどう評価されているかを気にし始めると、苦しくなってしまうしれないですね。もちろんその評価も必要ですが、一番大切なのは自分自身が自分のことを客観評価できるかどうかだと思います。

教員に必要な力っていろいろありますし、先生が育ってきた文化とは異なることが求められることもあるわけですよ。先生はみんな真面目だから、教えられてきた事に良くも悪くも忠実になってしまいがちですが、自分の教員の力ってどうなのかなと客観的に見られるような先生たちに育ってもらいたいですね。それができれば止まらずに進んでいけると思います。

逆に言えば、これでいいのかなって考えて自分がいいと思ったら、周りに分かってもらえなくてもいいじゃないの、とも思います。しっかり力をつけて自信を持って「いい」と言えるのであれば、この私をちゃんと評価してくれない人は、そちらがダメだって思えばいいわけじゃないですか。

「熱意のある方は是非うちに来て、指導しながら力をつけて欲しい」
昭和女子中高の教員を育てる仕組み作り

ー昭和女子中高では、先生のキャリアアップのためにしていることはありますか。

真下先生:一昨年から、先生たちと1 ON 1でミーティングをしたり、授業を実際に見てフィードバックしたりする仕組みを作っています。去年までは私一人で、今年からは教頭先生と分担して面談しているんですが、その他にも学年主任と週1回、教科主任と月1回面談するようにして、それぞれの先生や委員会の活動が今どうなっているのか把握し、フォローするような体制づくりをしています。また、同じ年に入職した先生同士でチームを作り相談し合うような、横のつながりも大切にしています。

それからこれはまだ構想段階ですが、日本の学校の「教員が何から何まで背負う」という仕組みも変えられないかなと考えています。この仕組みが先生たちの長時間労働に繋がっていると思いますし、生徒一人ひとりにちゃんと向き合うためには、学習指導、進路指導、心のケアなどを役割分担して、それぞれのパフォーマンスを高めていく必要があると思っています。

ー最後に、これから教員になりたいという方へメッセージをお願いします。

真下先生:学会や研究会など、外に出て学ぶ機会も用意しています。極端に言えば、もっと次のステップに行きたいと思ったら行けばいいですし、希望があれば学ぶシステムやステージはどんどん用意しますから、熱意のある方は是非うちに来て、指導しながら力をつけて欲しいと思います。

ー貴重なお話をありがとうございました。

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